---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 根本彰(慶應義塾大学) [ねもとあきら] 発表タイトル: 日・米・仏のカリキュラム改革史における学校図書館政策 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  今次の学習指導要領改訂について文部科学省は、「社会に開かれた教育課程」「主体的・対話的で深い学び」「カリキュラムマネジメントの導入」「高大接続」などを謳い文句として、きわめて柔軟かつ多様で、大胆な教育改革を行うことを標榜している。本発表は、職員配置を含めた学校図書館の改革を行うには、大きな教育改革をうまくとらえて仕掛けをすることが重要であるととらえ、このために、日米仏のカリキュラム改革における学校図書館の位置づけをマクロに見て構造的に比較する。 (2)方法  20世紀における三ヶ国の教育課程政策の流れを文献資料で確認し、学校図書館がどのように位置づけられてきたのかについて検討する。 (3)得られた(予想される)成果  学校図書館を教育課程に位置づけるためには、言語力重視と探究型学習の二つの要素が揃うことが必要である。まず言語力についてだが、欧米の言語教育は歴史的に自己表現ないし自己思想構築の技術を重視していた。ただし教育学的には19世紀までは知識注入型の教育方法だったが、20世紀になって経験主義教育が導入され、知識構築型の学習へと展開していく。学校図書館は言語力+知識構築型学習の必要性が明らかになって初めて、カリキュラム運営において重要なものとして位置づけをもってくる。それはアメリカ、フランスで学校図書館の制度化と専門職員の制度化というかたちで実現されている。  日本では、国語教育に文学教育と言語技術教育の二つの考え方があって言語力とは何かについて揺れがあり、現在は言語技術教育にシフトしつつある。知識注入型の学習方法がいまだ主流だが、知識構築型に徐々に移行しようとしている。これは今後時間をかけて定着していくだろう。今が日本で学校図書館を理論化し教育課程に位置付けるのに好適な時期である。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 小竹 諒(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科) [こたけ りょう] 平久江 祐司(筑波大学図書館情報メディア系) [ひらくえ ゆうじ] 発表タイトル: 学校司書の職場適応行動の特徴 サブタイトル: プロアクティブ行動の視点から 発表要旨: (1)背景・目的  2014年の学校図書館法改正において、学校司書の配置が努力義務ではあるが明文化され、その資質の向上を図るため研修等を実施する必要性が増大した。そのため学校司書の人材育成に関する研究の重要性は高まっている。しかし、既存の研究には学校司書の人材育成過程全体を対象とした研究は少ない。このような人材育成について、経営学において組織社会化の概念を用いた研究がおこなわれており、これを学校司書の人材育成過程の研究に援用することは有用であると考える。本研究は組織社会化の概念の中でも「組織内の役割を引き受けるのに必要な社会的知識や技術を獲得しようとする個人の主体的な行動全般」(小川憲彦による定義)を意味するプロアクティブ行動に着目し、学校司書の職場適応行動の特徴を明らかにする。    (2)方法  調査方法は質問紙調査を用いた。調査項目は、プロアクティブ行動については、Ashford, Susan J., Black, J. Stewart.によるプロアクティブ社会化戦略尺度を、学校への適応度合いはFeldman, Daniel C.による組織社会化の段階モデルの研究を基に学校司書向けに設定した。調査対象はW市の学校司書498名であり、うち199名から回答を得た。回収率は約40%であった。 (3)得られた(予想される)成果  学校司書のプロアクティブ行動については、学校の公式的な組織や手続きについて積極的に学ぼうとしている一方で教員同士の関係を理解することについては消極的であること、他の教職員から仕事に対するフィードバックを求めることに消極的であること、職務に対して前向きに取り組もうとしていることなどの特徴が明らかとなった。また学校への適応度合いについては、行うべき業務に関してはある程度具体的に理解できていること、それらの業務を行う際の時間配分はうまく行えていないことなどの特徴が明らかになった。実証的に明らかにしたこれらの特徴相互の関連性に関する分析・考察は今後行う予定である。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 赤山みほ(八洲学園大学) [あかやまみほ] 発表タイトル: 公立図書館の潜在利用者とニーズ把握の検討 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 日本の公立図書館における図書館サービスは、文部科学省告示「図書館の設置及び運営上の望ましい基準(平成24年)」(以下、望ましい基準)に定められている通り“利用者に対応したサービス”が求められている。また、これからの図書館の在り方検討協力者会議「これからの図書館像?地域を支える情報拠点をめざして?(報告)(平成18年)」(以下、これからの図書館像)に示されている通り、“図書館活動の意義の理解促進”の取り組みのひとつとして“地域社会の現状を把握し、生活や仕事の上で様々な課題があることを認識”することが必要であると指摘されている。そこで、本研究は、利用者に対応し地域社会の現状を把握したうえで潜在利用者のニーズ把握を行い、図書館サービス提供の充実へ資することを目的とし、A市における図書館の利用者と周辺住民に関する実態について明らかにした。 (2)方法 日本図書館協会「公立図書館の任務と目標(平成26年改訂)」(以下、日図協目標)では“住民の大多数が地域館または中央館のサービス圏内におさまるように,必要数の図書館を設置しなければならない。その規模は,サービス圏内の人口に応じて定められる”と定められている。