---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 中園長新(麗澤大学) [なかぞのながよし] 発表タイトル: 高等学校情報科教員は学校図書館活用をどのように考えているか サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 学校図書館は学校に必置の情報関連施設である。しかし、情報教育においてはコンピュータ等のICT活用が主であり、学校図書館が十分に活用されていない現状があるように感じられる。本研究では、高等学校情報科教員が学校図書館活用をどのように考えているか調査することを通して、情報教育における学校図書館活用の現状ならびに活用推進に向けた方向性を検討することを目的とする。 (2)方法 本研究では高等学校の情報科教員を対象にWebフォームを用いたアンケート調査を行い、情報教育(情報科の授業)における学校図書館活用について、教員が持っている意識等について調査を行った。調査期間は2021年2月から3月で、42件の回答を得た。アンケート結果は設問に応じて量的・質的に整理し、情報科教員が考える学校図書館活用の在り方を明らかにするとともに、活用における課題等を考察した。 (3)得られた(予想される)成果 アンケート調査の結果、情報科の授業で学校図書館を活用したことがあるとした回答は12件(28.6%)に留まり、活用が進んでいない実態が明らかになった。情報科教員からは、学校図書館の活用に教育的意義を見出すことができないという主旨の意見や、学校図書館の設備が不十分(使いにくい等)といった意見が寄せられた。一方で、調べ学習をはじめとした学習における活用を模索する意見や、情報・メディアといったキーワードから学校図書館に積極的にアプローチしようとする意見等もみられ、教員間の温度差が感じられる。学校図書館活用の阻害要因を尋ねる設問(自由記述回答)において、類似回答をグルーピングすることで整理した結果、情報教育における学校図書館活用推進のためには、情報教育の側面から学校図書館の有用性を明らかにし、活用を積極的に模索しようとする教員の意識面の変革ならびに、学校図書館の設備面から利便性を高めていくことの2つのアプローチが必要であることが見出された。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 山本 順一(放送大学) [やまもと じゅんいち] 発表タイトル: Society 5.0幻想における公共図書館の再定義 サブタイトル: ノルウェー図書館法(2014年施行)を手掛かりとして 発表要旨: (1)背景・目的  グローバル社会が進展し、Googleによって自在に必要とする情報知識が取り出せそうに見える。オックスフォード大学の研究者たちの著名な研究などでは公共図書館業務がいずれなくなるとされ、国内の一線の研究者の中にも『公共図書館が消滅する日』と題する優れた研究成果が出されたり、大方の人たちには、すでに公共図書館は余計なものとなったと感じられているようである。もっとも、インフォテインメント(娯楽情報)を楽しみ、都合の良いフェイク・ニュースだけを受入れ、エコーチャンバーで偏った信念を強化する社会を肯定するのでなければ、公共図書館が再度活性化されるべき社会的必然性が意識されよう。この研究発表の目的は、現在、同質的単一価値観の社会を前提とする個人的なリテラシーと軽読書を中心とする公共図書館像から、多(異)文化で競合的複数価値観の社会を前提とする公共図書館像への遷移過程にあることを論証することにある。 (2)方法  研究方法は、@2014年1月実施のノルウェー図書館法についての関係規定の検討(これは表現の自由に関する2004年に改正されたノルウェー憲法100条が基礎にある)と、Aオスロ大学のR. Audunsonらが2014年に行ったノルウェーのすべての公共図書館長を対象としたオンライン調査結果(回答率54%)を分析するとともに、入手可能な関係文献を利用する。 (3)得られた(予想される)成果  改正ノルウェー図書館法でミッション・ステートメントと言及される新設の1条第2文は、「公共図書館は、独立した集会の場所であり、公衆が議論し、討議が戦わされる場所でなければならない」と定める。ノルウェーの中央政府は、この規定に基づき、「全国図書館戦略 2015‐2018」を作成し、図書館整備に5,700万クローネ(7億1364万円)の補助金支出を充てた。理念的にはJ.ハーバーマスのいう公共圏、物理的にはR.