---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 鈴木一生(筑波大学大学院) [すずきいっせい] 小泉公乃(筑波大学) [こいずみまさのり] 発表タイトル: 米国における特別目的政府による公共図書館経営の理論的基盤 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  米国の一般目的政府(General-Purpose Governments)における財政悪化に起因し、公共図書館の財源が減少する中で、図書館区(Library Districts)は安定した資金を確保できる経営モデルとして注目されている。図書館区とは、図書館経営という単一目的のために設立される課税権や起債権を持つ特別目的政府(Special-Purpose Governments)の一形態である。近年の研究から課税権を持つ図書館区は、一般目的政府や非営利組織(Non-Profit Organizations)に経営される公共図書館と比較して、より安定した財源を確保していることが実証されている。しかしながら、ニューヨーク州立図書館が、図書館区について資金調達の優位性に加えて、説明責任や自律性が向上することなども主張しているように、財源の安定性は、その1つの特徴に過ぎない。  本研究の目的は、包括的な文献レビューを通して、図書館区の持つ要素を体系的に整理・分析し、図書館区経営の理論的基盤の全体像を解明することである。さらに、その分析結果を基礎に今後の図書館区研究における課題を示す。 (2)方法  本研究では、研究論文や学術書に加えて、図書館区について理論的に論じているAmerican LibrariesやLibrary Journalに掲載された論考、州立図書館や州の図書館協会のレポートなども含め、合計21件の文献を対象に詳細に分析した。分析の手順は、はじめに調査対象文献を精読し、図書館区の理論を構成すると考えられる要素を抽出した。その後、概念の大きさに基づき、要素を分類・整理した。 (3)得られた(予想される)成果  図書館区の理論は、16の要素によって構成されており、それらは、1)財務政策、2)管理/経営、3)政治的透明性、4)地理的境界、5)図書館サービスの5つに大きく分類できることが明らかになった。これら理論の中核的理念は、「持続性」と「自律性」であった。  先行研究から残された問題として、近年明らかにされつつある課税権を中心に論じられてきた「持続性」に加えて、独立した地方政府として広範な権限を持ち、住民ニーズに合わせ最適に資源を配分するという理念を基礎とした「自律性」についても実証的に解明することが確認された。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 池内淳(筑波大学) [いけうちあつし] 発表タイトル: 公共図書館需要の移転に関する実証的分析 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 英国公共図書館の草創期についてLionel Roy McColvinは、図書館に対する需要が供給を生み出したのではなく、供給が需要を生み出したのであり、その後、世界各国において同様の現象が起こっていると述べている。それでは反対に、既に図書館需要の存在する所から供給を停止・減少させた場合、その需要はどこへいくのであろうか。図書館の改築や新館建設の際、あるいは、水害や震災などのために図書館が休館となることは珍しくない。また、日本国内では図書館数は概ね増加傾向にあるものの、図書館が閉館となる場合もあるし、長期的にみれば、人口減少によって公共図書館を維持し続けることが困難となる自治体の生じることも予想される。こうした休館や閉館の際、図書館利用者はどのような代替的行動をとるのであろうか。たとえば、(1)近隣の図書館を利用する、(2)図書館と類似の機能を果たす他の施設やサービスを利用する、(3)利用者の個人的嗜好にしたがい図書館とは異なる対象に時間を振り向けることなどが想定される。また、図書館が新規に設置されることによって、近隣地域にある既存の図書館の利用が減少するといった事例も存在する。本研究の目的は、こうした図書館間や自治体間における需要の移転の有無やその様態を実証的に明らかにすることである。 (2)方法 日本国内のすべての公共図書館の貸出冊数や来館者数について、自治体単位および図書館単位で当該年度と前年度との差を算出し、空間的自己相関分析を行うとともに、空間的依存性を考慮した回帰推定を行うことによって、空間的従属性が存在するか否かを検証する。 (3)予想される成果 図書館間もしくは自治体間における図書館需要の移転の有無を明らかにすることによって、図書館への需要が代替性の低い固有の価値を持つものであるか、あるいは、比較的代替性の高いものであるかといった性質について考察することが可能となる。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 谷口祥一(慶應義塾大学文学部) [たにぐち しょういち] 発表タイトル: NCR2018とRDAの記述規則のRDFデータ化 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的:NCR2018とRDAベータ版はそれぞれ独自の記述規則の体系を構成し、現在、文書(NCR2018の冊子体、PDFファイル)または表示システム(RDA Toolkit)によって公開され提供されている。これらは、そのままXMLによるマークアップデータに変換することが可能であり、RDA Toolkit内部では既にそれに近い形式で蓄積されているものと推測される。それに対して、本研究では、NCR2018とRDAベータ版を対象にして、それら記述規則の構成を基盤にしつつも、RDFによる適切なデータ表現とするための検討項目とその選択肢の提示、そして妥当性の検証を目的とする。RDFデータ化の結果、情報資源等のメタデータとその記述規則とがシームレスに接続でき、また規則内外の参照関係を辿れるようにすることを意図している。なお、NCR2018とRDAの両者の規則構造は、条項番号の有無、個別規則における条件部と行為指示部の分離の有無など、それぞれ異なる部分を含む。 (2)方法:JLA目録委員会が公開予定のNCR2018語彙のRDF定義(エレメントや関連指示子を示すRDFプロパティなど)およびRDA運営委員会による公開済みRDA語彙のRDF定義にそのまま接続できるよう、記述規則のRDF表現を検討した。主たる検討の項目は、以下の通りである。@記述規則をRDFクラスとするか、プロパティとするかの選択。Aクラスとプロパティの設定粒度とその両者のバランス(RDFグラフ全体としての「深さ」と「幅」のバランス)。B規則間の参照関係の表現。C例示の記録と追加可能性、事例データへの参照の容易性。C別法の表現法。 (3)得られた(予想される)成果:それぞれの検討項目に対して、可能な選択肢を提示した上で、適切と判断した選択肢を採用した。たとえば、NCR2018の規則について、a)最下位条項内の個別指示の単位でクラスを設定しURIを付与する、b)個々のNCRエレメントなどから、「記録の情報源」・「記録の方法」等に相当するプロパティによって先のクラスに導く、c)参照指示を独立させたRDFトリプルとして表現する、d)別法は本則と異なる部分を明示した表現法とするなどである。現在、NCR2018とRDAの一部に対してRDFデータへの変換を試行し、その妥当性の確認作業を行っている。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 吉井 潤(都留文科大学非常勤講師) [よしい じゅん] 発表タイトル: 新型コロナウイルス感染症対策から捉えた公立図書館のトイレ環境に関する現状調査 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 国立感染症研究所の「ダイヤモンド・プリンセス号環境検査に関する報告(要旨)」において部屋のドアノブ等以外にトイレ便座等から新型コロナウイルスを検出したことが判明した。公立図書館のトイレは,旧来の状況もあることから対策としてトイレ環境の検討が必要である。