対象とした利用者については、図書館システムの利用者統計を用い、周辺住民は自治体の住民基本台帳を基にした年齢階層別人口統計表を用いた。利用者(1年間に図書館を利用した実利用者数)と周辺住民の年齢層を比較し、周辺住民に多いが利用者には少ない年齢層について、すなわち潜在利用者の年齢層について明らかにした。ニーズ把握は、望ましい基準とこれからの図書館像において言及があるサービスについて検討を行った。 (3)得られた(予想される)成果 結果として、利用者の年齢層と周辺住民の年齢層はおおよそ一致することが明らかとなった。ただし、周辺住民のうち二十歳未満が多く在住しているものの、年齢層にあまり利用されていない図書館分館があることも明らかになった。ニ十歳未満については、望ましい基準では“児童・青少年に対するサービス”と、これからの図書館像では“学校との連携・協力”について定められている。ニ十歳未満の潜在利用者のニーズはこれらのサービスにあるのではと思われる。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 上岡真紀子(帝京大学学修・研究支援センター) [うえおかまきこ] 発表タイトル: 米国の大学図書館界にみる教育担当図書館員に期待される役割と能力の変化 サブタイトル: 能力基準にみるビブリオグラフィックインストラクションから情報リテラシーへの転換 発表要旨: (1)背景・目的 これまでに筆者は,米国の大学図書館界におけるビブリオグラフィックインストラクションから情報リテラシーへの転換が,図書館員による教育提供の実践から,図書館員による教育改革および教育改善への参画への転換であったことを明らかにした。本研究では,これら米国におけるビブリオグラフィックインストラクションから情報リテラシーへの転換を,カレッジ・研究図書館協会のインストラクションセクションによる教育を担当する図書館員の役割や能力に関する基準の内容から跡付けて,教育を担当する図書館員に求められる役割と能力がどのように変化したのかを明らかにすることを目的とする。 (2)方法 カレッジ・研究図書館協会のインストラクションセクションが作成した図書館員の能力基準に注目し,教育を担当する図書館員に求められる役割と知識・スキルの内容が,ビブリオグラフィックインストラクションの時代から情報リテラシーの時代へとどう変化してきたかを検討する。 (3)得られた(予想される)成果 教育を担当する図書館員に対し,ビブリオグラフィックインストラクションでは,図書館利用教育を提供する「教師」および図書館の教育プログラムを管理する「プログラム管理者」としての能力が求められていたのに対し,情報リテラシーでは,新たに「情報リテラシーをカリキュラムに組み込む能力」が求められるようになり,従来の授業と科目レベルに情報リテラシーを組み込むことに加えて,カリキュラム委員会,評価委員会などの,全学レベルの教育改善の意思決定の場に参画し,それらの取り組みの中に情報リテラシーを組み込み,全学レベルの教育改革と改善に貢献する「コーディネーター」という新たな人材が特定されるようになっている。現在では,情報リテラシーの全学的展開は前提化され,教育を担当する図書館員の役割の広がりの全体像が示されるに至っている。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 薬袋 秀樹(元筑波大学) [みない ひでき] 発表タイトル: 裏田武夫、小川剛の図書館法関係著作に関する考察 サブタイトル: ―『図書館法成立史資料』以後の著作を対象に― 発表要旨: (1)背景・目的 図書館法で規定された公共図書館基準の趣旨を理解するには、図書館法の検討過程の研究が必要である。裏田武夫・小川剛編『図書館法成立史資料』(1968)は、多数の法案や意見を収録し、「図書館法成立史」で検討経過を解説している。この内容については既に検討した。裏田、小川には、同書以後、図書館法に関する数点の著作があり、法案の検討過程や図書館法の規定を論じているが、その内容や「図書館法成立史」との関係は検討されていない。 本研究の目的は、同書以後の裏田、小川の図書館法に関する主要な著作の内容を検討することである。 (2)方法 小川の専門である社会教育分野の文献を含め、裏田、小川の主要な関係著作を収集し、法の制定前後の議論を踏まえてそれぞれ分析した後、総合的に考察した。分析に際して3つの研究課題を設定した。@図書館法制定のための日・米の取り組みをどう捉えているか、A図書館法をどう捉え、どう評価しているか、B「図書館法成立史」以後の新たな指摘であるか、同書収録資料は分析されているか。 (3)得られた成果 次の5点が明らかになった。 ・日・米の取り組みについて、米国側・図書館関係者・文部省の役割のほか、米国側の取り組み、日本側の取り組みの問題点を指摘している。 ・図書館法に関して、豊かな理念と乏しい実質、実現しなかった4つの事項、社会教育総合法の評価、基準の内容等について論じている。 ・小川は図書館法の豊かな理念を評価しているが、裏田は法改正の必要性を指摘している。 ・ほとんどは「図書館法成立史」以後の新たな指摘である。収録資料のうち、取り上げた資料は少数にとどまり、その他の資料の分析は行われていない。 ・小川は、文献ごとに異なるテーマを取り上げ、多くの事項について新たな検討を行い、裏田は、制度上の課題を体系的に整理して、法改正の必要性を指摘している。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 谷口祥一(慶應義塾大学文学部) [たにぐち しょういち] 発表タイトル: VIAFによる典拠レコードマッピングは適切か サブタイトル: 日本名個人名を対象とした検証方法の提案 発表要旨: (1)背景・目的:VIAF(バーチャル国際典拠ファイル)は、各国の国立図書館等による典拠レコード(個人・団体・著作等)および書誌レコードを集積・活用し、典拠レコードの機械的なマッピングを行っている。こうした典拠データの集積と組織化の成果は、今後、多様な活用が期待できる。