セネットの公共性、R,オルデンバーグの第三の場所を目指すものとされるが、近年のオスロ大学の研究者たちの改正図書館法実施前後の調査研究や法解釈等を対象とする本報告での検討により、ノルウェーの政府や自治体の補助金供与で可能な単なる施設設備の整備を超えて、実際に多様なpublicsの討議をサポートする能力を備えた図書館員の配置・育成など人的資源に関する官民の協働についての示唆が得られる。このようなノルウェーの改正図書館法が目指している方向は、北欧諸国に留まらず、アメリカ図書館界でも2010年代から議論されており、グローバルな図書館の世界の主要な潮流となっており、日本の公共図書館の近未来の政策形成にも大いに参考とされるべきものである。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 雪嶋宏一(早稲田大学) [ゆきしまこういち] 発表タイトル: 16世紀アントワープにおける近代的書物形態の発展について サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  近代的書物形態の要素の成立と発展について、16世紀の印刷出版の中心地であるヴェネツィア、バーゼル、リヨン、パリ、ジュネーヴ、ケルンにおける事情を研究してきたが、今回は16世紀後半に印刷出版の中心地になったアントワープの事情を研究調査した。アントワープにおけるページ付け印刷本の出版の推移と近代的標題紙の出現に注目して、近代的書物形態の発展過程を明らかにすることを目的とする。 (2)方法  ページ付け印刷本の出版推移を知るために、16世紀低地諸地方の印刷本の書誌情報を提供するUniversal Short Title Catalogue (USTC)を利用して、編年順にアントワープ印刷本の書誌情報を悉皆調査して、毎年の出版点数とその中のページ付け本の統計数値を算定した。USTCには対照事項の記述欠落や不正確な記述が散見したりするため、1500-40年の低地諸地方の印刷本書誌(Nihoff-Kronenberg,1923-71)とアントワープ最大の印刷所プランタン(1555-89)の書誌(Voet,1980-83)を利用してUSTCデータを補完・修正して、16世紀のアントワープのページ付け印刷本データを集成した。 (3)得られた(予想される)成果  今回の調査によりアントワープ最初のページ付け印刷本は1519年に出版されたエラスムス『対話集』であることが判明した。これは1518年バーゼル刊行フローベン版に基づいたもので、ページ付けがバーゼルの影響であったことが判明した。この版にはすでに近代的標題紙の要素が備えられており、アントワープではバーゼルより早くに近代的標題紙を備えた本の印刷が始まったことも判明した。アントワープでは16世紀前半には人文主義書を中心にページ付けが行われたが、全体の10%未満であった。  アントワープのページ付け印刷は1560年代にようやく40%を超えた。その要因はプランタンがページ付けを本格的に採用したためである。プランタンのページ付け本はアントワープのページ付け本の70〜80%を占め、その中心がカトリック書であったことから、独自の特徴を示した。プランタン没後アントワープの出版活動は減少した。プランタンの後継者がページ付け印刷を継続したが、世紀末までアントワープではページ付け本が50%を超えることはなかった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 高松美紀(東京都立狛江高等学校) [たかまつみき] 発表タイトル: 日本における国際バカロレア認定校の図書館の実態 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的   近年日本では、学校教育法第1条で定義された、いわゆる「一条校」における、国際バカロレア(以下IB)の導入が急激に進んでいる。IBでは探究学習を基盤として学校図書館の役割を重視するため、21世紀の学びに学校図書館が対応するための示唆を与えると考える。しかし、国内のIB校の図書館の実態は十分には報告されていない。  本研究の目的は、国内のIB認定校の図書館を調査し、一条校とインターナショナルスクール(以下、インター校)との比較や、IB導入への対応を通して、日本の学校図書館の探究学習に関する課題と可能性を検討することである。 (2)方法  研究方法は質問紙調査である。2020年10月〜2021年3月に、国内の国際バカロレア認定校を対象に調査を実施し、45校から回答を得た。