---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 浅石卓真(南山大学) [あさいし たくま] 池内有為(文教大学) [いけうち うい] 金井喜一郎(相模女子大学) [かない きいちろう] 日向良和(都留文科大学) [ひなた よしかず] 発表タイトル: 司書課程の履修動機を測定する心理尺度の開発と評価 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  現在の日本では、司書課程を履修して司書資格を取得するだけでは図書館への就職には結びつかない。それでも毎年多数の学生が司書課程を履修していることは、司書課程の履修動機が「図書館で働きたいから」だけではないことを示唆している。学生の履修動機の解明には、図書館情報学教育の実態解明に資するという学術的意義だけなく、司書課程の運営改善に役立てるという実践的意義もある。一般に何らかの心理的な傾向を測定するには、まず信頼性のある心理尺度を作成した上で、それを組み込んだ質問紙に回答してもらい、回答結果を分析するという手続きが取られる。しかしこれまで、司書課程の履修動機に関する標準的な心理尺度は開発されていない。本研究では、司書課程の履修動機を測定する心理尺度を試行的に開発し、その信頼性を評価することを目的とする。 (2)方法  はじめに、心理尺度の候補となる履修動機を幅広く収集するために、3大学の146人に対して司書課程の履修動機を自由記述式の質問紙で尋ね、回答結果の中で表記や語尾が異なるだけの回答は一項目にまとめることで、回答全体を集約した(予備調査)。次に、5大学の203名に対して、集約された各項目が司書課程の履修動機としてどの程度当てはまるかを5件法で尋ね、因子分析を行った(本調査)。因子分析の結果に基づき心理尺度として適切な項目を選定し、その信頼性を内的一貫性の指標であるCronbachのαと、時間的安定性の指標である再検査信頼性係数で評価する。 (3)得られた(予想される)成果  予備調査の結果、司書課程の履修動機は44項目に集約された。本調査における因子分析の結果から、履修動機に関する因子として「図書館への就職希望」「周囲からの影響」「資格志向の考え方」「司書資格の有用性への期待」「出版業界への就職希望」「本・読書への愛着」の6因子が見出され、各因子を代表する計19項目を心理尺度とした。上述した2つの指標により、開発した心理尺度には十分な信頼性があることが示された。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 角田裕之(鶴見大学) [つのだ ひろゆき] 原田智子(鶴見大学) [はらだ ともこ] 江草由佳(国立教育政策研究所) [えぐさ ゆか] 小山憲司(中央大学) [こやま けんじ] 発表タイトル: 生成AIによる情報サービス演習問題に対する回答の評価 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  生成AIは利用者の質問に対話形式で回答する。この手軽さゆえ、学習者が授業などで利用する事例が報告されている。生成AIが提示する回答文章の人間らしさに加え、信憑性および著作権侵害などの法的問題が指摘され、教育機関において生成AIへの対応が議論されている。  本研究は司書養成科目の1つである「情報サービス演習」で用いられる演習問題に生成AIはどのように回答するかを調査・分析し、その傾向を把握するとともに、生成AIというサービスの存在を前提として教員が「情報サービス演習」を企画、運営するための検討材料を提供することを目的とする。 (2)方法  本研究では、ChatGPT、Bing AI Chat、Perplexity AIの3つの生成AIを調査対象とした。いずれも無料で利用できることに加え、ChatGPTは最も知名度が高いことから、また他の二者は回答結果に参照した情報源を提示することから選択した。調査方法は、@4人の共同研究者が『三訂情報サービス演習』(樹村房, 2021)に掲載された演習問題のうち、10テーマから代表的な問題を3問ずつ選択する、A1名が3つの生成AIに問題文を入力し、回答文を記録する、B各問題の回答文を2名が4段階で評価する、C評価結果を全員で検討し調整する、である。調査は2023年6月27日から7月2日の6日間に実施した。 (3)得られた(予想される)成果  問題のテーマによって生成AIの得手不得手が観察された。Bing AI Chatは、地理・地名・地図、言葉・事柄・統計、歴史・日時、雑誌および雑誌記事、人物・企業・団体の5テーマ、Perplexity AIは、地理・地名・地図、人物・企業・団体、言葉・事柄・統計の3テーマが高評価点(20/24以上)であった。一方、ChatGPTは、図書情報、雑誌および雑誌記事、新聞記事、言葉・事柄・統計、人物・企業・団体、法令・判例・特許の6テーマ、Perplexity AIは、雑誌および雑誌記事、歴史・日時の2テーマが低評価(11/24以下)であった。  問題別にみると、観光情報の紹介、国の概要紹介は、すべての生成AIの評価が満点(8/8)であった。他方、趣味の図書3冊を求める問題では、いずれの生成AIも現実に存在しない図書を提提示した。生成AIが誤った情報を提示することはよく知られるが、同様の事例が本研究でも確認された。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 門脇夏紀(慶應義塾大学非常勤講師 ) [かどわき なつき] 岸田和明(慶應義塾大学文学部) [きしだ かずあき] 発表タイトル: 逆翻訳とゼロショット学習に基づくBERTでの件名自動付与 サブタイトル: TRC MARCを使った実験 発表要旨: (1)背景・目的  Transformerに基づくアルゴリズムとして,BERTがよく知られている。BERTは,その発表以来,テキスト分類に応用されてきた。BERTなどの機械学習法に基づいて,文献に件名を付与するのは,それほど容易ではない。例えば,NDC番号の付与とは異なり,件名の場合にはマルチラベル分類で,作業的に複雑である。また,一部の件名については,訓練データ中に正例が十分に含まれないという実際上の問題もある。