その前提として、VIAFによる典拠レコードマッピングの妥当性の検証が必要となる。本研究では日本名の典拠形アクセスポイントをもつ個人の典拠レコードを対象に、効率的な検証方法の提案を行い、試行する。 (2)方法:VIAFによるマッピング結果を記録したデータ(2019年2月時点)を取得した。加えて、VIAFに提供されている、国立国会図書館の典拠レコードおよび書誌レコード(2018年3月末時点)と、BNACSIS-CAT典拠レコード(2018年4月時点)と書誌レコードを入手した。ここから、日本名の典拠形アクセスポイントをもつ典拠レコードを抽出した(NDL典拠レコード744,850件、NACSIS-CAT典拠レコード424,071件)。このデータに対して誤同定と同定漏れの可能性がある部分を機械的に特定し、その後人手による判定に委ねるという、検証手順を試行した。 (3)得られた成果:誤同定の発生可能性に関しては、VIAFによるマッピング結果に基づく集計処理を行い、@単一クラスタ内に、NDL典拠レコードおよび/またはNACSIS-CATレコードが複数属するとされているものを機械的に特定した(137クラスタ;380レコード)。また、A同一クラスタに属する典拠レコードにおいて名称(付記事項を除去した個人名)または参照形や名称カナ読みのいずれも一致しないものを機械的に特定した(104レコード)。これらには、いずれも誤同定が含まれていた。同定漏れの発生可能性に関しては、B名称等が一致するがVIAFによって異なるクラスタとされた典拠レコードの組み合わせについて、リンクしている書誌レコード同士の照合を実行し合致するものを見つけることで、同定漏れを検出した。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 河村俊太郎(東京大学大学院) [かわむらしゅんたろう] 発表タイトル: 学問的知識の形成史における図書館とその購入図書を用いた手法の可能性 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  近年様々な研究によって、ある一定の範囲で共有される学問的知識の形成の歴史についての問い直しがなされるようになってきた。だが、その中で図書館を対象とした歴史的研究は、図書館は学問においても特権的なメディアである図書を中心に扱う機関であったにも関わらず、十分にこうした問い直しと関連づけて行われてこなかった。そこで、図書館、特に大学図書館を学問的知識の形成の歴史に位置づけるために、どのような手法をとれば良いのかについて検討する必要がある。そのために発表者はこれまで、東京帝国大学の図書館システムを対象に、図書館の購入図書と図書館内外のコンテキストを合わせて検討してきた。本研究ではこの手法が持つ可能性と限界について、他の手法と比較しながら明らかにしていく。 (2)方法  対象とする図書館に関わる学問の動向、親機関である大学と対象となる図書館の環境、そして教員の専門分野と、分類、出版国あるいは言語ごとの購入された図書の冊数との関係を中心に検討していくという、発表者が行ってきた手法を他の手法と比較検討する。具体的には、心理学史や物理学史で行われている実験機器などの科学史という、図書以外のメディアを通じた学問的知識の形成についての検討手法と比較する。 (3)予想される成果  本発表の手法は、図書館内外のコンテキストを検討に含めることで、学問的知識の形成について多くの論点を得られるものである。さらに、図書というメディアやその認識のされ方の一端を示している分類法を検討することの有効性についても明らかとなると考えられる。その際、図書と分類を学問的知識の形成の中でどう位置付けるのかについては、単純に一般化できず、慎重に検討しなくてはならない部分があると予想される。したがって、対象となる図書館のコンテキストの中の、どこにどのような検討を行えば良いのかを明らかにしていくことが、予想される成果となる。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 松本直樹(慶應義塾大学) [まつもとなおき] 安形輝(亜細亜大学) [あがたてる] 大谷康晴(日本女子大学) [おおたにやすはる] 発表タイトル: 公立図書館における指定管理者制度の競争環境 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  2003年,地方自治法の一部改正により指定管理者制度が創設され,公立図書館においてもその導入が進んでいる。指定管理者制度の趣旨として総務省は民間事業者等が有するノウハウの活用により,住民サービスの質の向上を図り,施設の設置の目的を効果的に達成することを挙げている。その際,事業者の選択では,最も適切なサービスの提供者を選択する必要があるとしている。その前提は,サービス提供者間の競争がよりよいサービスをもたらす,という考えである。  制度運用が進む中で,指定管理者の寡占化の指摘はあるが,サービス提供者の競争が実際に行われているかは十分明らかにされていない。そこで,本研究では,公立図書館における指定管理者制度について,競争的環境が確保されているか、さらには実質的な競争が行われているかを明らかにする。 (2)方法  本研究では,まず,図書館の指定管理者制度導入に関して,1)公募,非公募の別を明らかにする。つぎに,2)公募の場合の応募数,事業者名のデータを取得して,傾向を把握する。さらに,得られたデータから現状の競争の実態の分析を深める。  調査時期は2018年12月〜2019年3月までである。調査対象の時期は2005〜2018年度である(一部2019年度も含む)。総務省及び日本図書館協会の調査を基にした指定管理導入図書館を調査対象とした。地方自治体のうち,都道府県,区市を対象とし,町村は除いた。また,分館までを対象とし分室は対象としなかった。情報源は,主として地方自治体の議会会議録および自治体ウェブページである。取得したデータは,@都道府県名,A自治体名,B指定開始年,C指定回数,D公募,非公募の別,E指定管理者,F指定管理者の類型である。さらに公募の場合は,G応募者数,H一括して募集している場合はそのグループ,である。 (3)得られた(予想される)成果  競争的環境については,公募の比率が高いことから,一定程度確保されていることが分かった。しかし,応募事業者数については,経年的に見たときも,さらに,募集回数から見たときも減少傾向にある。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 伊藤民雄(実践女子大学図書館) [いとうたみお] 発表タイトル: 図書館向けDDA/PDA欧文電子書籍コレクションの実態と特徴について サブタイトル: DDA/PDAコレクション, NACSIS-CAT,蔵書サンプルとの比較を通して 発表要旨: (1)背景・目的  PDA/DDA(Patron-Driven Acquisitions/Demand-Driven Acquisitions)とは,試読を行った利用者からのリクエストに基き電子書籍を買切りで購入する図書館の選書方法である。米国のEBSCO Information ServiceとProQuestの両社は,競合サービスとして学術書・専門書を多く含む100万件前後のDDA/PDA電子書籍タイトルを提供している。本研究では,両社サービス(コレクション)の差異と特徴の明確化を目的に競合分析,及び既存蔵書のカバー率の算出を行う。 (2)方法  EBSCOとProQuestの両社から電子書籍収録リスト,国立情報学研究所から大学図書館等の総合目録データベース(NACSIS-CAT)の全洋書データ,及び2つの社会科学系大学図書館の洋書蔵書データを取得した。@両社から電子書籍収録リストを取得し,言語,原本出版年,得意分野,出版社,重複具合等から競合分析を行う。AISBNを利用して2社提供タイトル,及びNACSIS-CATの重複状況の調査,B三者の重複割合が高い分野について,ISBNを利用して既存の洋書蔵書サンプルのカバー率を算出する。 (3)得られた成果  @EBSCOとProQuest両社提供タイトルは非常によく似た傾向を示し,差異はほとんど見られない。8割が英語,原本の出版年は1980年から徐々に増え始め,2010年代がピークとなる曲線を描いた。分野についても社会科学,技術,文学の順,出版社についても同一出版社が上位を占めた。二社重複率は原本があるものは約50%,ボーンデジタルは約17%であった。A前二社とNACSIS-CAT(370万件)の重複率は約5%(約28万件),27.5万件中10万件が社会科学分野であった。B社会科学系大学の蔵書サンプルのカバー率(重複率)は,10万件中A大学の所蔵は約1万件,B大学の所蔵は約9,300件前後と1割弱であった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 門脇夏紀(慶應義塾大学大学院文学研究科) [かどわきなつき] 発表タイトル: Word2Vecの分散表現による単語間の類似度の特徴 サブタイトル: LDAおよびNMFと比較して 発表要旨: (1)背景・目的  深層学習などのニューラルネットワークを,自然言語処理に応用するためのアルゴリズムであるWord2Vecを利用した研究が盛んに行われている。このアルゴリズムは,同じような文脈で使われる語は類似しているという仮定の下に,教師なし学習によって単語の意味の分散表現を生成する。  この分散表現により,単語間の類似度を求めることが可能になる。この種の類似度は,図書館情報学分野をはじめとして長年研究されてきた。例えば,2000年代前半に提案されたLDAは,文書集合内の潜在トピックを析出するためのアルゴリズムで,類似した単語は同じトピックに属する。このような既存の方法により求められる類似度と比べて,Word2Vecによる類似度がどのような特徴を持っているのか明らかにはなっていない。  そこで本研究では,Word2Vecにより計算される類似度と,従来手法であるLDAおよびNMFの類似度との比較を行う。 (2)方法  英語の新聞記事(Reuters)を用いて,それぞれの方法により算出された類似度を基に,単語のクラスタリングを実行する(階層的クラスタリングおよび多次元尺度構成法)。そして,その結果を比べることにより,それぞれの特徴の分析を試みる。  この実験では,Word2Vecの分散表現ベクトルの次元数とLDA,NMFでの潜在トピック数を100と設定し,余弦係数を使って単語のペア間の類似度を求める。その後、類似関係が明らかな50単語を選び,クラスタリングを実行する。  これら50個の単語が,それぞれのクラスタリングの結果中でどのように近接するのかを視認により比較すると共に,クラスタ集合間の近さを測定する指標を用いての比較も行う。 (3)得られた(予想される)成果  これらの分析により,Word2Vecによる単語の類似度の特徴が,LDAとNMFとの比較により浮き彫りになると予想される。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 吉井 潤(都留文科大学非常勤講師) [よしい じゅん] 発表タイトル: 公立図書館における図書除籍資料リストの分析 サブタイトル: 江戸川区立図書館1年分の事例から 発表要旨: (1)背景・目的 図書館で行われる資料の除籍は、メディアで取り上げられ、話題になることがある。千葉県船橋市西図書館では、除籍基準に達しない蔵書が廃棄され裁判までに発展した事例もある。大学図書館では、除籍に関する研究は行われているが、公立図書館では、ほとんど研究が行われていない現状である。研究が行われていない背景として除籍リストの入手が容易ではないことが考えられる。そこで、本研究目的は、公立図書館ではどのように資料を除籍しているのか、どのような資料を除籍しているのか江戸川区立図書館の1年分の図書除籍資料リストから一例として明らかにする。 (2)方法 データ分析とインタビュー調査を行った。データ分析は、毎月各館が作成している図書の除籍資料リストを用いた。2017年4月1日から2018年3月31日までの江戸川区立図書館全館(12館)分の図書除籍資料リストを図書館所管部署である江戸川区文化共育部文化課に提供の依頼を行い受け取った。