うちインター校は18校、一条校は27校であった。 (3)得られた成果    調査対象について、インター校では初等教育プログラムの割合が大きい。対して一条校では高校2,3年生に相当するディプロマ・プログラムが過半数を占め、全生徒数に占めるIBプログラム選択者の割合は低い。また、一条校の四分の三の主な学習言語は日本語である。  本報告では、図書館の特徴、探究学習に関するサービス、課題を中心に報告する。第一に、インター校と一条校では図書館スタッフの任用や資格が異なるが、インター校の中心的なスタッフは”Teacher Librarian”が多い。第二に、探究学習に関するサービスとして、一条校ではレファレンスが中心であるが、インター校では授業教材や学習により直接的に関わり、メディアや情報スキルの獲得にも関わる傾向がある。指導は年間計画に定期的に位置づけられている割合も高い。第三に、課題として、一条校ではオンラインサービスの充実が挙げられる。一条校とインター校に共通する課題は学校の組織内の位置づけや教員との協働である。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 谷口祥一(慶應義塾大学文学部) [たにぐち しょういち] 橋詰秋子(実践女子大学短期大学部) [はしづめ あきこ] 発表タイトル: NCR2018のRDFデータ化 サブタイトル: 記述規則とメタデータの接続等による展開 発表要旨: (1)背景・目的:既にNCR2018とRDAベータ版を対象として、それら記述規則自体をRDFによる適切なデータ表現とすることを目的とした研究発表を行っている。そこでは、記述規則の構成を基盤にしつつもRDFによるデータ表現とするために、必要な検討項目とその選択肢の提示を試みた。本発表では、NCR2018に対象を限定した上で、記述規則とそれを適用して作成されたメタデータとを接続する、規則内外の参照関係を辿れるようにするといった活用の観点から再検討を加え、新たな要素を含めて展開を図る。 (2)方法:JLA目録委員会が公開したNCR2018語彙のRDF定義(エレメントや関連指示子を示すRDFプロパティなど)にそのまま接続できるようにすることを前提にして、記述規則のRDF表現を活用する観点から検討を加えた。主に検討した事項は、以下の通りである。@個別規定間の関係指示。A個別規定から当該規定に従って作成された事例データへの参照。B事例データから実際に適用された記述規定の参照。C用語解説に収録されている用語のRDFデータ化と記述規定との接続。D国立国会図書館による適用細則のRDFデータ化とNCR記述規定との接続。 (3)得られた(予想される)成果:それぞれの検討事項に対して必要な検討項目を示し、可能な選択肢と適切と判断された選択肢を提示した。たとえば、@個別規定間の関係指示に関する検討項目とは、a)規定クラスの設定単位(条項番号単位か、条項を分割した最小の単位か)、b)条項番号に沿った規定間の関係指示(「全体−部分」か、「上位−下位」か)、c)規定クラスの設定を最小規定単位とした場合の別法の扱いなどである。AおよびBについての検討項目には、事例データを表すURIが実体リソース(実世界オブジェクト)と情報リソース(メタデータ)のいずれを表すのかに伴う記録法の選択肢などがある。また、Bにおいては、記録する情報の範囲(採用した情報源を記録するなど)という検討項目を確認した。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 三輪 眞木子(放送大学) [みわ まきこ] 佐藤 正惠(千葉県済生会習志野病院) [さとう まさえ] 山下 ユミ(京都府立図書館) [やました ゆみ] 磯部 ゆき江(二松学舎大学) [いそべ ゆきえ] 阿部 由美子(放送大学) [あべ ゆみこ] 発表タイトル: 高齢者のICTスキルとヘルスリテラシー サブタイトル: 発表要旨:  (1)背景・目的 年齢によるデジタルデバイドにより、高齢者はWeb上の健康医療情報へのアクセス機会が制約される。、後期高齢者は前期高齢者と比較してヘルスリテラシーレベルが低い可能性がある。そこで、高齢者のICTスキルとヘルスリテラシーの関係を明らかにするため、@ICTスキルとヘルスリテラシーレベルにはどんな関係があるか、A高齢者の間に年齢・性別によるヘルスリテラシーレベルの違いはあるか、Bヘルスリテラシーレベルと生活習慣に相関があるか、の3つのリサーチクエスチョンに基づき、高齢者を対象にアンケート調査を実施した。 (2)方法 首都圏の自治体が高齢者向けに開催する生涯学習の参加者有志が自主的に開催している研究会のメンバーを対象に、アンケート調査を実施した。2021年1月14日〜21日に同研究会メンバーと知己の計96名に調査票を配布し、有効回答62件を対象に、回答データの分析を実施した。ヘルスリテラシーレベルとインターネット利用に関する質問(選択肢)への回答には、統計手法による分析を、健康自己管理に関する質問(自由記述)への回答には、内容分析を実施した。 (3)得られた(予想される)成果 回答者のヘルスリテラシーレベルを測定するため、Communication and Critical Health Literacy (CCHL)尺度による設問を採用し、インターネット利用者と非利用者の違いをカイ二乗検定により分析した結果、5項目中4項目で有意水準p=.1で有意差が認められた。性別、年齢別(75歳未満と75歳以上)の間には有意差は認められなかった。この結果から、インターネット利用者は非利用者と比較してヘルスリテラシーレベルが高いことが明らかとなった。一方、自由記述の内容分析から得られた、運動、食事、社会活動などの生活習慣とヘルスリテラシーレベルの間には有意な相関は認められなかった。今後は属性の異なる他の高齢者を対象に同様のアンケート調査を実施して、ヘルスリテラシーレベルとインターネット利用の関係を検証する。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 松井健人(日本学術振興会特別研究員PD(筑波大学)) [まついけんと] 発表タイトル: 戦前期日本図書館界におけるドイツ図書館情報の受容 サブタイトル: 『図書館雑誌』の検討を中心に 発表要旨: (1)背景・目的  戦前日本の図書館界において、ドイツ図書館情報はどのように受容されていていたのか。  この点を問うのが本研究の目的である。本研究の背景として、戦前日本の学術・教育界にドイツが与えていた影響力の大きさがあげられる。戦前日本において、大学機関の形成・法整備・教育方法・思想哲学など、ドイツの情報が参考にされ、あるいはドイツを模倣した制度・事象は非常に多い。しかしながら、戦前日本図書館においては、英米のパブリックライブラリーの影響が最も大きいものであったと位置づけられてきたため、英米以外の外国図書館情報がどのように受け取られていたのかを問う観点は希薄であった。しかしながら、図書館界におけるドイツ受容を問うことは、狭義の図書館史のみならず出版・学術・教育などより広い観点から戦前日本の図書館界をとらえるためには必要だと考えられる。 (2)方法  本研究は、文献調査の方法をとる。戦前日本図書館界を代表する専門誌『図書館雑誌』を精査し、ドイツの図書館に関する受容あるいは言及がどのように行われているのかを調査した。これと同時に、ドイツ図書館について言及した人物の著作ならびに当時の文部省刊行物を検討の対象とした。無論、『図書館雑誌』一誌で戦前日本の図書館界での言説を網羅することはできない。しかし、主要な図書館人が寄稿した雑誌であり、本研究の課題が萌芽的な試みである点を考慮すれば、『図書館雑誌』に集中的に着目することは必要であると考えられる。 (3)得られた(予想される)成果  『図書館雑誌』の経年的な検討の結果、ドイツの図書館に関する情報は、海外図書館事情紹介・翻訳などの形で定期的に言及はなされていることが判明した。また、論考紙面においても今沢慈海が複数回にわたってドイツ図書館を紹介・考察する論考を提出していた。さらに、ドイツ図書館情報を図書館理念として受容していたのが衛藤利夫であり、彼の言及はもっぱらドイツ図書館の制度的側面が着目されていた戦前日本図書館界において特異なものであった。加えて、当時の文部省刊行物を検討した結果、ドイツ図書館は民衆教育活動として参照されており、ドイツ図書館情報は図書館界と社会教育界という異なった業界からそれぞれ参照されていたことが判明した。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 吉井 潤(都留文科大学非常勤講師) [よしい じゅん] 発表タイトル: 図書館専門企業における図書仕入の実態 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 蔵書構築は,図書館サービスの基本である。資料を購入する図書館側の図書購入実態等の研究は行われているが,図書館に売る側の実態についてはデータの入手等が容易ではないことから分析が行われていないのが現状である。