本研究ではまず,件名の自動付与に対してBERTが機能するかどうかを実験により確かめた。次に,訓練データが小さい場合またはほとんどない場合への対策として知られている,逆翻訳による訓練レコードの追加およびゼロショット学習の効果を調べた。以上の2つの確認が本研究の目的である。 (2)方法  実験には,約1年分のTRC MARCレコードの一部(約1,200件)を使った。全件名に対して一括してマルチラベル分類を行うのは無理なため,十分な数の訓練レコードを持つ件名8個,中規模の訓練レコードを持つ件名8個のみを,それらの間の共起レコード件数に注意しつつ選択した。そして,それぞれに対して各図書の「書名」「内容紹介」をデータとして,件名を予測する分類器を構築した。その性能を評価したのち,中規模の件名8個については,グーグル翻訳で,テキストを「日→英→日」で逆翻訳することにより,訓練データを2倍にした。さらに,BERTのマスク語予測機能で学習なしに(ゼロショット学習で)件名を推測することを試みた。推測できるのは事前学習済みBERTに登録された語だけなので,それらと件名との間の類似度を測定する必要があった。このため,それらを分散表現に変換し,余弦係数を求めた。 (3)得られた(予想される)成果  BERTは件名の自動付与に対して比較的高いF値の値を示した。また,逆翻訳の活用によりF値の値が増加した。一方,ゼロショット学習の効果は十分ではなく,これに関しては改善の必要がある。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 谷口祥一(慶應義塾大学文学部) [たにぐち しょういち] 発表タイトル: 複数のメタデータスキーマ・マッピングの組み合わせは妥当なマッピングを導くか サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的:  メタデータスキーマのマッピング(アラインメント、クロスウォーク)とは、通常、ある語彙(属性・関連のエレメントとその値の集合)から他の語彙への対応づけである。なお、依拠する概念モデルなどの構造的要素については本研究では捨象する。現在、スキーマ間での多様なマッピングが策定されているが、その策定作業には多くの人的労力が必要になる。本研究では、複数のスキーマ・マッピングの機械的かつ比較的単純な組み合わせから、妥当な第3のマッピングが導かれるのか、あるいは人手によるマッピング策定作業の軽減という支援となりうるのか、実例をもって検証を試みる。 (2)方法:  @公開されているマッピングから、マッピングの意図、エレメントの推移性の有無、エレメントの粒度など、その特性を確認した上で採用する。なお、RDFの適用を特には前提としない。A共通した語彙を起点または中継点にして、最小限の人手による前処理を加えた後にマッピング間の機械的な照合を実行し、新たなマッピングを機械的に生成する。B生成されたマッピングについて、各種の集計を行うとともに、目視によりその妥当性を確認する。ただし、正解を準備した上での定量的な評価などは行わない。並行して、生成AIによる語彙定義データからの直接的なマッピング生成を試行し、その性能を確認する。 (3)得られた(予想される)成果:  事例1(小規模事例):マッピング「RDA→IFLA LRM」と「RDA→Dublin Core(DCT)」から、「IFLA LRM←→DCT」(マッピングの方向性なし)を生成した。42のIFLA LRMエレメントと33のDCTエレメントの組み合わせからなる87のエレメントペアが生成された。マッピングとして妥当なペアとそれ以外の両者が含まれていることを確認した。事例2(大規模事例):マッピング「RDA→MARC21 Bibliographic」と「MARC21 Bibliographic →BIBFRAME」から、「RDA→BIBFRAME」(方向性あり)を生成した。RDAについては「エレメント+記録の方法(4つ)」、「エレメント+リテラル/URI」という単位のそれぞれにおいて実行し、結果の集計作業と妥当性の判定等を現在行っている。事例3(大規模事例):マッピング「RDA→MARC21 Authority」と「MARC21 Authority←→Wikidata」から、「RDA→Wikidata」(方向性あり)を生成することを計画している。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 野口康人(亜細亜大学) [のぐち やすひと] 発表タイトル: 図書館における360°カメラを用いた遠隔ブラウジング手法の評価 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  コロナ禍以前は,利用者は図書館に赴けば主題ごとに並んだ資料を眺めることによって来館する前には想像もしていなかった図書や資料と出会うことができた.図書館が利用者の館内利用を制限した場合,利用者にとって図書館の蔵書を把握する手段はWeb OPACに依存することとなる.Web OPACはいつでもどこからでもアクセスでき,図書館の蔵書検索を行うことができるが,検索条件に合致したもののみを検索結果として表示するため,図書との偶然的な出会いや意外な発見(セレンディピティ)が得られにくいという問題点が指摘されている.本発表では,遠隔地から図書館の書棚をブラウジングするための手法として360°カメラを用いる手法について評価し,その結果から見えてきた課題に対応する方向性を示す. (2)方法  遠隔地から図書館内の書架をブラウジングするためのプロトタイプシステムを構築した.開発したシステムの360°カメラにはRICOHのTHETA V,移動装置にはM5 STACKを搭載したBALA2 ミニセルフバランスカーを採用した.360°カメラの映像の閲覧と移動ロボットの操作はWebブラウザ経由で行えるようにした.実験では20代の女性3名を対象に,移動ロボットを操作して書架の前を移動させるタスクを課し,システムを使用した後にその可用性等について質問紙調査を行った. (3)得られた(予想される)成果  質問紙調査結果から新システムへの期待感は見て取れるものの,システムの可用性についての評価は低く,実用に耐える段階にするためには大幅な改善が必要であることがわかった.