---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 佐藤聡子(筑波大学大学院) [さとう さとこ] 発表タイトル: 地方自治体の総合計画における図書館の記述 サブタイトル: 「市」の総合計画を対象として 発表要旨: (1)背景・目的  2000年代の地方分権改革を契機とし、地方自治体において生涯学習政策が見直されている。公立図書館においても、指定管理者制度の導入、首長部局への移管など新たな運営手法が議論されてきた。また、図書館の機能・役割が見直され街づくりの中心的拠点としての可能性を検討する自治体もある。図書館の位置づけや機能・役割について、事例研究や経営手法の比較を行った研究は単発的に展開されてきた。佐藤は2022年の日本図書館情報学会春季研究集会で地方自治体の総合計画のうち町村における図書館の記述を30自治体調査し、24自治体がカテゴリ「生涯学習」内で言及しており、図書館が生涯学習施設として期待されていることを明らかにした他、記述が特徴的な自治体では、図書館が住民の交流の場となることを期待する記述がみられたことを明らかにした。以上のように、自治体における図書館の位置づけについて、部分的に明らかにしたものがあるが、本研究では継続として、地方自治体の総合計画のうち「市」における図書館の記述を分析する。これによって、自治体は図書館にどのような機能・役割を期待しているのかを明らかにする。 (2)方法  自治体の方針を示す最上位の計画である「総合計画」から、図書館に関する記述について調査する。調査対象は、自治体のうち「市」とし、全国の自治体から100団体を無作為抽出した。この100団体について、Web上で自治体の公式ホームページを確認し、総合計画の掲載の有無と収集が可能かどうかを調査・総合計画の掲載がある場合は収集を行う。収集した総合計画について、図書館に関する記述の有無の確認と、記述がある場合どのような記述があるかを分析する。 (3)得られた(予想される)成果  現在、「市」100団体の総合計画の有無の調査を終え、掲載のあった自治体について、総合計画の記述の分析を進めている。当日は@総合計画に図書館の記述がある自治体の割合A記述がある場合、どのような記述があるかについての結果を成果として発表する。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 橋詰秋子(実践女子大学) [はしづめ あきこ] 塩崎亮(聖学院大学) [しおざき りょう] 根本彰(東京大学) [ねもと あきら] 発表タイトル: 専門知の参照体系を形づくる過程の省察 サブタイトル: 『図書館情報学事典』巻末索引を例として 発表要旨: (1)背景・目的  専門事典の制作は当該分野の知の参照体系を研究者共同体により形づくる活動といえる。約4年の期間をかけて制作された本学会編『図書館情報学事典』はそのような類の集合著作物であり、この分野を基礎づけるとともに最新の研究動向と今後の方向性を分野の内外に向けて示す機能をもつ。裏返せば、事典全体の制作過程を分析することにより、分野の形成過程や他分野との関連性を明示化しうる。また事典制作の汎用的な要件を定義できれば制作過程を効率化する支援システムの開発へと展開できる可能性がある。本研究はその前段階の探索的研究として、事典内の重要語の参照関係が組織化された巻末索引に着目し、索引作成者の視点からその作成作業の特性および索引作成に影響を及ぼす要因や規範を明らかにする。これにより、いわば事典制作の最終工程からさかのぼる形で、専門事典が体現する「知識の組織化」原理を探究するための基礎的観点を確認する。 (2)方法  著者らは『図書館情報学事典』の巻末索引を作成した。本研究では各人が回想的に書き起こした索引作成の作業記録を質的に分析する。具体的には、各人の作業記録に対して2段階でコード化を行い、ラベルをつける。ラベルを集め、KJ法にもとづき基本カテゴリを生成する。 (3)得られた(予想される)成果  分析の結果、巻末索引作成の基本カテゴリは<索引作業><索引方針><索引語・構造><作業者の主観>の4つにまとめられた。これは必然的に、個別に仮索引を試作して仮方針を定め、その方針にもとづき再作業後、共同で方針を明文化していくという巡回的な流れを反映している。索引方針は最終的な成果物である索引語や索引の構造を形づくるが、それは索引作業という具体的な活動を介す。さらに、主題知識やこれまでの経験知が作業者の主観を形成していると考えられるが、そうした主観性もまた、索引作業という具体的な活動を介して索引語や索引の構造に影響を及ぼしている。