図書館が発注した図書を売る側は提供できているのか判明していない。既往文献によると,公共図書館では85%以上が(株)図書館流通センター(以下「TRC」という)を資料の発注先に選んでいる。研究の目的は,図書館専門企業であるTRCにおける図書仕入の実態を明らかにする。 (2)方法 データ分析とインタビュー調査を行った。図書仕入の実態を分析するためにTRC仕入部に2021年2月10日にデータ提供の依頼を行い16日に受け取った。借用したデータは,2018年度と19年度にTRCの専用システムである新刊急行ベル(以下「ベル」という)とストック・ブックス(以下「SB」という)に選定した一般図書と児童図書である。在庫状況は日々変動することから「週刊新刊全点案内」(以下「新刊案内」という)掲載後から20週間後時点のデータを借用した。インタビュー調査は,データを受け取った際にTRC仕入部に行った。 (3)得られた(予想される)成果 新刊本が「新刊案内」に掲載されている割合は18年度,19年度共に約80%だった。これは,学習参考書等図書館向きでない図書は非掲載にしているためである。SBの品切率((品切総数/受注総数)×100)は18年度,19年度ともに0.3%だった。同様にベルの品切率は18年度0.5%,19年度0.6%だった。また,SBの返品率は18年度,19年度共に20.3%だった。インタビュー調査では,出版社から提供された近刊情報等をもとに事前発注による指定配本で仕入れていることが判明した。担当者が著者や分類,類書,シリーズ物は前の販売実績を参照し,現在の流行も考慮し部数を検討している。図書の販売実績は定期的に共有しTRCは,図書館からの発注に応えようとしていることが明らかになった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 古隅 阿子(放送大学大学院) [ふるずみ あこ] 三輪 眞木子(放送大学) [みわ まきこ] 発表タイトル: 大学図書館におけるアクティブ・ラーニング・スペースの整備に関する一考察 サブタイトル: 公立大学図書館の実態に着目して 発表要旨: (1)背景・目的 大学図書館の役割が,昨今の大学の研究活動や教育方法のパラダイムシフトの影響を受け大きく変容している。平成22年に文部科学省(以下,文科省)の作業部会がとりまとめた『大学図書館の整備について(審議のまとめ)−変革する大学にあって求められる大学図書館像−』(以下,『審議のまとめ』)では,大学図書館へのアクティブ・ラーニング・スペース(以下,ALS)の設置や,図書館での直接的な学習・研究支援の必要性が指摘された。文科省の学術情報基盤実態調査では,大学図書館を中心としたALSの整備状況に関する調査項目が追加され,ALSの順調な整備が報告されている一方,整備が進まず旧態依然の大学図書館も存在している。学術情報基盤の中核とも言える大学図書館整備の進退は,教育・研究環境の大学間格差に繋がる問題であり,教育行政施策のエビデンスとなる公的統計の報告と実態との乖離は無視できない。本研究では,最近の大学図書館の実態をALSの整備状況から把握しようと試みた。 (2)方法 『審議のまとめ』以後の新たなALS設置状況を把握するには,従前からある図書館施設やサービスは区別すべきである。さらにALSの整備が国立大と比べ公立大は遅れる傾向があるにも拘わらず「国公立大」と一括りで議論され易い点や,全体大学数の約8割が私立大であることを考慮し,大学区分(国立,公立,私立)や規模区分(大学の学部数)で平成29年度学術情報基盤実態調査報告書の数値を捉えなおした。公立大で遅れているALSの整備状況を把握するために公立大学協会図書館協議会の関連資料を精査し,2020年6〜8月にかけ大学規模別に4校ではあるが公立大学図書館へのインタビュー調査を通じて現場の実態把握を試みた。 (3)得られた(予想される)成果 大学区分および規模区分によるALS関連データの再集計で,国立大と公立大の整備状況の格差を確認できた。また,ALS関連の取り組み事例は国立大が多く取り上げられる一方,公立大の事例は僅少で実態が見えていないことも判明した。公立大学図書館への事例調査では,図書館が所管しない館外ALSの把握が難しいことや,ALSに対する認識の文科省の意図との乖離(図書館の役割や直接的学習支援の必要性など),予算・職員の削減,大学院生スタッフ確保の難航などの厳しい現場の実情が見えてきた。