その他,他利用者のプライバシーへの配慮,偶発的な事故への懸念が明らかとなった.今後は移動装置の大型化を図り,より実用性の高いシステムへと改善していきたい. ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 伊藤真理(愛知淑徳大学) [いとう まり] 安藤友張(実践女子大学) [あんどう ともはる] 野口武悟(専修大学) [のぐち たけのり] 発表タイトル: 採用側が学校司書に求める役割 サブタイトル: 地方自治体教育委員会ケーススタディ調査より 発表要旨: (1)背景・目的  本研究では,採用者である教育委員会の視点を重視して,公立学校に配置されるモデルカリキュラムに基づく学校司書の養成教育での内部質保証について研究を進めている。先行研究では,採用側の視点からの考察はほとんど実施されていない。本発表では,学校司書採用を積極的に実施している,もしくはモデルカリキュラムを採用条件として考慮している教育委員会事務局担当者を対象としたケーススタディにより,学校司書の役割に対する認識について把握することを目的とする。 (2)方法  本研究による2019年実施の質問紙調査結果に基づき,協力を得られた5自治体教育委員会を対象に半構造化面接を実施した。調査内容やデータの取扱等について,調査協力者から同意を得た。2022年7月〜9月に,ウェブ会議システムを使用して,調査者3名(1件のみ2名)が参加して各回約1時間実施した。調査協力者は学校図書館に責任を持つ立場の指導主事等で,参加人数は1〜2名だった。  質問内容は,学校司書配置の経緯,採用資格に対する認識,会計年度任用職員制度による採用への影響や能力評価実施の有無,学校図書館を活用した地域教育プランの有無やその内容,COVID-19による学校司書の役割への影響や学校司書研修の状況等についてである。 (3)得られた(予想される)成果  本調査結果から,情報センター機能を支援する学校司書が求められていることが分かった。しかし,調査協力者の自治体では未だモデルカリキュラム修了者を採用した実績はなかった。特に人材不足の地域において学校司書の配置率を高めるには,資格要件を厳密にすることが困難であること等が分かった。また,会計年度任用職員制度導入が人事での体質改善につながった一方で,勤務時間削減などの弊害が現れた事例もあった。COVID-19による学校司書の役割への直接的な変化はないが,学校での電子媒体利用への切り替えや活用に対する認識の高まりから,学校司書のICTスキルに関する検討の必要性が顕在化した。学校司書に対する能力評価,研修内容や頻度は,調査協力者の自治体ごとに工夫が見られた。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 橋詰秋子(実践女子大学短期大学部) [はしづめ あきこ] 発表タイトル: マンガ図書館はマンガをどのように組織化しているのか サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  マンガ図書館の組織化の実態を明らかにすることで,マンガ雑誌やマンガ本(コミックスや愛蔵版など)を図書館が組織化する方法について,グッドプラクティスと問題点を探ることを目的とする。マンガには,継続刊行による多数の連続巻,キャラクターの重視,初出雑誌によるジャンルや読者層の相違といった一般書と異なる特性がある。そのため,一般書と同じ組織化法ではその特性を踏まえた提供ができない。マンガを所蔵する図書館は増えているが,特性を踏まえた組織化は各館の工夫に任されており,事例報告などのグッドプラクティスの共有も進んでいない。 (2)方法  マンガ図書館へ訪問し,書架の観察および職員への半構造化インタビューを行った。主な調査項目は,@どのようにマンガを排架しているか(所在記号,分類),Aどのようにマンガのメタデータを作成しているか(目録法),Bマンガの組織化で問題と認識されているのは何か,である。マンガ図書館とは,マンガがコレクションの大部分を占める図書館を指す。訪問調査は,マンガ図書館として全国的に著名な3館を対象とし,2023年2月から6月に実施した。 (3)得られた(予想される)成果  排架もメタデータ作成も具体的な手法は各館で異なり,NDCやNCRに基づく一般書用の手法と異なる部分が多くみられた。調査項目@で3館に共通していたのは,場所を一意に特定する所在記号やラベルを使わずに背表紙の情報を使う排架法を採用している点であった。この柔軟な排架法は,継続刊行される多数の連続巻を有限の書架で効率よく管理する工夫と捉えられる。A3館ともオリジナルカタロギングでメタデータを作成していた。Bの問題点には,継続刊行中に出版者が変わったり紙から電子に形態が変わったりする作品があり,同一作品のコロケーションが難しいことなどが挙げられた。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 吉井潤(都留文科大学) [よしい じゅん] 発表タイトル: 外部の専門家の視点を取り入れた蔵書評価の効果 サブタイトル: 公立図書館が選書した医学関係図書の現役医師による評価 発表要旨: (1)背景・目的  図書館の蔵書評価は蔵書中心評価法、利用者中心評価法に大別することができ、これまで多くの研究が行われている。全国公共図書館協議会の「2018年度(平成30年度)公立図書館における蔵書構成・管理に関する実態調査報告書」によると、蔵書評価を実施している図書館のうち、蔵書の評価者について、都道府県立図書館では対象が7館と少ないが、そのうち8割を超える85.7%(6館)が、市区町村立図書館では、7.3%(12館)が「外部の専門家」と回答している。蔵書評価方法のひとつとして、医学関係や法律関係の蔵書を図書館員が医師や弁護士等から助言を得ることは有益であると考える。そこで本研究では、外部の専門家の視点を入れた蔵書評価方法の改善・検討をすることを目的とした。 (2)方法  調査方法は、医学関係の図書のリストを作成し、それを現役の医師に評価してもらい、その結果を分析する手順で行った。医学関係の図書リストは、公立図書館で健康医療情報サービスを実施している図書館のウェブサイトを参照し、図書リストやパスファインダーを利用した。