また,図書館建築の視点では,時代の変化に応じて諸室の在り方等の研究が行われているが,トイレ環境についてはほとんど行われていない。本研究の目的は,トイレ環境の視点から公立図書館における新型コロナウイルス感染症対策にはどのようなものがあるのか,現在のトイレ環境の現状を明らかにすることである。 (2)方法 新型コロナウイルス感染症の検体採取と実験を行うことは容易ではないが接触で人に感染することからノロウイルスや大腸菌と同様として考えた。研究の方法は,医師とトイレ総合メンテナンス会社に半構造化インタビュー調査を行った後,公立図書館のトイレ環境の現状を把握するために6月時点で全国538館を受託している(株)図書館流通センターサポート事業推進室の協力を得て運営を受託している図書館に対して質問紙調査を行った。 (3)得られた(予想される)成果 医師の見解は,トイレ環境は手洗いも重要であり,水と石鹸を出す方法が手動であれば汚れていることが多いため自動であることが望ましい。トイレ総合メンテナンス会社によると,和式大便器は便を流すときに勢いよく水が流れ,ウイルスや菌の飛び跳ねがある。また,洋式大便器においても和式大便器ほどではないものの手や服の袖口が汚染される。アンケートは265館(49.2%)から回答を得た。便器は,62.6%が和式大便器を設置している。手洗い環境については,自動で水が出る図書館は60.8%だが石鹸が自動で出ない館が93.2%だった。トイレの清掃を1日3回以上行っているのは38.9%と多くはなかった。以上のことから新型コロナウイルス感染症対策としてトイレ環境は十分とは言えない傾向が出た。今後の図書館建築の研究や図書館の新築や改築にはトイレ環境についても諸室と同様に対象とするべきである。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 山本 順一(放送大学) [やまもと じゅんいち] 発表タイトル: インターネットアーカイブ訴訟の表層と深層 サブタイトル: アメリカ著作権制度における権利者と大規模デジタル化組織との利害相克 発表要旨: (1)背景・目的 本報告の目的は、以下に概略を示す国際的に注目を集めている訴訟事件の端緒と背景を明らかにすることにある。  2020年6月、アメリカ大手出版社4社がインターネットアーカイブを相手取り、訴えを提起した。被告は、コロナ・パンデミックのさなかの2020年3月、約140万冊のデジタル書籍へのアクセスを無償で開放する‘National Emergency Library’を実施した。当初は、6月末もしくは国家緊急事態が解かれるまでのいずれか遅い方までとされていたが、この訴訟提起により、6月16日に終了した。平時のControlled Digital Lending(CDL)方式によるOpen Libraryの運営に戻った。  原告の訴状の請求趣旨申立ては、@「‘Open Library’業務が悪意の著作権侵害を構成する」との宣言、A原告が権利を保有する著作物に関する業務の差止めと複製物の廃棄、B法定損害賠償、あるいはC被告が違法に得た利益を賠償額とする、などである。そして、原告はすべての争点につき陪審裁判を求めている。 (2)方法  原告の訴状、および7月28日提出の被告の答弁書を精査する。連邦憲法を踏まえ、権利者(アメリカ連邦著作権法106条)、図書館(ルーティンワークは同法108条)、障害者サービス(同法121条)、遠隔(教育)サービス(同法110条)、およびインターネットアーカイブ(やHathiTrustの)ような大規模デジタル化組織(同法107条)に関する法論理を検討しつつ、デジタルネットワーク社会における出版業界の抱える矛盾した構造をも明らかにする。 (3)得られた(予想される)成果 Google Books訴訟は2005年から11年間の長期にわたり闘われた。本訴訟はそこで解決されず、積み残したままの諸問題に関わる。建前と本音の両面から、図書館と権利者との間の21世紀に望まれる関係のあり方を明らかにする。2020年度、この国の国立国会図書館固有のデジタル化予算はわずかに2.3億円しかない。国内の関係者は、この事件から、猛烈に学ばなければならないはずである。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 福永 智子(椙山女学園大学 文化情報学部) [ふくなが ともこ] 発表タイトル: レファレンス協同データベースに蓄積された読書相談質問の実際 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  日本の図書館にはどのような読書相談が寄せられているのか。国立国会図書館の調査報告「日本の図書館におけるレファレンスサービスの課題と展望」(2013)によると、まず読書相談サービスの実施率は、学校図書館を除く図書館全体の74.3%である。公共図書館の実施率は約9割で、実施形態としてレファレンスサービスとしての実施は約6割であるが、具体的にどのような読書相談質問がなされているのか、その実際はよくわかっていない。そこで本研究では、記録が残されている可能性の高いレファレンスサービスとして実施された読書相談サービスに着目する。レファレンス質問と読書相談質問とを区分する基準を参考に、レファレンスサービスに寄せられた読書相談質問の実際について明らかにすることを試みる。 (2)方法  読書相談質問が蓄積されている場所として、国立国会図書館のレファレンス協同データベースを指摘できる。「レファレンス協同データベース事業データ作成・公開に関するガイドライン」ver.1.3によれば、ここでは利用者が何らかの情報又は資料を求めて図書館員に寄せた質問を、すべてレファレンス質問として扱っている。さらに、公共図書館に多く寄せられる「読書資料の紹介を求めた質問」をデータベースに含めているとも記載されている。すなわち、レファレンス協同データベースには、図書館のレファレンスサービスに寄せられた読書相談質問が含まれていることがわかる。  そこで、日本十進分類法の9類に分類された質問を中心に、レファレンス協同データベースの付加的情報である主題「内容種別」、サービスのタイプ「調査種別」を手がかりに読書相談質問を取り出す。そのうえで、レファレンス質問と読書相談質問とを区分する基準によって、レファレンス質問を除外する。 (3)得られた(予想される)成果  読書相談質問の集合を分析することで、その傾向や特徴が把握できると考えられる。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 雪嶋宏一(早稲田大学) [ゆきしま こういち] 発表タイトル: 16世紀ケルンにおけるページ付け印刷の発展について サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  発表者はヨーロッパ16世紀おける近代的書物形態の成立と発展を解明するため、主要な印刷中心地におけるページ付け印刷本を調査してその発展過程を研究している。その結果、ヴェネツィアに始まるページ付け印刷はバーゼル、リヨン、ケルンで特に発展し、ライン川流域の諸都市での発展が顕著であったと考察した。しかし、16世紀後半の印刷本については5年毎に出版された印刷本をサンプリング調査したものであったため、16世紀後半になってページ付けが発展したケルンについては十分に考察できなかった。そのため、本発表ではケルンにおけるページ付け印刷の発展過程の詳細について解明したい。 (2)方法  16世紀ドイツ語圏の印刷本のデータベースであるVD 16などを利用して、ケルンの印刷本を年毎に抽出して、印刷業者、著者、作品、活字について分析して、ケルンではどのような書物にページ付けが行われたのか、それらのタイトルページ、奥付がどのように変化していったのかを考察する。  今年度はコロナウィルス感染拡大のため、ドイツの図書館で現物調査ができないため、VD 16で公開されているデジタル画像を書誌学的分析に利用して、個々の書物の特徴を把握する。デジタル画像の得られない資料については、他の書誌情報を探索して可能な限り確認していく。 (3)得られた(予想される)成果  ケルンのページ付け印刷は1516年に始まり、1530年代から1540年代に人文主義印刷業者ヨハン・ギムニッヒとアルノルト・ビルクマンが積極的にページ付け本を出版するが、全体的には50%に満たなかった。同世紀後半に至り人文主義印刷業者であるヨハン・クヴェンテル、ヴァルター・ファブリティウス、マテルヌス・ホリヌスによって1560年代末に50%以上に達した。ページ付け本の大半はローマン体かイタリック体活字で印刷され、ローマ数字でページ番号を表記したものもローマン体活字で印刷され、必ずしもゴシック体活字ではなかった。  一方、ケルンにおける近代的要素を持ったタイトルページ(著者、書名、出版地、出版者、出版年の情報を含む)の登場は1523年のH.Fuchsによるエラスムスの著作の刊行に始まるとみなされる。これらの版はフォリオ番号のないものとフォリオ番号を持つもので、コロフォンをもたなかった。このようなタイトルページがページ付け本の巻頭を初めて飾ったのは1524年にFuchsが刊行したピウス2世『ボヘミア誌』である。ケルンでは1520年代末までに近代的タイトルページはページ付け印刷とは関係なく普及していった。  ケルンでは、バーゼルやリヨンと同様にページ付け印刷は人文主義書が中心であったが、16世紀後半にはローマ法やカトリックの神学書等にもページ付けが行われるようになったことは顕著な特徴である。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 東山由依(昭和女子大学) [ひがしやまゆい] 発表タイトル: 日本の学校図書館における学習活動の分析 サブタイトル: 私立女子中学校を事例として 発表要旨: (1)背景・目的  日本では,学校図書館について,児童生徒の学習活動を支援し,情報の収集・選択・活用能力を育成する「学習・情報センター」としての機能が提唱されている。平成29年に告示された中学校学習指導要領では,総合的な学習の時間において,「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」が発展的にくり返される探究の過程が示されており,内容の取扱いの配慮事項には,学校図書館の活用について記述されている。  「学習・情報センター」の機能が提唱されて以降,学校図書館では,情報を収集,整理し,成果物にまとめていく探究的な学習の教育実践が報告されるようになってきた。一方で,その教育の受け手である学習者の活動の実態については十分に明らかにされていない。本研究では,学校図書館での学習活動において,情報を収集して成果物にまとめていく過程に焦点をあて,学習活動に影響を与える要素を学習者の視点から明らかにすることを目的とする。 (2)方法  本研究では,学校図書館で探究的な学習を行っている都内の私立女子中学校において,その教育実践の観察を行い,中学1年生の生徒を対象にフォーカス・グループ・インタビューを実施した。分析では,まず,学習者がどのように学習を進めていったのかを時系列的に把握するためにモデル図を作成した。その後,学習者のインタビューにおける発話データをもとに,成果物にまとめていく過程でどのような活動があったのかを整理し,学習活動に影響を与えた要素を抽出した。 (3)得られた(予想される)成果  調査の結果,司書教諭が指導した探究の過程に沿って学習が進められていることが確認された。その過程で学習者は,授業が行われた学校図書館において複数の媒体の図書館資料を用いて情報を探索していたが,それにとどまらず,司書教諭や教科教諭の介入や,学習者同士の関係,自身による資料の評価といった,図書館資料以外の要素も絡めながら学習活動を進めていることが明らかになった。同時に,学校図書館以外の場でも学習者の学びが発展しているケースも認められた。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 高橋今日子(鶴見大学大学院文学研究科ドキュメンテーション専攻) [たかはしきょうこ] 角田裕之(鶴見大学) [つのだひろゆき] 河西由美子(鶴見大学) [かさいゆみこ] 発表タイトル: 横浜市学校司書を対象とした探索的インタビュー調査分析 サブタイトル: 発表要旨: (1)研究目的 横浜市学校司書を対象とした質問紙調査の予備調査として、学校司書の業務実態と業務に対する意識について探索的インタビューを通し明らかにする。 (2)方法 2016年度から市内の全500校に学校司書を配置している横浜市の学校司書に対し、2種類のインタビュー調査を実施した。調査@では、横浜市学校司書7名を対象に「学校図書館に関する職務分担表」(全国学校図書館協議会、以下全国SLAと略)掲載の業務について、実施状況の把握や課題の発見を目的としてインタビュー調査を行った。さらに業務遂行上の課題の背景を探るため、調査Aとして、調査@とは異なる横浜市学校司書7名に対してフォーカスグループインタビューを実施した。インタビューの方法として、質問項目をあらかじめ「物的環境」、「人的環境」、「自己の能力と業務の関係」に設定した半構造化インタビューを採用した。インタビューの録音データからトランスクリプトを生成し、KH-Coderを用いた共起ネットワーク分析を行った。 (3)得られた成果 調査@では、学校司書の業務は全国SLA「職務分担表」に存在しない22項目が発見され、そのうち実施上の課題がある業務は18項目あった。「職務分担表」外の業務のカテゴリは「運営の基本業務」「指導」「協力体制」に分類された。調査Aでは、「物的環境」について、「情報共有のための環境整備」、「同僚性確保のための空間の不足」、「情報環境の未整備」といった課題が発見された。人的環境については、「学校図書館機能の職場内での認知不足」と「学校運営計画上の位置付けの曖昧さ」、「学校司書自身の専門知識の不足」、「情報の共有者や相談者の不在」と「異動に伴う諸問題」が抽出された。これらの2つのインタビュー調査は、「横浜市学校司書の業務に関する研究」の質問紙の作成のための基礎データとして活用され、同研究の下部研究に位置付けられている。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 杉江典子(東洋大学) [すぎえのりこ] 発表タイトル: レファレンス情報源の出版傾向に関する基礎データの分析 サブタイトル: 1990年から2019年までの変遷 発表要旨: (1)背景・目的 レファレンス情報源は,個人が求める情報を適切に,かつ網羅的に探す上で,欠くことのできない情報源である。同時に,情報流通サイクルの中では情報利用の前段階に位置づけられ,社会における知識の再生産を支える存在としも認識されてきた。従来,紙媒体で刊行されてきたレファレンスブックは,情報源の電子化やインターネットの影響を受けて,現在,そのあり方を大きく変えつつある。しかし,どのような変化の中にあるのか,また情報源を収集し,サービスを行う個々の図書館がどのような課題を抱えているかに関する研究や議論は少ない。よって,本研究では,まずは現状を理解するのに必要な基礎データを得て,近年の出版傾向を分析することを目的とする。また,今後の調査,研究の方向性を検討する材料とする。 (2)方法 まず,情報源の電子化やインターネットが普及し始めた1990年から2019年までの30年間のレファレンス情報源の出版傾向を,レファレンスブックのガイドである『参考図書解説目録』(日外アソシエーツ)のデータベース版,NDLONLINE等を用いて抽出し,出版年,主題,レファレンス情報源の種類等の観点から集計,分析した。レファレンス情報源は,最初の出版以後,改訂版が継続して出版されることが多いため,これらのデータから特徴が顕著に表れる主題やレファレンス情報源の種類を特定し,収録されるタイトルごとに,改訂版の有無や頻度について分析している (3)得られた(予想される)成果 レファレンスブックの出版点数は,全体では1999年の4,270冊をピークに一旦減少するものの,その後は,おおむね横ばいの状態にあった。主題やレファレンス情報源の種類ごとのデータからは,特定主題や,特定の種類ごとにかなり異なる傾向を持つことも示唆された。例えば書誌や,事典の出版点数は明らかに減少しているが,30年間を通じてあまり変化のない種類や分野もある。特定主題や,特定の種類ごとの分析を継続することで,一定の傾向を得ることができると考えている。