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 庭井史絵(青山学院大学) [にわいふみえ] 発表タイトル: 新型コロナウイルス感染症に対応する学校での学校図書館活動 サブタイトル: 休校期間中並びに再開後の取り組みと課題 発表要旨: (1)背景・目的 2020年2月28日,文部科学省は全国の小・中・高等学校に対して,新型コロナウイルス感染症対策としての臨時休業を要請し,多くの学校が3月2日から5月末まで休校した。本研究は,休校期間中,並びに再開後の学校図書館による活動内容を把握し,各校図書館が,学習センター・情報センター・読書センターとしての機能をどのように継続しようとしたのか,また,取り組みに対してどのような課題や成果があったのかを明らかにすることを目的とする。 (2)方法 文献調査とアンケート調査,インタビュー調査を組み合わせて行った。まず,当該期間中の学校図書館活動について,2020年4月から2021年3月に発行された学校図書館/図書館関係の機関誌と,カレントアウェアネスに掲載された実践事例から収集し,これを整理した。また,司書教諭や学校司書が実践を投稿できるWebサイトを開設し77校から回答を得た(2020年5月〜7月)。次に,このWebサイトに回答を寄せた司書教諭や学校司書に依頼し,了解を得られた27名に対するオンラインでの半構造化インタビューを実施し(2021年2月〜3月),取り組みの経緯や課題,成果について聞き取った。 (3)得られた(予想される)成果 文部科学省は,休校期間中の学校図書館の取り組みとして「時間を区切っての図書の貸出し」「分散登校日を活用した図書の貸出し」「郵送等による配達貸出し」「学校司書によるおすすめ絵本の紹介」の4つの事例を示しているが,実際には,本の貸出しや紹介にとどまらない多様な学校図書館活動が行われていたことが分かった。一方,各図書館の取り組みの違いには,地域や校種,学校図書館担当者の勤務体制だけではなく,休校期間中の学習課題のあり方,ICT環境や活用のスキル,教職員とのコミュニケーション,コロナ禍以前の学校図書館活動など,さまざまな要因が影響を与えていることも明らかになった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 安形輝(亜細亜大学) [あがたてる] 発表タイトル: 日本のISBNが付与された本のうち国立国会図書館で検索できない本 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  日本の出版物を対象とした所蔵調査を行う場合、納本図書館としての国立国会図書館の書誌データを基盤とし、ISBNをキーとすることが多い。一方で、国立国会図書館に関する従来の研究では納本率は約9割とされており、残りの1割がどのような資料となっているかの検討はほぼ行われてきていない。また、納本されていても逐次刊行物扱いとなっている等の理由から、ISBNが登録されない書誌データが一定程度あることは先行研究で指摘されてきたが、どのような資料が登録されていない状態になりやすいかの分析は行われてこなかった。そこで、本調査では、日本のISBNを付与された資料が一定程度以上の規模で登録された複数の情報源を用い、できるだけ多くのISBNを把握した上で、国立国会図書館の未納本・未登録本を特定するとともに、どのような資料がそのような状態になりやすいかの分析を行うことを目的とした。 (2)方法  大学図書館の総合目録であるCiNii Booksや出版界のOpenBDなどのオープンデータ、さらには、米国議会図書館、英国図書館、ドイツ国立図書館などのオープンデータが入手できる欧米諸国の国立図書館の蔵書データを収集し、その中から、日本のISBN(グループ記号が4)と識別されるものを抽出した。また、国立国会図書館の蔵書データを、国立国会図書館サーチAPIを利用して網羅的に収集した。国立国会図書館以外を統合したデータから、国立国会図書館のデータにないISBNを識別し、それらの分析を行った。 (3)得られた(予想される)成果  納本されていない資料が検索できないだけでなく、納本された資料が、逐次刊行物として登録されている、ISBNが登録されていない、不正なISBNが誤入力されている等、さまざまな理由から国立国会図書館では検索できないことが明らかとなった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 渡邊晃一朗(東京大学/理化学研究所) [わたなべこういちろう] 宮田玲(名古屋大学) [みやたれい] 影浦峡(東京大学) [かげうらきょう] 関根聡(理化学研究所) [せきねさとし] 発表タイトル: 句読点などの記号/操作の用法についてのスタイルガイドの分析 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 句読点と呼ばれるPeriodやCommaなどの記号及びイタリック体化のような操作(記号/操作)は、それが使用される文書が共有される共同体における同意の基、特定の用法で使用される。