リストに掲載されている図書は合計69,902点だった。図書1点当たり累計貸出回数など17項目を入手した。インタビュー調査は、データを受け取った際に、江戸川区文化共育部図書館専門員に行った。 (3)得られた(予想される)成果 現物のリサイクルや廃棄処理の前に図書除籍資料リストが、各図書館の館長決裁後に中央図書館に提出され、蔵書担当、図書館専門員、文化課推進係を経由してから文化課の課長決裁されていた。したがって、それぞれの段階でチェック機能を有していることがわかった。中央図書館の蔵書担当や図書館専門員が各館の除籍資料リストで気になるものは印をつけて現物を取り寄せたりしていることがわかった。受入から除籍までの経過年を一般図書・児童図書で比較すると、児童図書が短い傾向が出た。また、資料の累計貸出は、NDCごとに差が見られた。決裁後の処理は、廃棄よりリサイクル(区民に提供)にすることが多かった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 杉本 ゆか(明星大学) [すぎもと ゆか] 発表タイトル: A. J. HarrisによるHow to Increase Reading Abilityの考察 サブタイトル: 読むことの定義と過程の検討 発表要旨: (1)背景・目的  近代の読書教育の研究を広めた阪本一郎は,A.J. Harris(以下,ハリス)による"How to Increase Reading Ability"の読書論および読書教育論を取り入れた。これは初版が1945年で ,1990年まで第9版まで版を重ねた,読書に関する米国の代表的な著作である。また,阪本は,自らの読書論にもハリスの読書論を導入した 。現在の日本の読書論は,ハリスと阪本一郎の研究が基礎として位置づけられると考える。しかし,阪本一郎の研究が引用されている場合には,1970年頃の文献が多く見受けられる。この点から,阪本により取り入れられたハリスの研究は,ある年代までに限られているのではないかと考える。  そこで、本発表は、ハリスのHow to Increase Reading Abilityの中核を構成する読むことの定義と過程について初版から第9版まで通して内容分析をすることにより,ハリスの読書論を明らかにする。 (2)方法 A. J.ハリスのHow to Increase Reading Abilityの第7版を除く初版から第9版まで横断的に分析をおこない,読むことの定義の変遷を考察する。 (3)得られた(予想される)成果 初版の定義では,読むことは書き手が意図した意味を発見することであった。この定義は,書き言葉が印刷された話し言葉であることを学ぶことであった。そして,第2版以降,時代に応じて変化が見られ,第2版から第8版では,記号を言葉として認識する段階から定義されていたが,第9版では書かれている言語の意味解釈をすることと変化し,読むことの認識が「記号を言葉として」認識する段階から考えられていたものが,「言語を意味解釈する」に移り変わり,記号を言語として認識する段階が省略されるようになった。  読むことの過程は,初版から第6版までは,単語の認識や文レベルの理解,文章としての理解とボトムアップによる読み方に基づいた過程のみであった。しかし,第8版と第9版では,従来から検討していたボトムアップに加えて,トップダウンと,ボトムアップとトップダウンを組み合わせた相互作用モデルの3つの過程があることが明らかとなった。  また,資料のタイプには物語タイプと研究タイプがあり,内容検討を伴う資料は研究タイプのみであるということが明らかとなった。  これらのことから,読むことを教える場合には,資料のタイプが研究タイプであることが前提にあり,読み手が主体性をもって取り組むことによってのみ読むことのスキルが発達すると考える。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 森山 光良[もりやま みつよし] 発表タイトル: 日本の公共図書館の広域総合目録事業に関する考察 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 日本の公共図書館の総合目録事業について,データ提供館の分布する地理的範囲の視点から区分すると,@全国(国立国会図書館総合目録ネットワーク),A都道府県域,B広域の3種に大別される。対応する公共図書館のデータ提供館は,@が都道府県立および政令指定都市立図書館,Aが各都道府県域の公共図書館によって構成される各集合,Bが地理的に隣接する公共図書館(都道府県立図書館を除く)によって構成される各集合である。制度的には,国立国会図書館法,図書館法によって,@Aにおける設置は,国立国会図書館,各都道府県立図書館に義務付けられるか,基本的な役割として位置付けられる。これに対し,Bにおける設置については関係する自治体間の判断に委ねられるが,もし政策的に設置されるなら,第三者にはAで既にカバーされた部分を重複して取り組むに過ぎないと映り,二重行政ではないかという非難を受けてもおかしくない。それにもかかわらず,Bはなぜ1990年代以降,各地で取り組まれてきたのか。この疑問解明が本研究の目的である。 (2)方法 上記の疑問解明に際して,次のように仮説設定し検証する。 広域総合目録事業は,日本の公共図書館の総合目録事業において基本的位置付けにある都道府県域総合目録事業と較べ,依拠する原理や枠組みが異なる。 検証に当っては,現在実施中の広域総合目録事業ごとに,チェックポイントを設け,ヒアリング調査や文献によって個別確認する。具体的には,機能,運営形態,広域行政や国の政策の影響,運営経費の負担方法,個人情報の共有,資料搬送手段等である。なお,代表的な終了事業も終了理由とともに取り上げる。最終的に都道府県域総合目録事業の原理や枠組みと比較し上記疑問解明を行う。 (3)予想される成果 限られた資源で自治体ごとに取り組まれる図書館事業は,新たな枠組みの広域総合目録事業によって価値を生み出すことを提示する。さらに,以上の研究成果から都道府県域総合目録事業にも参考になる要素を探る。