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 伊藤民雄(実践女子大学図書館) [いとうたみお] 発表タイトル: わが国における戦後25年間の図書館サービスの推移について サブタイトル: 『図書館学文献目録』(私立大学協会, 1971)を利用して 発表要旨: (1)背景・目的 日本には1969年以前を網羅的に検索可能な図書館情報学文献データベースが存在しない。そのため文献量からサービスの推移の把握を困難にしている。そこで不完全とされるが、大学図書館と専門図書館の両分野のみを採録対象とする『図書館学文献目録』(私立大学協会, 1971)を利用して、戦後1946年から1969年までの図書館サービスや業務内容が推移してきた大きな傾向を明らかにする。 (2)方法 同目録の「雑誌論文・記事」のみを対象として、揺れのある誌名をNACSIS-CATの誌名で統一し、書誌的不備を再調査のもと修正・訂正してデータ化を行った。続いて10分野54項目で分類されたデータを、5年単位で5期に分け分析を行った。さらに同目録の完全化のため、各主要誌における採録されるべき文献数に対する同目録での掲載具合を採録率(網羅率)として算出し、その不完全具合を測定した。採録率は、主要誌毎に、総目次とリポジトリから記事・論文総数を、総索引で原著論文等や索引付与された文献を採録されるべき文献としてカウントし、同目録掲載文献数で除することにより算出した。 (3)得られた成果 データ化の結果、採録誌数200誌から文献4,239件を得た。10分野中9分野は増加傾向にあった。1945〜1955年は、整理技術分野が突出し、図書館一般、図書館行政と管理・運営の以上3分野が優勢だったが、情報管理分野が1955年以降に急増し、1965年以降は最上位になっていた。他方、同目録の主要誌の採録率上位は、「図書館雑誌」73.4%、「図書館界」65.2%、「医学図書館」64.6%だった。上位2誌の不採録文献は公共図書館と児童・学校図書館とYAサービスである可能性が高い。一方で、「UDC Information」のように、全目次論題836件うち索引付与311件に対し採取2件と、雑誌によってはほとんど採録されていないものも判明した。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 下野幹弥(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科) [しものみきや] 発表タイトル: 電子書籍の価格と需要の関係に関する国際比較 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  日本の書籍市場では再販売価格維持制度の下、紙書籍は全国どの書店でも定価で販売されるが、電子書籍は自由な価格設定が可能となっている。また海外では、書籍の定価販売を認めていない米国や、1990年代に定価販売の廃止を選んだ英国など、各国で書籍価格への対応が異なる。しかし、諸外国の書籍市場の違いに注目した分析や、日本の書籍市場に関する実証的研究は少ない。そこで本研究では、日本、米国、英国の電子書籍の価格と需要量の関係に注目し、書籍の性質について分析を行った。本研究の目的は、電子書籍の価格変動を用いて電子書籍及び紙書籍の「需要の価格弾力性」を推定し、日・米・英の書籍の性質について国際比較を行うことである。 (2)方法  本研究では、電子書籍及び紙書籍の価格と順位の変動を記録したパネルデータを用いて、価格の変化に対して需要量がどれだけ反応するかを表す「需要の価格弾力性」の推定を行った。調査対象として、オンライン書店「Amazon」で販売される日・米・英の電子書籍タイトルを選定し、同タイトルの電子書籍及び紙書籍の順位・価格データを収集した。分析では、書籍カテゴリや販売形態によって分類を行ったタイトル群毎に、順位を被説明変数とした回帰分析を行い、各タイトル群の需要の価格弾力性を推定した。 (3)得られた(予想される)成果  これらの分析によって、各国の電子書籍の需要の価格弾力性の傾向と、紙書籍と電子書籍の関係性を示す結果が得られる。需要の価格弾力性の推定によって書籍の性質を数値として示すことで、各国の定価販売や税制などの諸制度と書籍需要の関係、電子書籍普及率による紙書籍と電子書籍の関係など、諸外国の書籍市場の需要傾向を示す結果が期待できる。また、国際比較を通して書籍の性質を多角的に明らかにすることで、日本の再販売価格維持制度に関する政策的議論にも貢献が可能である。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 河村俊太郎(東京大学) [かわむらしゅんたろう] 発表タイトル: 図書館との比較からみた場としてのアーカイブズの位置づけ サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 現在MLA連携が議論され、図書館とアーカイブズは以前にもまして関係を深めつつある。特に、両者が扱う資料のデジタル化、ネットワーク化がますます進展していることは、連携がすすめられる前提として重要となっている。こうした資料のデジタル化、ネットワーク化により、図書や雑誌など図書館が主に扱う複製された資料と、公文書や古文書などアーカイブズが主に扱う一点しかない資料との境目があいまいになる、あるいはボーンデジタルの資料に代表されるそういった境界がそもそも存在しないものが出現している、また、いつどんなところにいても利用者は資料へのアクセスが可能になるなどのことが起こっている。その結果、図書館とアーカイブズの境界があいまいになり、また物理的な場が両者において果たす役割についての変化が起きている。そうした中、「場としての図書館」という概念により、図書館における物理的な場は、所属するコミュニティーへの利用者の帰属意識の構築や民主主義の維持の過程に位置づけられるなど、一定の意味があることがしばしば述べられているが、それに対して、アーカイブズにとって物理的な場はどのように位置づけられうるのだろうか。本発表は、この問いについて明らかにすることを目的とする。 (2)方法 国内外における場としての図書館、主に公立図書館の先行研究と、アーカイブズにおいて同様の主題をあつかった先行研究の検討を行い、管理、資料や利用などの観点から、両者の比較を行っていく。 (3)予想される成果 アーカイブズにおいて物理的な場が果たす役割が明らかになるだけでなく、それによって、比較対象である図書館にとっても、管理、資料や利用などの観点から、物理的な場がどのような役割を持つのか、あるいはそもそも必要な役割があるのか再考を促すこととなり、さらに物理的な場が両者の連携とどのようにかかわりうるのか明らかとなることが予想される成果である。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 松井健人(東京大学大学院) [まついけんと] 発表タイトル: ヴァイマル期ドイツにおける閉架式図書館と図書館利用者研究の創始 サブタイトル: W・ホーフマンの活動を中心に 発表要旨: (1)背景・目的  本研究は、ヴァルター・ホーフマン(Walter Hofmann, 1879-1952)の閉架式図書館論と図書館利用者研究との関わりを検討する。この際、彼の図書館利用者研究の成果である『女性の読書』に着目する。  W・ホーフマンはドイツ民衆図書館界において閉架式図書館を推進し、1910〜20年代ドイツ図書館界で議論を巻き起こした人物として位置付けられてきた。同時に、1931年に彼が刊行した博士論文『女性の読書 読み物と読者の指導のために』は、図書館利用者研究の萌芽的・先駆的存在とされてきた。しかし、閉架式図書館の推進と図書館利用者研究との両者が関連付けて考察されることは殆どなかった。また、『女性の読書』の内容の詳細な検討もなされてこなかった。従来の図書館史研究では忘却されてきた、ホーフマンの閉架式図書館推進と創成期図書館利用者研究にあたる彼の『女性の読書』を検討することで、ホーフマンがどのような意図をもって図書館利用者研究を開始したのかを明らかにしたい。この結果は、図書館史・図書館学史研究に貢献するものと思われる。 (2)方法  本研究は文献資史料に基づいた歴史的研究の手法をとる。1931年のホーフマンの博士論文である『女性の読書』を中心的に扱う。分析に際しては、1910年代以来の彼の図書館論も参照し、ホーフマンが利用者研究を行った理由・目的を解明する。具体的には、ホーフマンの図書館論の中で図書館利用者研究がいかに位置づけられるのか、どのように図書館利用者を分析したのかを明らかにする。 (3)予想される成果  『女性の読書』の研究目的・研究方法を検討した結果、ホーフマンは1910年代以来の自身の図書館論に沿うように、理念が先行する形で分析のカテゴリーを設定した事が判明する。自身の図書館論を実証しようとして、図書館利用者研究を開始したのである。しかし、ホーフマンは利用者研究のデータを十分に分析できなかった事も判明する。これらの知見に加えて本発表では、ホーフマンの一連の試みとその失敗が、どのような図書館史的意義を有しているのかについても考察を行う予定である。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 松本直樹(慶應義塾大学) [まつもとなおき] 発表タイトル: 公立図書館の指定管理者制度導入に対する地方議員の認識 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 地方自治体において,地方議員は図書館のあり方に大きな影響力を持つ。これは,地方議員が首長とならぶ二元代表制の一翼を担うためである。本研究では,指定管理者制度導入の議論における,地方議員の図書館に対する認識を明らかにする。具体的には以下のリサーチクエスチョン(RQ)を設定した。RQ1:地方議員が指定管理者制度に賛成する理由はなぜか,RQ2:地方議員が指定管理者制度に反対する理由はなぜか,である。 (2)方法 方法は,議会会議録の内容分析である。対象とした自治体は「市」と「区」である。「市」と「区」としたのは,数が多いことと議会会議録の公開が進んでいるためである。2019年度までに指定管理者制度を導入した市区は確認した限りでは216ある。これらの自治体は全て議会会議録をウェブで公開していた。発言以外に,発言年,議員名,政党,賛否のデータを取得した。内容分析では発言を読み込んだ上で,主張の根拠を抜き出し概念化した。次に,概念をカテゴリにまとめた。カテゴリは,条例改正に対する賛否に分けて整理した。 (3)得られた(予想される)成果 対象自治体全体のうち,データが得られたのは129自治体であった。得られなかった自治体は,討論が行われなかったものが69,議会会議録が遡及できず確認できなかったものが18であった。得られた発言総数は268件であり,1自治体あたり2.08件である。賛否に関しては賛成が86件,反対は182件であった。内容分析では,RQ1に対しては,@社会情勢・自治体施策との整合性,A手続きの適切性,B他自治体図書館の成功,C図書館の失敗,D職員問題,Eガバナンスの形態,F導入により期待される効果,を見いだすことができた。RQ2については,@制度的不適合(ハード),A制度的不適合(ソフト),B手続き上の問題,C導入により危惧される問題,D職員問題,E本来的あり方,を見いだすことができた。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 橋今日子(鶴見大学大学院文学研究科ドキュメンテーション専攻) [たかはしきょうこ] 角田裕之(鶴見大学) [つのだひろゆき] 河西由美子(鶴見大学) [かさいゆみこ] 発表タイトル: 横浜市学校司書の業務に関する質問紙調査分析 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的:横浜市は2013年10月から4年計画で学校司書の配置を進め、2016年度市内500校全校に配置を完了した。500名規模の学校司書を配置した自治体は他に例を見ないことから、本研究では、横浜市学校司書の業務の実態と業務に対する意識を明らかにすることを目的とした。 (2)方法: 2020年2月、横浜市立小学校、中学校、義務教育学校、特別支援学校に勤務する学校司書499名を対象に郵送による質問紙調査を実施した。調査は、1.属性と環境、2.業務の実施状況、3.業務に対する意識、4.自由記述の4部構成とした。2の質問項目は「学校図書館に関する職務分担表」(全国学校図書館協議会 2019)を基に、予備調査の結果により修正した48項目とした。3の「意識」については「負担感が大きい業務」を上記2の48項目から選択し、その理由を、予備調査分析から抽出された14項目からの単一選択とした。さらに業務への動機付けの低下度を測定するため、バーンアウト尺度17項目(久保真人,2007)を質問項目として追加した。 (3)得られた成果:有効回答は218名、回答率は43.6%であった。第一次分析の結果として、横浜市学校司書の属性として、経験年数2年から6年(74%)、40代から60代の中高年層が90%以上を占めるコミュニティであり、資格免許保有率は教員免許47%、図書館司書30%であることがわかった。業務項目のカテゴリ化からは「整備」、「奉仕」の業務実施率が高く、「協力体制」及び「図書以外の資料に関する業務」は実施率が低いことがわかった。さらに59%の学校司書が全国学校図書館協議会の「職務分担表」で主たる担当の業務として存在しない「その他の業務」を担当している。「蔵書点検」、「その他の業務」への負担感が高く、その理由として「時間の不足」が突出して首位であった。バーンアウト尺度の測定では、3つの因子を抽出した。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 望月 道浩(琉球大学) [もちづき みちひろ] 金沢 みどり(東洋英和女学院大学) [かなざわ みどり] 発表タイトル: 日本の公共図書館の子ども読書Webページの現状と課題 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  本研究に至る背景として、日本図書館協会図書館利用教育委員会(2001)が、図書館利用教育ガイドラインとして示したように、公共図書館では、児童から高齢者までのすべての利用者が図書館や各種の情報源を適切に活用して必要な情報を入手できるように、図書館利用支援(図書館利用教育)の実施を通じて利用者の情報活用能力の育成をはかるという新しい役割が与えられたことが挙げられる。 金沢(2003)は、図書館を日頃よく利用する顕在的利用者に加えて、それほど利用しない潜在的利用者に対してもインターネット・ホームページを活用した質の高い積極的な広報活動が望まれることを示した。また、金沢(2006)は、生涯学習社会における公共図書館では、子どもの生涯にわたる読書習慣の確立に向けた読書支援に加えて、子どものリテラシーの育成支援および情報活用能力の育成支援など、生涯学習の基礎を固める上で極めて重要な役割を担うことが期待されていることを指摘している。 その後、日本の公共図書館Webサイトについては、丸山・金沢(2006)並びに金沢・丸山(2007)による児童サービスに関するWebページ調査、金沢・丸山(2013)によるヤングアダルト(YA)サービスに関するWebページ調査、金沢(2018)による学校支援Webページ調査が行われてきた。 それらの先行研究から、日本の公共図書館Webサイトには、学校教育の充実と地域の教育力の向上を図るために、「子どものWebページ」、「YA Webページ」、「学校支援Webページ」が備えられる傾向にあるのみならず、「子どもの読書活動の推進に関する法律」に基づく「子どもの読書活動推進計画」との関わりなどから、「子ども読書Webページ」も備える傾向にあることが明らかとなった。   そこで、本研究では、子どもを取り巻く読書環境という視点から、それら4種類のWebページのうち、「子ども読書Webページ」に着目し調査・分析を行った。調査にあたっては、Carolynn Rankin(2016)が示した、個々の子どもを中心にした子どもの読書環境(マイクロシステム、メゾシステム、エクソシステム、マクロシステムの4つのシステム)に基づき分析し、「子ども読書Webページ」のコンテンツに関する現在の傾向を明らかにするとともに、「子ども読書Webページ」の今後の課題について検討し、考察することを目的とする。 (2)方法  調査対象は、日本全国の公共図書館Webサイト上にある子ども読書Webページである。日本図書館協会Webサイト内「図書館リンク集:公共図書館(公立図書館)」に示されたリストを活用し、調査対象となる都道府県立図書館、並びに、市(区)町村立図書館1259館を抽出し調査を実施した。調査期間は、2019年8月1日〜9月23日である。  調査方法は、Carolynn Rankin(2016)が示した、個々の子どもを中心にした子どもの読書環境(上記4つのシステム)の観点に基づき、各図書館Webサイトの基本情報を含めた全34項目を設定し調査を実施した。 (3)得られた(予想される)成果  子ども読書Webページを有する日本の公共図書館Webサイトは、調査対象1259館中160館であった。館種別の子ども読書Webページのコンテンツを4つのシステムの観点に基づいて分析すると、「マイクロシステム」や「メゾシステム」のように住民への直接サービスに近いコンテンツについては、市(区)町村立図書館がそのコンテンツに力点を置く一方で、「エクソシステム」や「マクロシステム」のように子ども読書に関わる活動レベルの範囲が広がりを見せるコンテンツにおいては、都道府県立図書館がそのコンテンツの提供に力点を置く傾向が明らかとなった。また、館種別の子ども読書Webページの各システムの組み合わせからみると、市(区)町村立図書館ではコンテンツの提供の及ばない、エクソシステムやマクロシステムといったコンテンツの提供については、都道府県立図書館がより力を注いでいる傾向にあることが示唆される。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 薬袋 秀樹(元筑波大学) [みない ひでき] 発表タイトル: 図書館法の検討過程に関する座談会記録(1950年、52年、65年、71年)の分析 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 1950年に制定された図書館法の検討過程に関する文献には、解説書・記事、関係者の個人著作のほか、座談会記録がある。1950年、52年、65年、71年の4回、検討に関わった文部省担当者と日本図書館協会(日図協)関係者による座談会が行われ、記録が『図書館雑誌』に掲載されているが、これまで分析されていない。本研究の目的は、この記録の内容を分析し、これらの人々の意見の内容を明らかにすることである。 (2)方法 意見を要約し、検討のプロセスに沿って、行政組織、検討活動(検討過程、法案の内容、最終法案の評価、日米の考え方の相違の4項目)の合計5項目に分類した。これまでの研究から、日図協と文部省、日本側とGHQの関係に着目した。事実については今後他の文献と比較検討する。 (3) 得られた(予想される)成果 @意見の内容は次のように整理できる。行政組織: ESSとCIEの関係、日本の省庁からGHQへの働きかけ、バーネット・ネルソン等の評価、バーネットとフェアウェザーの関係、文部省担当課の人事異動、日図協と文部省の関係。検討過程:昭和24年1月の図書館法案の取り扱い、社会教育法と公民館、困難な経済事情。法案の内容:公立図書館の設置、司書養成の方法、司書館長の配置の義務付け、基準、中央図書館制度。最終法案の評価:反対意見と最終判断、図書館法の評価、法改正の必要性。日米の考え方の相違:日米間の感情、日米の制度の相違。A日図協と文部省、日本側とGHQの関係、特に最終法案に関する意見が明らかである。日本側は、最終段階におけるGSの修正に対し、きわめて強い不満を持ちつつ、今後の法改正の取り組みを条件として制定を認めたものと考えられる。B多くの問題が議論され、議論の範囲が明らかである。雨宮、武田、廿日出の発言が多く、他の文献を補っているが、本来、報告記事を作成するべきである。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 木村麻衣子(日本女子大学) [きむらまいこ] 発表タイトル: 漢籍利用者へのインタビュー調査に基づく利用者タスクおよびエレメントの抽出 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 FRBRならびにその後継であるIFLA LRMは,利用者の情報行動(利用者タスク)と目録の書誌事項(エレメント)を関連づけようとした点で画期的であるが,資料群や利用者群ごとに異なるであろう利用者タスクをどのように抽出するのか,また抽出した利用者タスクを各エレメントとどのように関連づけるのかについては,議論の余地がある。発表者はこれまでに,漢籍を研究に用いている研究者へのインタビュー調査を実施し,漢籍利用者の研究行動を把握する方法について検討してきた。今回,インタビュー調査結果から漢籍利用者の利用者タスクおよびその利用者タスクに関連付けられるエレメントを抽出する方法を考案し分析を試行したので,その手法を提案するとともに結果を提示する。 (2)方法 提案手法は次の通りである。@インタビュー対象者の発言を意味内容ごとにセグメントに分け,各セグメントに1件以上のコードを与える。Aこれらのうち具体的な情報行動に触れているコードに対して,それぞれ「何を」「どうする」「そのために何が必要か」を検討し記録する。B上記Aに記録した語句を用いて,暫定利用者タスクを付与する。C各コードに附された利用者タスクに対して,「目的(探しているエレメント)」,「手段(使用したエレメント)」,「結果(見つかったエレメント)」のいずれかを記録する。「目的」「手段」「結果」に記録するエレメントは,IFLA LRMが定義する実体に属することが明確である場合は,「エレメント名/実体名」の形で記録する。以上の手法を用いて,漢籍利用者8名に対するインタビュー内容を分析する。最後に,D暫定利用者タスクとエレメント名が妥当かどうか,全体的な見直しを行う。 (3)得られた(予想される)成果 これまで国内外で具体的にその方法が示されたことのない,利用者の情報行動から利用者タスクを抽出し,目録に記録されうるエレメントと結びつける方法を開発したことが本研究の成果である。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 矢田竣太郎(奈良先端科学技術大学院大学) [やだしゅんたろう] 浅石卓真(南山大学) [あさいしたくま] 宮田玲(名古屋大学) [みやたれい] 発表タイトル: 学校図書館による教材提供を支援する図書選定システムの提案とユーザインタフェースの予備的評価 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 学校教育における探究学習が重要視され,学校図書館の活用が期待されている.学校図書館職員による教材図書の提供はその主な実態の一つであるが,十分な経験と作業時間が必要なため,新任職員や多忙な職員へのサポートが求められる.本研究では学校図書館職員による教材提供を支援するための図書選定システムを提案し,中核的機能の一つを実装したユーザインタフェース(UI)を試験的に評価する. (2)方法 学校図書館現場で現状広く利用されているのはOPACシステムだが,授業に関連した図書を提供するには,書誌情報を用いた間接的・試行錯誤的検索によらざるを得ない.また,学校図書館による教材図書提供事例を共有できる国内のプラットフォームでは,図書を起点として既存の事例を見つける仕組みが整備されていない.こうした関連研究・実践を踏まえ,教材提供のための図書選定システムに求められる3つの中核的機能として,(1)教材選定に有用なメタデータを活用して図書探索を支援する機能,(2)図書からの事例検索も可能な形で活用事例を共有できる機能,(3)選定された図書や過去の活用事例に基づき発見的に図書を推薦する機能を提案する.さらに,中核的機能(1)を体現するUIをwebアプリケーションとして実装した.このUIは教科書の単元との関連が認められる図書を日本十進分類記号で紐つけておくことにより,授業で扱われる単元を指定するだけで関連図書を表示できる.