病気・検査・薬・病院について、参考図書、専門書、一般向けに書かれた図書、医学部の学生が使用するテキスト等から30冊を、公立図書館の所蔵状況を踏まえて選定した。なお、医学部の学生が使用するテキストは、健康医療情報サービスを行っている図書館では定番の図書とした。医師に評価をしてもらうために、それぞれの図書に出版社、出版年、100文字程度の図書の内容紹介、公立図書館の所蔵状況をリストに付与した。本研究では、1冊の図書を複数の専門家が見ることの効果、参考図書、専門書等それぞれのカテゴリーを設けることによってカテゴリー間の評価の違いを明らかにすることが可能ではないかと予想した。筆者は、医師ではないことから、知人の医師2名に本研究の説明を行った。その後、筆者が作成した依頼文とアンケートをもとに、医師2名が知り合いの医師にアンケートの依頼を行った。アンケートの回答期限は2023年6月16日から同月30日までとし、回答方法は、ウェブ回答のみ、完全匿名とした。それぞれの図書について評価を5つの選択肢から選んでもらった。設問数は、図書30問と属性等5問の合計35問である。 (3)得られた(予想される)成果  13名の医師から回答を得ることができた。一般向けに書かれた図書の回答の一部には「読んだことはない」等の記載があり、参考図書や専門書と比べ評価をしにくいことが推察された。今回のようなリストによる評価は、1冊ごとに複数の医師の評価を得ることができ、その図書を図書館でどのように扱うのか判断材料の1つになると考えられる。研究大会に向けて30冊の評価結果と傾向等の整理・分析を進める予定である。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 中西由香里(愛知淑徳大学非常勤講師) [なかにし ゆかり] 発表タイトル: 幼児の主体的な活動を促す園内の言語環境の現状 サブタイトル: 教育実習生の教育活動に着目して 発表要旨: (1)背景・目的  本研究の目的は,幼稚園,認定こども園,保育園(以下,園)における教育実習生の教育活動をとおして,言語環境(図書スペース,図書室)の現状を整理することである。文部科学省は,2022年の「幼稚園施設整備指針」において,幼児の主体的な活動を促す場として図書スペースを挙げ,教育内容や指導方法に応じて読書のための小空間として利用することを示している。また,2018年改訂の「幼稚園教育要領」では,幼小接続の推進に加え,幼児期の教育にふさわしい豊かな保育環境を整えることが求められている。そのため,改訂内容に即した指導方法の改善を行う必要がある。そこで,学生が行う教育実習での課題の振り返りも授業改善として検討するに至った。 (2)方法  調査は,2022年に保育者,小学校教員を目指すA大学3年生「児童文化」を受講した学生45人を対象に実施した。愛知県内12市の教育実習先38園での,3週間の教育活動をとおして言語環境の状況を振り返り報告することを課題とした。調査内容は,教育実習先での絵本コーナーや図書室設置の有無,並びに図書室担当者の有無についてである。加えて,絵本コーナーや図書室が設置されている場合,どのように使用されていたか,設置されていない場合その状況の報告を求めた。教育実習後に課題を回収し事例の検討を行い,それぞれの状況の整理を行った。 (3)得られた(予想される)成果  調査対象45件の結果は,教育実習先38園のうち33園に絵本コーナーか図書室が設置されていた。しかし,図書室は絵本が置かれている部屋に留まっていた。また,絵本コーナーも教室の隅に数冊の絵本が置かれているという現状であった。一方,5園には絵本コーナーや図書室が設置されておらず,保育者が持参した絵本や月刊誌で対応していた。図書室担当者が決められていた4園では,読み聞かせの他に家庭への貸し出しも行われていた。  本研究において学生は,言語環境を把握するという課題を意識して実習に臨んだ。そのことで,園内の言語環境の現状や図書スペースという場を知り,教育内容や指導方法に応じて,図書スペースを利用することに気づくことができたと考えられる。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 小竹諒(宮城学院女子大学) [こたけ りょう] 発表タイトル: 学校図書館によるウェブサイト・学習管理ツールを用いた情報発信の状況 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  GIGAスクール構想の推進により、学校において児童・生徒一人に対して一台PC等の端末の配備が推進されている。また、高等学校(以下、高校)では2022年度から実施されている学習指導要領において「総合的な探究の時間」が設けられた。そこでは、コンピュータや情報通信ネットワークなどを活用して学習活動が行われるよう工夫することが求められている。このような環境の変化を受け、今後の高校の学校図書館には、ウェブサイトやGoogle Classroom等の学習管理ツール(以下、ウェブサイト等)を通じて学習活動に関連した様々な情報を発信していくことが求められると考えられる。一方で、我が国の高校の学校図書館ウェブサイト等を主たる対象とし、かつ全国的な調査を行った例は見られない。そこで本研究は、日本の私立高校の図書館を対象に、ウェブサイト等を用いた情報発信の現状について、そこで扱われているコンテンツに関する調査を行い、その現状を明らかにすることを目的とする。 (2)方法  2023年1月〜2月にかけて、日本のすべての私立高校(中等教育学校含む)1454校の学校図書館を対象に郵送による質問紙調査を実施した。私立高校を対象とする理由は、課程や図書館の環境等、多様な学校・図書館が存在しており、その調査結果は公立高校の参考にもなると考えられるためである。主な調査内容は(1)ウェブサイト等(設置場所が学校ウェブサイト内か否かは問わない)を用いた情報発信を実施しているか(2)実施している場合、どのようなコンテンツを提供しているかである。具体的には金沢みどりらによる「シーライ・コンテンツ・モデル」等を参考に設問を設定した選択式アンケートを用いた。 (3)得られた(予想される)成果  調査の結果、340件の回答を得た。そのうちウェブサイト等を用いて情報提供を行っている館は167館であった。