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 荻原幸子(専修大学) [おぎわらさちこ] 発表タイトル: 米国における公共図書館運営のガバナンス構造にみる日本の図書館運営の課題 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的:地方分権が推進される中で,「協働」の概念のもとに,さまざまな分野で行政と住民との「対等性」を主軸とした関係構築が追求されている。公共図書館運営においても,「住民」との関係構築は検討すべき論点の一つであると考える。本研究では,米国における公共図書館運営のガバナンス構造を参照することにより,日本の状況において検討すべき課題を提示する。 (2)方法:米国の公共図書館運営に関する文献や,2019年1月に開催された米国図書館協会(ALA)の冬季大会(Midwinter meeting)で得られた情報に基づき,住民が関与する「図書館委員会」「友の会」「(図書館・図書館システムに付設された)財団」の役割や,各主体と図書館長との関係(図書館運営のガバナンス構造)を把握した。 (3)得られた(予想される)成果:図書館委員会は図書館長から提出された予算や事業計画の承認を主な役割とし,友の会は資金提供やボランティア活動によって図書館を支える役割を果たす。一方で,概ね1990年代以降に組織されるようになった財団は,自ら調達した資金を図書館に提供する役割を担っている。各主体は相互のコミュニケーションのもとで独自の役割を果たしているが,図書館長と図書館委員会の関係を核として,公的資金への上乗せ,あるいは,試験的な事業に対する資金提供を,市民社会組織である友の会と財団が担う構造も捉えることができる。さらに,いずれの主体もアドヴォカシー(図書館に対する賛同者・支持者を増やすための活動)を任務としており,そこには地域社会における「住民−住民」関係を見出すことができる。こうした米国のガバナンス構造からは,制度や文化の違いを踏まえるとしても,日本の公共図書館運営における「図書館協議会」のあり方,「友の会」や「図書館づくり住民団体」の意義,アドヴォカシーの取組みなどに関する示唆が得られた。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 豊 浩子(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科) [ゆたか こうこ] 発表タイトル: 揺籃期における米国のパブリック・ディプロマシー サブタイトル: 奄美琉米文化会館の蔵書構成の分析を通じて 発表要旨: (1)背景・目的:パブリック・ディプロマシー(PD)とは、外交の相手国の一般市民に直接働きかける公衆外交である。米国は第二次世界大戦前後からPDを積極的に推進し、1948年には現在のPDの法的根拠であるスミス・ムント法が成立した。戦後、米国は沖縄と鹿児島県の奄美群島の直接統治を行い、情報教育政策の一環として6カ所に琉米文化会館を設立した。琉米文化会館では図書や雑誌、新聞、レコードなどの閲覧や貸出サービス、映写会などが実施された。本研究では、PDの揺籃期といえる1945年から1953年までを対象に、奄美琉米文化会館を事例として、米国がPDの装置として図書館をどのように利用したのか、その一端を明らかにしようとする。 (2)方法:鹿児島県立奄美図書館には、奄美琉米文化会館当時の図書台帳が保存され、開館した1951年4月から本土に復帰した1953年12月までの図書の受け入れが記録されている。奄美琉米文化会館の蔵書のうち、記録されている和書2899冊について、蔵書構成を分析し、スミス・ムント法及び奄美・沖縄統治における米民政府の意向がどのように反映されていたか、検討を行う。その際、同時期の1951年度の東京都立日比谷図書館の図書受入台帳の蔵書構成を分析し、奄美琉米文化会館の蔵書が当時の公共図書館の蔵書とどの程度相違があったのかという観点より、比較検討を試みる。 (3)予想される成果:奄美琉米文化会館が米国のPDの実施機関だったとすると、その蔵書は、東京都立日比谷図書館に比べ、a. 米国について書かれた図書の割合、b. 共産主義やソ連批判の図書の割合が、ともに大きいのではないかという仮説を立て、その検証を行う。仮説が支持されるのであれば、琉米文化会館は米国についての情報を広報宣伝し、ソ連や共産主義と対峙するという当時の冷戦の状況に基づいた、米国のPDの一端を担う装置であったことが、その蔵書構成から明らかにされることになる。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 山本 順一(桃山学院大学) [やまもと じゅんいち] 発表タイトル: フェイクな学術世界の基盤と背景について考える サブタイトル: アメリカ連邦取引委員会対OMICSグループ事件訴訟を起点として 発表要旨: (1)背景・目的 昔から‘ディプロマミル’と呼ばれる‘学位商法’は存在し、いまなおそれなりに?栄している。2000年代に入ってからは‘ハゲタカ学術商法’(predatory or fake science)が隆盛を誇っている。本発表は、インターネット環境を利用する詐欺的とされるこのようなビジネスの実態把握を目的とする。 2016年8月、アメリカ連邦取引委員会(FTC)は、連邦取引委員会法(FTC法)13条b項にもとづき、オープンアクセス雑誌出版業OMICSグループに対して、FTC法5条a項および合衆国法典15篇45条a項に違反するとして、恒久的な差止命令による救済等を求めて、ネバダ州地区連邦地方裁判所に提訴した。翌2017年9月、連邦地裁は予備的差止めを認め、被告OMICS側の棄却の申立てを否定した。FTCの略式判決の申立てとそれを支持する覚書に対して、2018年5月1日、連邦地裁は62ページに及ぶ文書を公表している。 この訴訟は消費者保護の枠組みのなかで展開されたため、裁判所はOMICS側の不当表示を違法としたにすぎない。