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 谷口祥一(元慶應義塾大学) [たにぐち しょういち] 発表タイトル: ChatGPTによるRDA MARC21書誌レコードの作成と評価 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  ChatGPTをはじめとする生成AIを図書館等の業務やサービスに活用する方策が模索されている。本研究では、ChatGPT(GPT4)による、RDAに依拠したMARC21書誌レコードの作成がどの程度可能なのか、実例をもって検証を試みる。ChatGPTは既に大量の既存レコードを参照し学習しているが、それらに対する適宜の参照と、与えられた情報源の適切な解釈など、どの程度妥当に実行できるのかを検証し、目録作業を支援する有効なツールとなりえるかを評価する。 (2)方法  Maxwell’s handbook for RDA(Robert L. Maxwell著、ALA刊、2013)に掲載されている事例のうち、タイトルページなどの略記形式の情報源コピーが備わった105件を採用し、次の実験を行った。@示された情報源コピーおよびMARC21書誌レコード(大半は部分的)をスキャナおよびOCRソフトによってテキストデータ化する。Chat GPTによって文字認識の誤りを訂正し、その後人手による確認を行った。情報源データは簡略化されており、その点では扱い易くなっている。A上記の情報源データをChatGPTに与え、RDAに基づくMARC21書誌レコードを作成させる。ここでのRDAは3Rプロジェクト以前の「オリジナルRDA」を指す。B同書に掲載された正解MARC21レコードとChatGPTによるレコードとを、ChatGPT自身に照合させ、相違する箇所の特定とその相違の重要性を判定させる。判定結果は、「重要な相違」、「重要ではない相違」、「無視してよい相違」の3区分とした。C上記Bの結果について、その妥当性を人手によって検証する。ただし、妥当性の判定ルールは今回設定した便宜的なものである。 (3)得られた(予想される)成果  与えられた情報源上の要素を、ChatGPTはかなり正確に解釈し処理していることを確認した。また、全体として@ChatGPTによる書誌レコードの生成は十分に妥当なレベルに達していること、Aフィールド1XXと7XXの基本記入標目と副出標目の認定など、処理誤りの事例の多くは人間にとっても難度が高いケースであることを確認した。検証結果として、MARCフィールド群ごとの誤り率や誤りパターンなどの集計を進めている。なお、一部の事例について同じく生成AIであるGoogle Geminiを用いて同様の実験を行ったが、ChatGPTに比較して総じて性能は高くなかった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 河村俊太郎(東京大学) [かわむら しゅんたろう] 浅石卓真(南山大学) [あさいし たくま] 朱心茹(東京工業大学) [しゅ しんじょ] 発表タイトル: 司書課程の履修における動機づけスタイルの類型とその特徴 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  学習において重要とされている動機づけの研究において、個人が実際にどのような複数の動機を組み合わせた動機づけスタイルを持っているのかという人物中心のアプローチが、現実に即した動機づけの理解のために重要とされている。だが、司書課程の履修については、個々の動機の検討はなされており、そして動機が複合的であることは指摘されていつつも、その動機づけスタイルにどのような類型があるのか、についての検討は進められていない。そこで、本発表では、司書課程の履修における動機づけスタイルにどのような類型があり、それぞれの特徴にどのようなものがあるのかを明らかにする。 (2)方法  浅石ら(2023)らが開発した司書課程の履修動機に関する心理尺度の修正版を用いて、主な履修動機(図書館への就職希望、資格志向、知人の司書への憧れ、本への愛着、司書資格への期待、出版業界への就職希望)の因子得点を計算した。そして、クラスター分析により類型化された各グループが、それぞれどのような動機づけスタイルなのかを分析した。その際、朱ら(2023)が開発した専門語彙量推定テストアプリケーションであるTermMatorを用いて、図書館情報学用語の推定語彙量と履修動機の因子得点との関係も検討した。データについては、2023年11月に13の大学・短期大学の司書課程の授業にて実験を行い、370の有効回答を得た。 (3)得られた(予想される)成果  全体としては、本への愛着、続いて資格志向の得点が高かった。一方、クラスター分析の結果、資格志向ではなく、図書館への就職を特に希望するグループ、全体的に得点が高いグループ、資格取得を重視するグループ、全体的に得点が低いグループの4つに分けられた。