提供しているコンテンツで多かったものは、学校図書館に関する最新のニュース、図書館だより、自館の蔵書検索等であった。一方で、教職員向けのコンテンツを提供している図書館は少数であった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 根本彰(ねもと あきら) [東京大学] 発表タイトル: ナショナルアーカイブと地域アーカイブの間 サブタイトル: 図書館情報学における方法的検討 発表要旨: (1)背景・目的  発表者は、『アーカイブの思想』(みすず書房, 2021)でアーカイブを「後から振り返るために知を蓄積して利用できるようにする仕組みないしはそうしてできた利用可能な知の蓄積」(p.9)と定義した。この定義に従って、この研究では、教育やジャーナリズム、出版、学術のような知的セクターが発したナショナリズムの陰で、国家と対峙したり国家から周辺的なものとして扱われた地域において、地域的アイデンティティのためのアーカイブ装置が作動していたことを取り上げる。この研究は、3つの地域の図書館の活動を見ることで地域独特のアーカイブ表現をすくい上げるアーカイブ装置に着目した研究をしようとするときに、考慮すべき概念や方法上の問題について論じる。 (2)方法  明治以来の知的セクターにおける「日本」の扱いについて述べてから、この研究では沖縄、福島、北海道の3地域を対象にして「マージナルな地域アーカイブ表現」を見ることの意義について述べる。そして、それらの地域でとくに図書館によるアーカイブ表現の取り上げ方がどうであったかを分析するための方法を検討する。 (3)得られた(予想される)成果  3つの地域アーカイブ装置への接近の方法として、地域図書館史、地域資料コレクション分析、書誌やパスファインダー、レファレンス事例、展示やイベント等の分析をする予定だが、その際に、地域アーカイブ表現を明らかにするための方法的仮説として次のものを用いる。@沖縄におけるウチナンチュー(沖縄人)のアイデンティティ、A北海道がもつ「内地」とアイヌ・北方民族とに挟まれた関係のアイデンティティ、B福島の場合の戊辰戦争と東日本大震災(東電事故を含む)の2度にわたる危機のアイデンティティ。これらのアイデンティティが、図書館の地域アーカイブ表現においてどのように現れるのかを見ることの意義を明らかにする。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 須賀千絵(実践女子大学) [すが ちえ] 汐ア順子(慶應義塾大学非常勤講師) [しおざき じゅんこ] 発表タイトル: 「心に残る読書体験」の形成要素 サブタイトル: 30・40代を中心とする男女に対するインタビュー調査をもとに 発表要旨: (1)背景・目的  読書の楽しみやそこから得られる感動にはさまざまなレベルがあり、特に深い感動を伴う読書体験が存在することは、経験知として共有されている。しかし深い感動を伴う読書体験については、共通の認識があるとは言えない。本研究では、「読者の心に感動をもたらし、長年にわたって影響を与えうる読書体験」を「心に残る読書体験」と定義し、その形成要素を、成人後の記憶をもとに、実証的に明らかにすることを目的とする。併せて異なる世代における相違点と共通点を見出すこともめざす。 (2)方法  発表者は2019年の研究において、読書体験を分析するために、読書体験について書かれた文献に基づいて、作品全体やその部分を指す「テキスト」、読者の置かれた環境を指す「コンテキスト」、読書に対する反応、行動や内面上の変化を指す「読者」の3つのカテゴリから構成される分析枠組みを構築した。さらに2022年7~9月には20代〜60代の男女19名にそれぞれの子ども時代の「心に残る読書体験」について自由に語ってもらう非構造化形式によるインタビュー調査を実施し、このうち20代の男女4名の読書体験を分析した。今回は同じ枠組みを用いて30代・40代を中心とする男女7名の読書体験の分析を行った。 (3)得られた(予想される)成果  対象とした7名について合計81の「心に残る読書体験」のエピソードを得た。エピソードには、読書体験にまつわる当時及びその後の生活環境、現在における認識なども含まれる。主な分析結果は次の通りである。(1)「心に残る読書体験」のエピソードにおいて、常に「テキスト」「コンテキスト」「読者」の3カテゴリの要素が全てそろっているわけでない。形成要素の組み合わせは個々のエピソードによって大きく異なる。(2)成人後に子ども時代を振り返って語る「心に残る読書体験」のエピソードの多くは、読んだ時に本から受けた印象や感動だけでなく、当時の生活環境やその後の人生のできごととも結びついて生成されている。特に今回の30代・40代を中心とする世代は、先の20代に比べ、現在の価値観から見た解釈や現在の出来事と関連させて「心に残る読書体験」を語る傾向が強かった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 河村俊太郎(東京大学) [かわむら しゅんたろう] 発表タイトル: 他の地域資料との比較から見る福島県立図書館における東日本大震災関連の地域資料の特徴 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  震災のようなマージナルとされているものが、アーカイブ機関である図書館のなかでどのように取り上げられ、表現されているのか検討することを本発表では目指す。その中でも東日本大震災の影響を大きく受けた都道府県の一つである福島県に注目し、福島県立図書館の東日本大震災関連の地域資料について検討する。 福島県立図書館は、収集方針にあるように、福島県についての著作は「網羅的」に収集することとしている。また、福島県に関わる東日本大震災に関連する資料については、特に重点的に収集し、別置記号を付与している。だが、どのような資料がどの程度所蔵され、コレクションとして利用者にとってどのようなものとして見えているのか、といった研究についてはこれまでほとんど行われていない。  そこで、福島県立図書館に所蔵されている地域資料において、他の地域資料と東日本大震災についての地域資料ではどのような主題、出版者などの違いがあるのかを明らかにする。そして、「網羅的」とされる収集方針の結果、どのような地域資料のコレクションが形成されているのかを検討する。 (2)方法  福島県立図書館から書誌情報の提供をうけた、2011年3月から2022年9月までに福島県で出版され、同時期までに購入された、同館所蔵の一般の地域資料と福島県に関連する東日本大震災についての資料22587点を対象とする。そして、出版年、NDC、出版者、資料の流通形態などの点から両者を比較する。 (3)得られた(予想される)成果  一般の地域資料と東日本大震災関連の地域資料における特徴の相違点から、図書館がアーカイブ機関として、東日本大震災についてどのような資料を見せることに結果的になっているのかを見ていく。そして、例えばどのような立場の出版者や内容の資料が多いのか、といった点から、震災についての記憶や、それに基づく地域独自のアイデンティティをどのように表現するものとして、コレクションが利用者から見えているのかを明らかにする。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 内田貴之(京セラコミュニケーションシステム株式会社) [うちだ たかゆき] 門脇良太(京セラコミュニケーションシステム株式会社) [かどわき りょうた] 矢田竣太郎(奈良先端科学技術大学院大学) [やだ しゅんたろう] 浅石卓真(南山大学) [あさいし たくま] 発表タイトル: VR学校図書館内の3D書架を用いた教材探索の検証 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  学校教育における探究学習が重要視され,学校図書館の活用が期待されている.教材となる図書の提供(教材提供)は学校図書館職員に期待される役割の一つだが,既存のOPACを用いる場合,書誌情報を経由した間接的で試行錯誤的な検索によらざるを得ない。学校図書館職員は,書架に並ぶ背表紙を見ながら有用な図書を探索する「ブラウジング」に相当程度依拠している.そこで本研究では,学校図書館内の物理的配置をバーチャル空間(VR)として再現した「3D書架」を開発し,デジタル環境上でも直観的な教材探索ができないか検証する. (2)方法  VRコンテンツを開発できるUnityを用いて,国立大学附属A中学校の学校図書館室内を模したVR「3D書架」を構築した.室内の様子と書架に並ぶ背表紙は,当該館の協力を得て写真を撮影することで収集した.3D書架が教材提供の場面でユーザにどのような体験をもたらすか調査するため,教材提供のための図書探索を支援する既存システムBookReachに組み込み,日常的に教材提供を行っている国立大学附属校の学校司書9名に模擬課題を解いてもらった。課題は特定の単元に関する教材探索とし,書誌情報リスト表示(OPAC相当),書影中心の表示,背表紙中心の表示,および3D書架に基づく表示の4種類を比べ,質問紙を通じてそれぞれの有用性を尋ねた. (3)得られた(予想される)成果  3D書架表示では背表紙の視覚的な情報を元にした教材探索が可能であり、近隣の書架も見られることの評価が高かった. ただし,3D書架上の背表紙画像が現実の館内書架の並び順と異なることが利便性に悪影響を与えた.並び順はまだ所蔵情報と連携できておらず, NDC分類のみでは細かな書架のルールに合わせた並びが実現できなかったためである.加えて,画像がぼやけている,画像が小さい,どの分類を探しているのか分かりづらいといった意見もあり,3D書架の可視性を高める改修を目指したい. ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 山本宗由(長久手市文化の家) [やまもと むねよし] 発表タイトル: 実演芸術アーカイブズに関する研究レビュー サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  本研究では、実演芸術アーカイブズに関する研究についてのレビューを行う。  2020年から始まったコロナ禍以降、数々の実演芸術の公演が中止された。実演芸術は上演そのものを残すことができないため、資料が残っていなければ、作品の存在自体が失われてしまう。そのような背景から、音楽や演劇、ダンスなどの実演芸術分野において、資料を残すことへの関心が高まっている。そして、保存した資料の利活用に向けて、実演芸術アーカイブズに関する研究成果は増加傾向にある。  これまで実演芸術アーカイブズに関する先行研究では、国内では取り組みが進んでいないといわれてきたが、芸術分野によっても状況が異なっており、現状が把握できていない。そのため、文献調査により実演芸術アーカイブズの現状について明らかにすることが本研究の目的である。 (2)方法  実演芸術アーカイブズに関する国内の文献を調査する。調査対象とするのは、2023年8月時点までに発表された研究論文、書籍、報告書等とした。主にCiNii Researchによる文献検索を行い、検索式は「(芸術 OR 芸能 OR 音楽 OR ダンス OR 舞踊 OR 劇) AND (アーカイブ OR アーカイビング)」を用いた。また、CiNii Researchに収録されていない文献については、他の文献データベースを使うことで補った。検索された730件の文献のうち、重複及び実演芸術に入らない美術や映像作品、メディア芸術に関する文献、「実演芸術アーカイブ」が主題となっていない文献(刊行物の名称などに「芸術」や「アーカイブ」の言葉が含まれるため検索されたもの)は除外した。また、既存のアーカイブを活用した二次的な研究についても除外した。その結果となる198件の文献について、本研究の分析対象とした。 (3)得られた(予想される)成果  これまで各分野で個別に行われていた実演芸術アーカイブズに関する研究について、現状の全体像を示すことができる。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 松本直樹(慶應義塾大学) [まつもと なおき] 須賀千絵(実践女子大学) [すが ちえ] 江藤正己(学習院女子大学) [えとう まさき] 池谷のぞみ(慶應義塾大学) [いけや のぞみ] 発表タイトル: 一県内の健康医療分野に関わる図書の所蔵状況 サブタイトル: 県立図書館の役割に注目して 発表要旨: (1)背景・目的  これまで,公共図書館はコレクションを構築し,市民に対して健康医療分野の情報を提供してきた。