学術論文やビジネス文書では、その体裁はスタイルガイドに則り、これは本研究で扱う記号/操作についても該当する。したがって、スタイルガイドで示された記号/操作の用法は、実際の使用においても参照点となる規範とみなすことができる。これまでは歴史的な経緯や文学作品における使用が着目されてきたが、それ以外の分野での現在の用法の整理はなされてこなかった。そこで、本研究では学術分野やビジネス分野、官公庁分野、報道分野での実際の使用における用法の類型化の参照点として、規範としての各記号/操作の用法の整理を目指す。 (2)方法 本研究では、複数の領域のスタイルガイド、すなわち学術分野において10冊、ビジネス分野において7冊、官公庁分野において2冊、報道分野において1冊、合計21冊のスタイルガイドの中から、Period、Comma、Colon、Semicolon、Em-dash、En-dash、Slash、Quotation Marks、Parentheses、Brackets、Square Brackets、イタリック体化、太字化、大文字化という記号/操作に言及している記述を抽出し、それらの用法を整理する。具体的には、各記号/操作毎にスタイルガイド間の差異と用法の定義の曖昧性に着目しつつ、用法の類型を列挙する。 (3)得られた(予想される)成果 本研究は、上で述べたスタイルガイドを分析し、句読点をはじめとする記号/操作の規範としての用法の類型を記述的に明らかにした。例えば、現実にPeriodに対して示されている類型がどのようなものであるのかを記述した。本研究の成果として整理された各記号/操作の用法の類型は、実際の使用における各記号/操作の用法の類型を検討する際の参照点を構成する。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 安形麻理(慶應義塾大学文学部) [あがたまり] 発表タイトル: 初期印刷聖書におけるタイトルページの特徴 サブタイトル: 発表要旨: 発表申し込み要旨 (1)背景・目的  西洋の書物の姿は、15世紀半ばの活版印刷術の登場を契機に大きな変化を遂げた。近年、標題紙やページ付が発展、普及していった様相が明らかになりつつある。標題紙は、最低限の識別のための短い付箋標題に始まり、木版画による装飾や、詳細な情報の提示に変化していった。最初期の90年間に出版された聖書を分析した発表者の先行研究からは、俗語聖書はラテン語聖書よりも標題紙に木版画を採用する割合が高かったことが明らかになっている。本研究では、伝統的な出版物であり、西洋書物文化の規範を高度に具現化していると考えられる聖書に着目し、標題紙の文言の語数や内容、表現方法などを、出版年や出版地などの観点から分析する。 (2)方法 調査対象とする聖書は、1455年から1500年までの印刷本(インキュナブラ)は総合目録Incunabula Short Title Catalogue(ISTC)から、1501年から1545年まではUniversal Short Title Catalogue(USTC)から抽出した。標題紙の有無やその文言については各種の書誌から補足した。たとえば、インキュナブラはGesamtkatalog der Wiegendrucke、16世紀のドイツの出版物はVerzeichnis der Drucke des 16. Jahrhunderts(VD16)を参照した。ただし、ISTCやUSTCではその性質上、簡略な標題が示され、またVD16でも長い標題は省略されるため、デジタルアーカイブで画像が公開されている場合には参照し、標題の忠実な転記を行った。さらに、画像が利用できる場合には、標題紙における縮約語や省略記号の使用頻度、二色刷りや木版画の有無なども調査した。 (3)得られた(予想される)成果  標題紙の文言の語数、内容、縮約語や省略記号の使用頻度、また標題紙における二色刷りと木版画の有無を明らかにする。その傾向を、出版年、印刷地、言語などの観点から分析した結果を示す。 ----------------------------------