機縁法で協力を依頼した12人の(学校)図書館職員経験者に,その使用感について質問紙で調査した. (3)得られた(予想される)成果 12人の調査協力者全員が有用と回答し,内5人は「非常に有用」と回答したことから,提案UIが教材提供業務の支援に資することが示唆された.特に単元を指定するだけで関連図書一覧を表示できる点の評価が高かった.一方,自館・近隣図書館の所蔵状況に基づく絞り込みや教材提供事例の保存・共有機能の要望が多かった.今後は提案UIを改善しつつ,残り2つの中核的機能を実装する. ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 栗山正光(東京都立大学) [くりやま まさみつ] 発表タイトル: レファレンス事例の陳腐化と追跡調査の有効性 サブタイトル: 「セレンディピティ」に関する調査を例にして 発表要旨: (1)背景・目的  レファレンス事例の記録と参照は古くから図書館において行われ、国立国会図書館の主導によるレファレンス協同データベースも着実に蓄積を増やしている。しかし、レファレンス事例の中には、時の経過により質問時点の調査手段や解答が陳腐化してしまっているものも多い。インターネットの発展が目覚ましい現在では特にそうである。ここで重要になるのが、ある程度の時をおいての追跡調査、フォローアップである。本研究では、「セレンディピティ」という言葉の語源や意味に関する資料提供に関する調査を具体例として、レファレンス事例の陳腐化をもたらす要素や追跡調査の有効性を探る。 (2)方法 筆者は1990年代、筑波大学図書館で当時の江崎玲於奈学長から「セレンディピティ」という言葉が生まれる元となったお伽話を読みたいという調査依頼を受けた。この時の記憶(記録は取っていなかったので)と、レファレンス協同データベースに収録されている同様の調査の記録、さらに現時点における筆者自身による追跡調査とを比較検討する。それぞれが各図書館、各時点における最適解だったかどうか、時間の経過によりそれがどう変化していったのかを考察する。 (3)得られた(予想される)成果 「セレンディピティ」は理系の研究者に特に好んで使われ、語源や元になったお伽話の原典への関心も高い。日本では図書館員よりもこうした研究者によって論文の発表や原典の探索が行われている。2006年から2007年にかけてイタリア語版と英語版の2種類の翻訳が出版され、それ以前のレファレンス回答に陳腐化をもたらした。図書館の資料提供としてはこれが一応の解となり、これはレファレンス協同データベースでも追記がなされ、追跡調査の有効性を示している。2011年には、これまでの探索結果をまとめたさらに詳細な論文も発表され、また、英語やフランス語にまで探索を広げれば、インターネットで提供できる資料が見つかり、新たな陳腐化と追跡調査の有効性が示唆されている。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 鬼頭孝佳(名古屋大学文学研究科博士後期課程) [きとうたかよし] 西田喜一(名古屋大学教育発達科学研究科博士後期課程) [にしだよしかず] 発表タイトル: 「これからの図書館像」の成立過程から見る図書館政策の展開 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  最近の図書館政策を把握するものとしては、「これからの図書館像」があるが、この文書に関する批判的検討を行った研究は管見の限り見当たらない。そこで、本研究では、「これからの図書館像」の成立過程と問題点を明らかにする。 「これからの図書館像」は、「これからの図書館の在り方検討協力者会議」これまでの議論の概要(以下、概要文書)にもとづき作成されているはずだが、これらを比較すると内容や重点の置き方が変質している。なぜ変質したのか、また、その変質にはどのような問題があるのか検討する。 (2)方法 「これからの図書館像」とその原案となった概要文書において、共通して使用される語が置かれる文脈の差異に着目し、批判法学の観点から分析する。 (3)得られた(予想される)成果  概要文書から「これからの図書館像」に至る過程で、同じ語句を用いながら、次の内容の力点の変遷が認められる。@「情報リテラシー」は「検索」に重点が置かれていたが、経済的要請に基づく自己決定・絶えざる学習に力点がシフトしている。A「地域課題」は、概要文書の時点で、自己責任論としての地方分権・企業の調査機能の代替が謳われていたが、行政課題と住民のニーズが一段とオーバーラップさせられ、一般行政の宣伝も強調されるようになった。B「管理運営」は、多様な方法の検討とコスト意識が強調されているにすぎなかったが、コストと生産性の観点から指定管理が登場し、点検・評価におけるアウトカム指標の重視が突如指摘された。C「住民参加」に関しては、活動保障の観点が薄れ、奉仕による図書館改革支援が重視されるようになった。D「役割分担」は、文科省を調整役とする連携協力という意味であったものが、政府の戦略を遂行する組織体制の意に変化している。 結果的に現場に十分な浸透こそしなかったものの、単に図書館政策に関心を持たれればよいという段階から、学校教育同様の、実証的・批判的な政策検討が要請される。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 小山憲司(中央大学) [こやまけんじ] 発表タイトル: 大学生による遠隔授業の評価と課題 サブタイトル: 図書館情報学教育科目におけるアンケート調査結果の分析 発表要旨: (1)背景・目的  新型コロナウイルス感染拡大により、国内の大学は2020年度の授業開始時期を延期したり、遠隔授業に切り替えたりなどの対応を余儀なくされた。文部科学省の調査によれば、6月1日時点で「授業を実施している」と回答した大学1,009校(含専門職大学、短期大学)のうち、遠隔授業を実施しているのが600校(59.5%)、面接授業と遠隔授業を併用しているのが308校(30.5%)、面接授業実施校が101校(10.0%)で、9割の大学で遠隔授業が実施された。発表者の勤務する中央大学でも2020年4月9日開始予定であった前期の授業が2週間後の4月23日開始となった。また、すべての授業が遠隔授業となった。  遠隔授業の実施にあたり、教員もまた、教育内容を修正、変更したり、自らの技能の向上を図ったりなど対応に追われたことは想像に難くない。発表者もまた、オンライン会議システムの利用方法の習得や授業計画の組み換え、教材の準備など、学内の教職員に協力を仰ぎながら授業を進めた。  上述した状況は不測のこととは言え、今後の大学教育を検討するための大きな経験にもなる。そこで、今回採用した方法や対応は適切なものであったかを検証するため、発表者が担当する講義科目「図書館情報学概論」「図書館情報資源概論」「情報サービス論」において、学生にアンケート調査を実施した。本ポスター発表では「図書館情報学概論」の結果を中心に、学生の受講のようす、授業に対する志向、授業の課題や問題点等を検討する。 (2)方法  「図書館情報学概論」の受講者51名に、本学で利用する学習管理システムを用いてアンケート調査を実施した。調査期間は7月13日から28日の2週間で、48名から回答を得た。回収率は94.1%であった。 (3)得られた(予想される)成果  遠隔授業の利便性は多くの学生が実感している一方で、集中力が続かない、生活のリズムがつくりにくい、わからないことを友達に相談しにくいなどの弊害も明らかとなった。また、大学での授業経験のない1年生と2年生以上との間で相違がある可能性が示唆された。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 山田翔平(東洋大学社会学部) [やまだしょうへい] 発表タイトル: 大学の属性と大学図書館の蔵書の関係の分析 サブタイトル: 経済学分野を対象として 発表要旨: (1)背景・目的 日本には、2019年度の時点で782校の大学があり、各大学はそれぞれの実情に応じた図書館蔵書を構築している。しかし、大学図書館研究と高等教育研究の接合はこれまでほとんどなされておらず、大学との結びつきで大学図書館蔵書は捉えられていない。本研究では、受験者の大学選択に関わる大学の属性を取り上げ、その属性の違いと蔵書の関係を明らかにし、大学図書館蔵書の実態を記述した。 (2)方法 経済学部を有する大学(120校)を対象とし、これらの図書館に所蔵のある日本十進分類法第2次区分33(経済)に分類されるタイトル(異なりタイトルで97,273タイトル)を分析対象とした。図書のデータは、国立情報学研究所目録所在情報サービスが提供する総合目録データベースの図書書誌データセット(2017年4月公開のもの)を利用した。大学選択に関わる属性としては、学部の偏差値、設置者の別、所在地の3つを取り上げた。120校各校の所蔵タイトル数を算出し、属性ごとに大学群に分け、群間で所蔵タイトル数を比較した。さらに、第2次区分33の下の第3次区分の分類記号ごとの所蔵タイトル数の違いも分析した。比較に際しては、記述統計量、及び群ごと大学の所蔵タイトル数と一様分布のQ-Qプロットを参照した。 (3)得られた(予想される)成果 本研究の最大の成果は、これまで大学との関わりで十分に捉えられていない大学図書館蔵書について、大学の属性に応じた蔵書の差異を大規模な蔵書データを用いて明らかにし、その実態を精緻に記述したことである。属性ごとの分析の成果として、@学部の偏差値が高い大学の方が、所蔵タイトル数が多い傾向にあること、A設置者の別では、群ごとに蔵書の特徴があること、B都市部にある大学の方が、所蔵タイトル数が多い傾向にあること、が明らかになった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 根本彰(なし) [ねもとあきら] 発表タイトル: 国際バカロレアにおける図書館の位置づけについての考察 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 国際的にももっとも先進的な初等中等教育のカリキュラムとされている国際バカロレア(IB)の教育課程は基本的に探究学習(inquiry based learning)を中心にしており、学校図書館は必須の位置づけになっている。その位置づけの根拠、理由、そして現状を文献によって明らかにすることにより、今後の学校図書館の役割を明確化することが目的である。 (2)方法 高校レベルInternational Baccalaureate Diploma Programme(IBDP)におけるカリキュラムに絞り、資料としてIB本部が出している手引書、IB設立に関わって重要な役割を果たしたA. D. C. Petersonの自伝、それ以外の国内外の関連文献を用いた文献研究を行う。IBDPのカリキュラムは、言語と文学、外国語、社会、理科、数学、芸術の6領域の科目に加えて、教科横断的なコア科目として「知の理論(Theory of Knowledge: TOK)」「課題論文(Extended Essay: EE)」「創造性・活動・奉仕(Creation, Activity and Service: CAS)」の3科目によって構成されている。このなかでTOKとEEにおいて、学校図書館を用いた学習がどのように行われるのかについて明らかにするのは、この二つが探究学習を前提としていて、それを実施するためには教員を支援する学校図書館サービスが必須のものになっているからである。 (3)得られた(予想される)成果 IBDPにおいて実質的には、学校図書館の設置と専門職によるサービスの存在は前提になっているが、それを明文化する規定はない。そのために、国によって学校によって施設およびサービス面での格差が生じているものと思われる。この研究では国際的な学校図書館領域の議論と国内の議論を検討することで、現在のIBDPにおける学校図書館の位置づけを確認する。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: カレイラ松崎順子(東京経済大学) [かれいらまつざきじゅんこ] 発表タイトル: 日本における子ども英語図書館の設立の可能性を探る サブタイトル: 釜山広域市立中央図書館別館釜山英語図書館の英語プログラムから 発表要旨: (1)背景・目的 隣国の韓国では英語教育が小学校に導入されて以来,早期英語教育が過熱化し,親の所得が子どもたちの学校以外での英語学習への参与,さらには英語力に影響を与えるなどの問題が生じてきた。ゆえに,韓国政府は所得による格差から生まれる英語力の格差をなくすために,様々な対策を行ってきた。それらの対策の一つとして子ども英語図書館があげられる。そこでは英語の図書を提供するだけでなく,様々な英語講座やプログラムなどを無料または廉価で提供している。 一方,日本では2020年度に小学校において英語が教科化され,今後は今まで以上に早期英語教育が盛んになる可能性があり,韓国のような英語における教育格差が社会問題に発展する可能性もある。ゆえに,教育格差対策の一つとして,子ども英語図書館の設立というものを将来的に検討していくべきであろう。よって,発表者は韓国で最も大きい子ども英語図書館である「釜山広域市立中央図書館別館釜山英語図書館」の視察を行った。本発表ではその報告を行い,最後に日本への示唆について考察していく。 (2)方法  2019年3月に釜山英語図書館の視察と釜山英語図書館が提供している英語プログラムやそれらの利用状況を明らかにするために図書館長にインタビューを行った。 (3)得られた(予想される)成果 日本において韓国のような子ども英語図書館をすぐに設立するのは難しいが,廃校になっている学校や既存の公共の図書館の建物を改装し,英語の書籍を揃え,英語のプログラムを提供することによって,英語のみの空間を作ることが可能であろう。 発表では,釜山英語図書館で行っているその他の様々なプログラムや制度について紹介し,最後に日本がどのようなことを学べるかを考察していく。また,補助資料として「韓国の子ども英語図書館 釜山英語図書館 教育格差対策としての図書館の役割を考える」https://youtu.be/mkALbc_zzT0(YouTube上で視聴可能)を作成した。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 森山 光良(東京大学大学院教育学研究科) [もりやま みつよし] 発表タイトル: 日本の広域行政の制度的枠組みへの公共図書館ネットワークの対応について サブタイトル: 日仏米の比較制度分析を通して 発表要旨: (1)背景・目的 研究の背景には,近年の日本の公共図書館における動向として,所属する市区町村が全庁的に進める広域行政に歩調を合わせて,広域レベルの公共図書館ネットワークに取り組む動きが目立つようになってきたことへの着目がある。広域行政は,平成の大合併後の環境変化に対応するための自治体行政にとっての有力な解決手段の一つであるが,公共図書館の立場からの研究は少ない。一方,公共図書館ネットワークは,地理的範囲が広域,都道府県域,地区,全国レベルへと広がる中で,市区町村立図書館支援が主要任務である都道府県立図書館が担う都道府県域を中心に発展してきた。すなわち,公共図書館ネットワークは,広域行政の制度的枠組みへの対応と,既存のネットワーク基盤への対応という,2つの異なる要素に向き合っていることにも着目する必要がある。 研究の目的は,上記2つの異なる要素がある中で,公共図書館ネットワークの効果的な取り組みを検討することである。検討事項の中には,都道府県域のネットワーク基盤が既にある中で,そもそも地理的に包含される広域レベルの取り組みが必要なのか検討することも含まれる。 (2)方法 研究方法は,主に文献レビューによるものである。日本と海外の比較制度分析を行った上で,日本のそれぞれの環境において,どのような公共図書館ネットワークを運営するのが望ましいかを考察する。 (3)得られた(予想される)成果 得られた研究成果として挙げられるのは,公共図書館ネットワークは,それ自身が向き合う上記2つの異なる要素のうち,既存のネットワーク基盤という要素を活用することが効果的であるということである。ただし,現状維持という意味合いでの活用でなく,海外や日本の広域レベルの取り組み成果を参照して抜本的に改善することが必要である。また,都道府県域のネットワーク基盤は,全国一律でないため,置かれた環境を考慮して対応する必要がある。 ----------------------------------