それらのうち、図書館への就職を特に希望するグループと全体的に得点が低いグループの間では、推定語彙量に差がみられた。以上より、司書課程履修学生には多様な動機づけスタイルがあり、また、動機づけスタイルによって、期待される学習成果に差がある可能性が示唆された。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 川島美奈(広島県立福山北特別支援学校) [かわしま みな] 三輪眞木子(放送大学) [みわ まきこ] 発表タイトル: 知的障害特別支援学校の学校図書館利用における児童生徒の情報行動の要因と求められる支援 サブタイトル: 生涯学習に公共図書館を利用するための支援 発表要旨: (1)背景・目的  第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」(2022)では学校司書の配置について「特別支援学校においては,読書バリアフリー法の成立などを踏まえて配置拡充に努める」と明記され,特別支援学校の図書館整備は今後さらに進められる状況にある。そこで本研究では,特別支援学校図書館における児童生徒の情報行動とその促進要因を明らかにし,また生涯学習の視点から,公共図書館利用につながる支援と合理的配慮を明らかにすることを目的としている。 (2)方法  調査対象は広島県の知的障害特別支援学校の教員135名とし,現行の特別支援学校学習指導要領(2018)でも用いられる国際生活機能分類(ICF)の考え方に基づいて構成した選択式項目と自由記述項目で構成する質問紙調査を2022年10月から12月に実施し,112名(83.0%)の回答を得た。ICFの考え方を踏まえるということは,障害による学習上生活上の困難を正確に捉え,児童生徒が現在行っていることや指導や援助があればできること,環境を整えればできることに着目すべきことを意味している(文部科学省,2018)。 (3)得られた(予想される)成果  調査結果から,特別支援学校の学校図書館について、次の点が明らかになった。@学校図書館における児童生徒の情報行動は利用の多少により違いがある,A図書館利用に関連が高い要因を強化し経験を積ませることが利用の促進につながる,B情報行動の促進要因の一つは分類案内である,C学校図書館や公共図書館における合理的配慮がされたイベントの実施と蔵書の整備,成功体験の積み重ね,学校司書配置の必要性,D学校図書館の利用を進める要件,E学校図書館を児童生徒の成長を促す場として捉えることができる,F電子図書の選択ツールの操作性に課題がある,G公共図書館にあるとよいサービスや行事。  これらの知見は,知的障害者を公共図書館の利用につなげるためには,学校図書館の活用促進と,公共図書館と特別支援学校図書館の連携が重要であることを示唆している。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 薬袋秀樹(元筑波大学) [みない ひでき] 発表タイトル: 裏田武夫・小川剛編『図書館法成立史資料』の意義 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  図書館法制定約20年後の1968年に裏田武夫・小川剛編『図書館法成立史資料』(日図協)が刊行された。本書は図書館法成立史に関する「成立史」と「資料」からなり、類書はない。本書の意義は大きいが、刊行約50年後の2017年までほとんど研究されていない。筆者は、2018年以後、図書館法案の検討過程の研究に取り組み、本書、裏田・小川のその後の著作、その他の論者による関連著作の内容を研究してきたが、本書の意義については研究していない。本研究の目的は図書館法成立史における本書の意義を明らかにすることである。 (2)方法  「成立史」は時代区分のみで、項目が設けられていないため、これまでの研究をもとに本書を分析する観点を明らかにした。それを参考に、「成立史」では、各章の構成、図書館法の評価、法案の検討を妨げた要因、法律に対する要望の水準、国会上程の過程等の項目を設け、関連する記述と資料を分析し、関連文献と比較して考察した。「資料」では、収録範囲、典拠資料、配列方法、岡田論文の評価、本書未収録の教育・社会教育行政関係資料について分析し考察した。 (3)得られた(予想される)成果  本書の意義は、@図書館法の意義・問題点・今後の課題を明確に示した、A法案の検討を妨げた内外の要因多数を明らかにした、B各法案の内容を解説し、法律に対する要望の水準が高すぎることを示唆した、C制定を急いだ日図協の最終段階の取り組みに関する資料を収録している、D図書館関係者と文部省の複雑な関係を解説したことである。