同時に,公共図書館は県内でネットワークを構築し,一図書館システムでは提供できない資料を相互貸借や協力貸出により提供してきた。本研究ではある県において,健康医療分野の図書がどのように収集され,提供されているのかを明らかにするとともに,県立図書館の役割を明らかにする。 (2)方法  ある県の図書館を対象とした。当該県の人口は約100万人であり,全国的には比較的小規模な県である。当該県を選んだのは,県立図書館が健康医療分野に特化した資料選定基準を持っていることと,そうした県立図書館と市町の図書館との関係の分析に価値があると考えたためである。対象資料は,健康医療分野の図書のうち,2000年以降に刊行された日本十進分類法が490番台から499番台とした。そのうち,ISBNが付与されていること,価格が5,000円以下であること,などを基準に図書を絞った上で,ランダムに1万点を選定した。対象図書館は蔵書検索システムを提供している図書館であり,県立図書館と16の市町の公共図書館である。所蔵に関わるデータはカーリルAPIを使用して収集した。 (3)得られた(予想される)成果  当該県全体では,調査対象とした1万点の図書のうち2,973点を所蔵していた。県立図書館は,市町の図書館と比較して,多少,異なる図書の収集をしていた。2,973点のうち,市町のみは2,379点であったが,県立のみは594点であった。ここから県立図書館は,県内でのアクセス可能な図書を25%増やしていることが分かる。また,医学書出版社の集まりである日本医書出版協会の図書は県内で238点所蔵していたが,うち162点(68.1%)は県立図書館所蔵であった。このように,県立図書館は県内でアクセスできる図書を増やすとともに,専門的で信頼性の高い図書へのアクセスを増やしていることが分かった。今後,所蔵資料の分析を深めるとともに,利用傾向についても明らかにする予定である。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 安形輝(亜細亜大学) [あがた てる] 発表タイトル: 絵本はどの程度電子書籍化されているか サブタイトル: 国立国会図書館所蔵資料を対象とした調査 発表要旨: (1)背景・目的  『出版指標 年報2022年版』によれば2013年に294億円であった絵本市場は2021年には353億円と成長している。背景には各自治体でのブックスタート事業や教育熱心な家庭での需要などがあると言われている。一方で、絵本は他の分野に比べて電子書籍化が進んでいないことが、既往調査(例えば経産省「読書バリアフリー環境にむけた電子書籍市場の拡大等に関する調査」)でたびたび指摘されてきた。これらの調査は分野ごとの市場規模に関する調査や、出版社に対するアンケート調査であり、絵本は他の分野と比べて全般的に電子書籍化が進んでいないことは分かるが、具体的にどの程度遅れているかの数字は出てこない。また、絵本はどのようなタイトルが電子書籍化されていて、されていないかもわかっていない。本研究では絵本のタイトルごとに電子書籍化されているかを調査し、他の分野と比較するとともに、電子書籍化されやすい絵本の特徴を明らかにする。 (2)方法  国立国会図書館が所蔵する日本語の絵本に分類され、ISBNが付与されたタイトルを対象としてKindleなどの商用の電子書籍サービスで提供されているかを調査する。電子書籍化されているかと、出版社、出版年、大きさ、日本図書コードなどの書誌事項とのクロス集計を行い、電子書籍化されやすい絵本の特徴を明らかにする。さらに、併せてISBNでの調査ができない公共図書館向けの電子書籍サービスについても書名や著者名に基づき名寄せができる範囲で提供されているかの調査も行う。 (3)得られた(予想される)成果  電子書籍として提供されているタイトルごとの調査を行うことで、他のジャンルに比べて絵本の電子書籍化が進まない状況について基本的なデータを示すことができた。結果からは絵本の電子化に積極的な出版社とそうでない出版社があること、図書館向けのサービスではさらに提供タイトルが少ないことなどを明らかにした。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 藤間真(桃山学院大学) [とうま まこと] 発表タイトル: 司書養成におけるICT教育の包括的観点からの考察 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  司書の資格を取得するには、大学において文部科学省令で定める図書館に関する科目を履修するか、大学が文部科学大臣の委嘱を受けて行う講習を受講する必要がある。後者は「司書講習」と呼ばれているが、その科目内容は前者、すなわち大学教育の一部をなす科目に関する規定が準用されている。また、司書資格は大学の卒業が原則として求められている。このことは、司書に求められる知識・技能に、大学入学の前提である初等中等教育の内容や学士号保持者に求められる内容が含まれることを意味する。なお、図書館に置かれる専門的職員の資格としては、「司書補」資格もあるが、予稿字数・発表時間数に鑑み、本発表においては、司書補についての検討は割愛する。  さて、ICT教育については、現行の学習指導要領で強化されるなど、初等中等教育での変化が激しい。このことは、司書養成教育の受講者のICT教育に関するレディネスの変化につながる。また、コロナ禍の対応のために社会のDX化が急速に進展したことは、社会が大学卒業生に求めるものの変化という形で大学でのICT教育に変動を与えている。  司書養成の一環としてのICT教育もまた大学教育におけるICT教育という側面から変貌を求められている。本研究の目的は、この「求められている変貌」を明らかにしようとするものである。 (2)方法  主に文献調査によって進める。  初等中等教育におけるICT教育については、学習指導要領と関連学協会の公表した資料を分析する。大学に求められているICT教育の内容については、まず、『学士力答申』を踏まえた「参照基準」を糸口として分析を進めた上で、コロナ禍の影響について調査する。さらに、社会が求めるICTの知識・技能の分析のために、情報技術関連の資格がどのような知識・技能を確認しているか糸口として分析を行う。 (3)得られた(予想される)成果  ICT教育にどのような変貌が余儀なくされているかを明らかにすることを通じて、入学時のレディネスにより対応し、また教養教育等の大学全体としての教育により有機的に結合したICT教育を司書養成に組み込み、結果としてより時代に適合した司書を養成するための具体的な方策を示すことが可能となる。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 安形輝(亜細亜大学) [あがた てる] 発表タイトル: 学校図書館の外部からアクセス可能な蔵書目録 サブタイトル: 『はだしのゲン』を対象とした試行的な所蔵調査 発表要旨: (1)背景・目的  学校図書館は学校教育法において設置が義務付けられ、学校教育における欠かすことができない設備である。しかし、公共図書館や大学図書館などの他の館種とは異なり学校図書館の蔵書目録は従来ほとんど外部公開されてこなかった。従来、学校図書館における所蔵調査は目録データを借り受けた少数の学校図書館を対象とした事例があるのみで、数十校を超える学校図書館がどのようなタイトルの資料を所蔵しているかの調査はなかった。一方で、学校図書館において『はだしのゲン』のように特定タイトルの所蔵や除籍が議論される事例は多く、関心は高いと言える。コロナ禍の状況下でGIGAスクール構想が急速に実現したことに伴い、一部の図書館システムやカーリルの「学校図書館支援プログラム」のように外部から学校図書館の蔵書を検索できるようにする動きがある。本研究では現時点で外部からアクセス可能な蔵書目録が何校程度あるかを調査した上で、さらに、把握できた蔵書目録を対象として『はだしのゲン』の試行的な所蔵調査を行う。 (2)方法  リンク集やGoogleなどの検索エンジンを用いて、2023年8月に外部からアクセスでき検索できる小・中・高等学校の学校図書館の蔵書目録を把握し、設置母体、学校種別、地域、図書館システム、単館目録・総合目録別、ISBN検索可などの項目について調査を行う。公共図書館からの団体貸出資料は対象外としている。さらに把握した100校以上の蔵書目録を対象として2023年8月に『はだしのゲン』を所蔵しているかを検索した。 (3)得られた(予想される)成果  従来のリンク集からわかる範囲では外部からアクセス可能な学校図書館の蔵書目録は単独で実現しているものがほとんどであったが、今回の調査では自治体単位で総合目録があったり、図書館システムごとに複数の学校図書館の蔵書目録にアクセス可能としている場合があった。『はだしのゲン』を対象とした試行的な所蔵調査では従来行われていない、一地域ではない複数地域にまたがる学校図書館の所蔵状況を把握することができた。今後、学校図書館の所蔵調査実施の可能性を示した。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 山本順一(なし) [やまもと じゅんいち] 発表タイトル: OpenAIグループ、マイクロソフトに対するクラス・アクションについての検討 サブタイトル: 公共目的ではじめられたAI開発事業が多数市民の権利侵害、巨額損害賠償請求訴訟へ 発表要旨: (1)背景・目的  2020年に国際図書館連盟は、「図書館と人工知能(AI)に関する声明」を公表し、近年、数多くのAIに関するトピックをとりあげたイベントを開催しており、AIは21世紀の図書館情報学分野の大きな検討課題となっている。  2023年6月23日、カリフォルニア、フロリダ、イリノイ、ニューヨークの諸州に住む、成人、未成年者16人が原告となって、カリフォルニア州北部連邦地方裁判所に、オープンAIグループとマイクロソフト社を相手取って、集団訴訟(class action)を提起した(訴訟番号: Case 3:23-cv-03199)。原告成人の職業は、情報技術者、俳優、大学教授、主婦、音楽家、看護師など多岐にわたる。原告側の主張は、連邦法である電子コミュニケーション・プライバシー法、コンピュータ詐欺・濫用法などに定められた基本的人権、および関係諸州の州法の違反であり、損害額は30億ドルをはるかに超え、現実の被害者は原告と同様の立場にある数百万人にのぼると訴状には書かれている。  日本では、本訴訟の対象とされている対話型人工知能ChatGPT、画像生成人工知能DALL-Eなどは、学校教育や一部ビジネスで多少問題があるとはされながらも、総じて肯定的なイメージを持たれているようである(現在、世界で様々な形でAI開発プロジェクトが展開されているが、ゼロから始めることはなく、プロトタイプは限定されている。ChatGPTやDALL-Eなどの生成AIはオープンAIが当初開発したオープンソースを母体にしている)。  本発表の目的は、非営利な研究開発としてはじまったオープンAIの人工知能開発がいつの間にかマイクロソフト社が中核に位置する営利事業に変貌し、ソーシャルメディアをはじめ多種多様なウェブページに日常的にアクセス、利用する市民の権利侵害を現出するに至ったかの論理と過程、および現状を明らかにすることである。2015年のオープンAIの共同創設者であり、会長職(2015-18)を務めていたイーロン・マスクも現在は批判的な態度をとっている。 (2)方法  オープンAIは、この発表で直接とりあげる訴訟以外にも、同時期に、深層学習の素材の権利者からも著作権訴訟を打たれている。応訴の負担が大きく、現在、この事件の訴状に対する答弁書は提出していないようである。この集団訴訟をサポートする公益訴訟を任務とするクラークソン法律事務所が作成した訴状や関係資料や関連訴訟などの訴訟過程で提出された文書、その他を精査することにより、説得力のある諸事実を提示できる(多くの論者はこの巨大訴訟が連邦地裁段階で、今後数年、陪審が付された審理が継続するものと予想している)。 (3)得られた(予想される)成果  日本では学校教育分野や創作者をメンバーとする団体での著作権問題で本発表で取扱うChatGPTやDALL-Eなどに言及されることは多いが、あまり伝えられることのないマイクロソフト社が中核となって進められている人工知能開発事業の実態の理解に資することができる(関連訴訟ではFacebookを擁するメタ社が共同被告となっている)。 ----------------------------------