OMICSグループの弁護士は、いささかもアメリカにおける同社の業務の停止を命じたものではない」と述べ、現実にOMICSはアメリカはおろか、いまなお世界中でフェイクな営業活動を展開し、少なくない有名、無名の研究者がハゲタカ雑誌に投稿し、観光地で開催されるハゲタカ学会に参加している。 (2)方法  OMICS事件訴訟に関する訴状、予備的差止めを認めた決定書、およびネバダ地区連邦地裁の提示した文書を精査する(Google Scholarでは内外に仔細な検討は見られない)。一方、被告であったOMICS社は、現在なお営業活動を続けている。同社の創設から現在までの沿革をインドの高等教育行政のありようと絡めて考察する。 (3)得られた(予想される)成果  研究者の熾烈な競争に胚胎する社会経済的病巣の構造と国際的に営業活動を展開するハゲタカ学術業者のビジネスモデルについて、evidence-basedな知見が得られるものと思う。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 藤牧功太郎(新宿区役所) [ふじまき こうたろう] 発表タイトル: 公立図書館業務に必要な能力、知識及び技能の習得方法に関する研究 サブタイトル: 新宿区立図書館職員を対象に実施した質問紙調査結果の分析と考察 発表要旨: (1)背景・目的 近年の高度情報化、少子高齢化及び国際化等の進展に伴い公立図書館に対するニーズもより高度化、多様化している。こうした状況に的確に応えていくためには、公立図書館職員(以下「職員」という。)の能力、知識及び技能の向上を図ることが必要である。これまでも国、地方自治体及び日本図書館協会等の各機関は、それぞれに職員に対する研修の充実を図ってきた。平成20年には文部科学省で「図書館職員の研修の充実方策」をとりまとめ、研修の体系化、研修方法の工夫、研修の評価及び研修参加の環境づくりなどが提言された。職員の育成は重要なテーマであるが、職員に必要な能力、知識及び技能の習得に関する調査研究は、その後ほとんど見受けられない。また、指定管理者制度の導入など公立図書館の業務形態も大きく変化している中、指定管理者の研修についての調査研究も見受けられない。そこで、本研究では、新宿区立図書館を事例として、職員の図書館業務に関する能力、知識及び技能の要素を抽出し、それらを職員が実際にどのように習得しているかの分析を通じて各機関の今後の研修の企画運営に資することを目的とする。 (2)方法 @職員の研修に関する文献から図書館業務に必要な能力、知識及び技能を抽出し、それらに関するアンケート設問を作成する。設問は既往研究等と比較できるよう考慮する。 A新宿区立図書館(区直営中心館1館と指定管理図書館9館)の全職員(約200名)を対象にアンケート調査を行う。 B区職員と指定管理者それぞれの研修の企画運営担当者を対象にアンケートを実施する。 Cこれらのアンケート調査結果を比較分析して、特徴を把握し考察する。 (3)得られた(予想される)成果 過去の調査、職員と研修企画者及び区直営館と指定管理館との比較等を通じて図書館業務に必要な能力、知識及び技能の習得方法に関する現状と課題を構造的に把握し効果的効率的な習得方法を提起する。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 福永 智子(椙山女学園大学文化情報学部) [ふくなが ともこ] 発表タイトル: 読書相談サービスの論点提示 サブタイトル: 図書館法第3条「十分な知識」をめぐる考察 発表要旨: (1)背景・目的  公共図書館における読書相談サービス(reader’s advisory service)について検討する。図書館界で読書相談サービスの位置付けは明確でない。レファレンスサービスに含める考え方がある一方、貸出業務の一環とする見方もある。  読書相談サービスの法的根拠として図書館法第3条(図書館奉仕)が指摘できる。「三 図書館の職員が図書館資料について十分な知識を持ち,その利用のための相談に応ずるようにすること」であるが、「十分な知識」とは書誌事項までか、それとも資料の内容を含むのか、共通理解がない。  調査によると公共図書館の読書相談サービス実施率は約9割であるにも拘らず、読書相談サービスの存在感がないのはなぜか、その理由を考察するうえで有効な論点を提示する。 (2)方法  文献研究を行う。例として、読書相談質問については『web本の雑誌』「読書相談室」の事例を、読書相談サービスの実態把握には、NDL編『日本の図書館におけるレファレンスサービスの課題と展望』2013を参考にした。 (3)得られた(予想される)成果 3-1.読書相談質問とは  2つの作業上の分類基準をもとに、読書相談質問とレファレンス質問の違いを説明する @レファレンス質問の回答には典拠資料を必要とする A読書相談質問は本の内容についての質問である 3-2.読書相談サービスの論点 @レファレンスサービスとの分岐点:典拠資料の問題  レファレンスの枠組みでは,読書相談質問に回答できない。読書相談サービスには本の内容の知識や読後感など個人ベースの知を必要とする。 A蔵書という境界〜選書との関係  読書相談サービスは,選書と表裏一体の関係にある。商店における“商品知識”は、図書館においては図書館法第3条の図書館資料についての「十分な知識」である。 Bサービス対象について  読書相談サービスが主に子どもを対象とするサービスとして語られてきた理由は、担当者が子どもの本を読んでいて、相談に応じることができたからである。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 植村要(立命館大学人間科学研究所) [うえむら かなめ] 竹内慶至(名古屋外国語大学現代国際学部) [たけうち のりゆき] 発表タイトル: 音訳ボランティアの実態と意識に関する計量分析 サブタイトル: 世代・年齢・動機に着目して 発表要旨: (1)背景・目的  視覚障害者等が読書をする方法は、技術開発や法制度の改正に伴って、多様化してきている。晴眼者の読書環境には遠く及ばないというものの、視覚障害者等の読書環境は、徐々に充実してきた。こうした読書環境の構築の根幹を支えてきたのが、点訳・音訳ボランティアの多年にわたる献身である。  