本書の限界は、米国教育使節団報告書とCIEの図書館担当官等に対する評価に疑問があることである。本書に関わる図書館関係者の問題点は、@本書の刊行後、本書の指摘を掘り下げる取り組みがほとんど行われなかったこと、A公共図書館関係者の力量の不足が指摘され、これを克服するための努力が必要であったが、その後、この点は注目されなかったと思われることである。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 高木真美(釧路短期大学) [たかぎ まみ] 三輪眞木子(放送大学) [みわ まきこ] 発表タイトル: 公共図書館における書架分類の役割 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  日本の公共図書館のほとんどが書架分類に日本十進分類法(NDC)を採用しているが, 近年,独自の書架分類を採用する図書館が出現している。本研究では独自の書架分類を採用している公共図書館の,@NDCに依らない独自の書架分類を図書館が採用した理由,A独自の書架分類を採用した図書館のその後の展開,B独自の書架分類採用のメリットとデメリットを明らかにし,現代の公共図書館における書架分類の役割について考察することを目的とする。 (2)方法  独自の書架分類を採用している公共図書館3館を対象に,2022年10月から2023年6月に文献調査と図書館員の訪問インタビュー調査を併用したケーススタディを実施し,内容分析を行った。 (3)得られた(予想される)成果  独自の書架分類を採用した調査対象館では,来館者が図書に興味を持ち,手に取りやすい棚づくりにはNDC による図書の排列では難しいと考え,独自の書架分類を採用したことが明らかになった。独自の書架分類は来館者に好評で利用が増えている図書館もある。独自の書架分類によって,図書館という空間そのものを楽しめる工夫をすることが可能となり,図書館の利用促進というメリットがもたらされた可能性がある。他方,独自の書架分類を採用する場合,地域の複数の図書館で同じ基準を使用することにより利用者が地域内のどの図書館に行っても同じように資料を探せるものの,書架上の検索性に劣るというデメリットがある。また,独自の書架分類を採用する図書館では分類体系そのものを検討する時間と労力が必要となる。現代の公共図書館における独自の書架分類には,利用者と図書との出会いを創出し,新たな興味や創造的な活動に繋がる仕掛けとしての役割が求められており,その方策の一つとして独自分類が機能する可能性がある。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 吉井潤(都留文科大学) [よしい じゅん] 発表タイトル: 外部の専門家による蔵書評価 サブタイトル: 循環器内科医による医学関係一般図書の評価 発表要旨: (1)背景・目的  蔵書構築は,図書館サービスの基本である。よって,筆者はこれまでに関連する研究を行っている。蔵書評価は蔵書中心評価法,利用中心評価法に大別することができ,これまで多くの研究が行われている。昨年,筆者は外部の専門家の視点を入れた蔵書評価方法の検討をするために,医学関係の図書リストを作成し,それを医師に評価してもらい分析した。リストによる評価は,1冊の図書について複数人の評価を得られ蔵書評価において有益だった。次に,医師の協力を得て,東京都内のX図書館にある健康や医療に関する事典類等を集めたコーナーを対象に観察法を行った。観察法による評価は,リストによる評価と比べて,評価の理由を詳細に聞くことができ有益だった。そこで本研究では,外部の専門家の視点を入れた蔵書評価方法の検討をさらにすることを目的とした。本研究では,図書館の現場にとって実用的になるように特に以下3点を明らかにする。1.評価者はリストによる回答と図書の現物を見た場合では回答の負担も踏まえてどちらが行いやすいのか。2.評価者が評価しやすい選択肢の数と文言について。3.回答の理由を得る。 (2)方法  これまで評価対象とした図書が事典類,テキストが多く,回答者の専門が循環器内科,産婦人科,救命救急等様々であったことから,対象図書と回答者を絞り,循環器内科医2名による循環器(高血圧症,動脈硬化症等)に関する一般図書を評価してもらった。評価対象図書20冊と評価記入シートをそれぞれの医師に送付した。評価対象とした図書は,2019年4月から2024年3月までに出版され,図書館流通センターが新刊急行ベル(新刊案内)に選定した図書,ストックブックスで星が付与されている図書の中から,東京都内の公立図書館で所蔵が多い20冊を選定した。評価項目はこれまでの5つから1.図書館にあった方が良い2.図書館にあってもよい3.図書館にない方が良いの3つとした。 (3)得られた(予想される)成果  評価者は,リストによる評価や図書館に行きその場で評価するよりは評価を行いやすかった。選択肢は5つより3つの方が行いやすいことがわかった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 松本直樹(慶應義塾大学) [まつもと なおき] 安形輝(亜細亜大学) [あがた てる] 大谷康晴(青山学院大学) [おおたに やすはる] 発表タイトル: 関東地方の教育委員会議事録にみる公立図書館の位置づけ サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  公立図書館は,基本的に自治体の教育委員会が所管している。教育委員会に対しては,その機能不全や形骸化の指摘がなされてきた。また,政治的正統性への疑問が指摘されることもあり,さまざまな制度改革が行われてきた。しかし,それでもなお,教育委員会は教育行政を中心に担う存在と一般に理解されており,地方教育行政法が規定する教育委員会の会議はその最高意思決定機関である。しかしこれまで,そうした合議制の教育委員会において,図書館に関わる事項がどのように議論されてきたかは,必ずしも明らかにされてこなかった。そこで,本研究では,関東地方一都六県の,市区の教育委員会の議事録を対象に,図書館に関わる議論の実態を明らかにする。 (2)方法  調査の対象時期は2022年または2022年度とした。調査では,まず,教育委員会の議事録を掲載するウェブページから議事録を収集した。収集した議事録はほとんどがPDFファイルであり,そこからテキストデータを抽出した。テキスト化したデータについて,自治体ごとに,(1)会議への図書館長の出席状況,(2)図書館に関わる議題,(3)その分量,(4)委員間の議論の有無などを調査した。 (3)得られた(予想される)成果  これまでの調査から,図書館長の出席状況は自治体ごとに異なり,図書館長が定常的に出席するところと,関係する議題がある場合に出席するところなどに分けることができた。図書館に関わる議題は,指定管理者制度関連,条例・規則改正,教育振興計画や読書活動等の計画関連,図書館事業計画,予算関連,休館告知,蔵書点検,コロナ関連,イベント告知,議会報告,図書館協議会委員委嘱,利用状況などであった。分量は,学校教育と比較して顕著に少ないことがわかった。委員間の議論の有無は,今後,調査を進める予定である。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 安形輝(亜細亜大学) [あがた てる] 大場博幸(日本大学) [おおば ひろゆき] 大谷康晴(青山学院大学) [おおたに やすはる] 池内淳(筑波大学) [いけうち あつし] 発表タイトル: 絶版・回収措置等となった本の類型化 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  従来の絶版・回収本に関する研究では、猥褻出版物や戦前の政府による検閲の対象となった事例が主として対象となっていた。しかし、実際には著作権侵害などの法的問題や、出版社の商業判断による絶版・回収が行われている。  電子書籍の普及により、問題が発生した場合でも、紙書籍のように絶版・回収されるのではなく、内容の修正や公開停止といった措置が取られる。電子書籍の時代には絶版・回収という概念自体が消失する可能性も考えられる。  絶版・回収本に関する情報は一時的かつ断片的に公開されるのみで、体系的な調査や分析が難しく、図書館学だけでなく出版流通の文脈においても研究は十分に行われていない。本研究では、体系的な調査と判別した絶版回収本並びにそれに準じる扱いとなった本の類型化を行うことで、絶版・回収本の実態を明らかにすることを目的とする。 (2)方法  絶版・回収本に関する情報が掲載されると思われる情報源として、新聞、雑誌、総合目録、リコール情報、SNSやWikipediaのウェブの情報源について「絶版」「回収」「販売停止」「在庫処分」などのキーワードを用いて体系的に検索を行った。また、「編集者の危機管理術」など、絶版・回収に関する話題が掲載されていると思われる資料等を調査した。  判明した絶版・回収本・関連本については問題の所在、出版年、問題発覚年等の点から分 類を行った。入手できるものについては現物調査を行った。 (3)得られた(予想される)成果  調査から300点を超える絶版・回収並びにそれに準じる扱いとなった本を識別できた。著作権やプライバシーに関わる問題により絶版・回収となった本が多くあったが、それ以外にもさまざまな理由を明らかにすることができた。