しかし、ボランティアに支えられた視覚障害者の読書環境の継続は、楽観視できるものではなくなっている。つまり、点訳・音訳ボランティア活動への参加者の年齢層が高いことである。特に音訳は、技術の体得が必要なため、いわゆる音訳ボランティア養成講座を受講してから実際に活動をするまでにある程度の期間を要する。そのため、活動の安定した継続のためには、若年層の参加が必要であると考えられる。視覚障害者の読書環境として、ボランティアの協力を不可欠なものとする体制を今後も続ける場合、その安定した継続のための要因の重要な一つが、活動参加者の「年齢」である。  そこで、報告者らは、視覚障害者の読書環境について、今後の在り方を検討するための基礎資料とすることを目的に、音訳ボランティアの実態調査を実施した。本報告では、本調査のうち、年齢/世代と動機に関する分析を中心に報告する。 (2)方法  調査対象は、全国音訳ボランティアネットワークの会員である。同会は、音訳の啓発、ニーズのコーディネート、情報共有を目的に、2007年に設立された非営利活動団体である。会員は、全国の音訳関係者で構成されている。  調査方法は、郵送調査法(自記式調査票調査)である。2018年3月発行の同会会報に、本調査用の調査票を同梱し、発送した。自記式で記入後に、郵送にて返送する方法を採用した。調査時期は、2018年3月から7月である。 (3)得られた(予想される)成果  調査票配布数は1969票、有効回収数は1227票、回収率は62.3%であった。自由回答式の質問には、枠外にまで記述された回答も多数あり、日頃の活動の熱心さが窺い知れるものであった。  口頭報告において、本調査の分析結果を示す。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 小林達也(愛知淑徳大学文化創造研究科図書館情報学領域) [こばやしたつや] 発表タイトル: 課題解決型学習を支援する学校図書館の教育的機能の構造化 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  学校図書館機能には,読書センター,学習センター,情報センターの3機能がある。多くの実践報告では,これら3機能を並列的にとらえ,読書活動や情報活用能力育成の場面において読書センター機能,情報センター機能の活用が論じられている。しかし,学習センター機能として学校図書館が学びの場であるという場合,これら3つの機能は単独ではなく,相互に関連し合うのではないかと考えた。ここでは,学校図書館が課題解決学習活動を支援する際に3つの機能がどのように関連し合い構造的になっているかを明らかにすることを目的とした。 (2)方法  学校図書館の機能を構造的に捉えるために,中学1年生を対象に情報活用力調査,読書力調査,学習成果を測るための授業実践を行い,情報活用力,読書力,学習成果に関係性があるかを検証した。情報活用力は,課題を解決する際にどのような活動をするかアンケートを行い,選んだ選択肢に応じた点数を合計して算出した。読書力は前年度の図書館貸出本の総ページ数を数値化して算出した。授業実践は,情報活用力の上位,中位,下位の者からなる4人1班を構成し,協同して課題解決学習に取り組ませその学習成果を点数化した。情報活用力,読書力,学習成果の結果を照合して,学校図書館機能がどのように活用されたのかを検証した。 (3)成果 学校図書館において協同して課題解決学習に取り組んだ時,図書館資料を媒介にして生徒相互が学び合い,本来教師が担う指導的助言の役割を学校図書館資料が担うことが授業記録より分かった。また,情報活用力の高い生徒は必要な資料を探したり,記述された内容をよく理解したりして,成果物の得点も高く,読書力,情報活用力を駆使して学習課題を解決していることが分かった。以上のことから,課題解決学習における学校図書館機能は学習センター機能を上位として,読書センター機能,情報センター機能が下支えをするという階層的な構造になっているといえる。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 木村麻衣子(慶應義塾大学) [きむらまいこ] 発表タイトル: 漢籍利用者はどのように漢籍を使うのか サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  図書館が漢籍を整理するための標準的な目録規則が日本には存在しない。FRBRは利用者の情報行動(利用者タスク)と目録の書誌事項を関連づけようとした点で画期的であり,その精神はIFLA LRMにも受け継がれている。漢籍についても利用者タスクに基づいた書誌事項の検討が必要である。しかし,漢籍利用者がその研究においてどのように漢籍を探し,利用するのかは,これまで可視化されたことがない。漢籍利用者の利用者タスクを明らかにするためには,まず漢籍利用者の研究行動全体を把握する必要がある。本研究では,漢籍利用者が自身の研究において漢籍をどのように使うのかを明らかにすることを目的とする。 (2)方法 2018年7月から2019年3月にかけて,研究に漢籍を利用する5名の研究者に対し1時間から2時間程度のインタビュー調査を実施した。調査は半構造化インタビューとし,基本的には直近の研究内容と使用している漢籍,漢籍の利用方法,入手方法等について質問した。インタビューは録音し,研究行動に関わるすべての発言について二段階のコーディングを行った。生成されたコードを使って,まずそれぞれの研究者の研究の流れを整理し,最後にそれらを統合してアクティビティ図を作成した。 (3)得られた(予想される)成果 アクティビティ図によって,今回の調査で語られた範囲での,漢籍を利用する研究者の研究行動を一覧することが可能となった。さらに,各行動において使用される情報源も明らかとなった。今回の調査の範囲では,いずれの研究者も漢籍のテキストデータを利用していた。引き続きインタビュー調査を実施し,専門分野や年齢層別に漢籍利用者の研究行動を明らかにしたい。 ----------------------------------