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 岸田和明(慶應義塾大学) [きしだ かずあき] 門脇夏紀(駿河台大学) [かどわき なつき] 発表タイトル: 件名の自動付与のためのBERTに基づくマルチラベル分類の方法 サブタイトル: アルゴリズム適応法と問題変形法の比較実験 発表要旨: (1)背景・目的  文献への件名の自動付与は、技術的にはマルチラベル分類に相当し、例えば、図書に対してNDC番号を1つだけ決める場合のシングルラベル分類よりも、問題的に複雑である。その手法としては、一般的には、アルゴリズム適応法と問題変形法とがあり、前者はアルゴリズムの内部を調整してマルチラベル分類を可能にする一方、後者では、データを変換したのちにシングルラベル分類用のアルゴリズムを応用して、複数のラベル付与を行う。これらのどちらが件名の自動付与に適しているかについては、まだ十分な知見は得られていない。本研究の目的は、基本的なアルゴリズムとしてBERTを用い、どちらの方法が優れているかを、比較実験により確認することにある。 (2)方法  アルゴリズム適応法に関しては、BERTでのマルチラベル分類を実行するのによく用いられている方式をそのまま使う。すなわち、損失関数としてBinary Cross Entropyを適用する。一方、問題変形法に関しては、ラベルを「付与する/しない」をBERTのスコアから決定するための閾値の推定が必要になる。本研究ではこのために、既存の推定方法を修正し、その簡易版を実装する。既存の方法の場合、計算量がとても多く、件名の自動付与に対しては非現実的なためである。なお、BERTでのマルチラベル分類の場合でも、閾値の推定を適用できる。そこで、本研究では、従来的な「0.5」を閾値として固定するやり方と、それを訓練データから推定する方法も比較する。データとしては、TRC MARCレコード群から抽出した小規模な標本を用いる。実際に、BERTに投入するテキストデータは、各図書の書名の文字列のみである。 (3)得られた(予想される)成果  小規模標本での実験ではあるものの、(a)アルゴリズム適応法で閾値を「0.5」とする、(b)アルゴリズム適応法で訓練データから閾値を推定する、(c)シングルラベル分類を使った問題変形法の3つの手法の性能に関する知見を報告できると考える。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 坂下直子(神戸女子大学) [さかした なおこ] 発表タイトル: 佐野友三郎の『師範学校教程図書館管理要項』に関する一考察 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  図書館のあるべき姿を追求し続けた佐野友三郎について、田村盛一が挙げた8点の業績中に、「師範学校教程に図書館科を設置することの必要を主張」したことがある。佐野は、米国文献を抄訳して1911年に著した『師範学校教程図書館管理要項』を端緒に、日本の図書館界や教育界への働きかけを始めている。1915年の米国視察までは海外文献によって情報収集していた佐野をして、翻訳して紹介したいと思わせた同書について触れた先行研究はあるものの、その内実を分析したものは見当たらない。そこで、当時の背景(両国の図書館界と教育界の状況など)を確認しつつ、同書ならびに関連事項を調査検討し、佐野の視点と思想を考究した。 (2)方法  自費出版で、限定的な頒布に留まっていた『師範学校教程図書館管理要項』は、和田萬吉の書評によって『図書館雑誌』誌上で複数回にわたって分割掲載されている。和田によると、同書は完訳ではなく、日本の実情や事情に合わせて訳出に工夫を施した抄訳であったとされた。そこで、本稿では同書と原書を比較して、訳出の異同を調査した。同時に米国と日本の図書館界と教育界の当時の状況を概観し、佐野が工夫した点についてその意味を考察した。同書を発端として視点を継続させた佐野が、その後発表した文献内から読み取れる思想についても検討した。 (3)得られた(予想される)成果  両書を比較した結果、 特定の単語についての訳語に特徴が見受けられた。また、訳出していない文章に共通するのは、図書館および教育現場と娯楽本の関係についての箇所であった。佐野の工夫の背景には当時の米国の図書館界と教育界の状況と、日本の両界への配慮の必要性もあった。佐野は『師範学校教程図書館管理要項』発表後も、米国の師範学校での図書館科創設ならびに図書館の資料を用いた授業実践について紹介し、渡米後は視察によって深めた知見を日本の教育界、さらには一般民衆に向けて発信した。同書は、佐野最晩年において、さらなる問題意識と新たなる挑戦を芽生えさせたと言える。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 佐藤正範(北海道教育大学) [さとう まさのり] 三浦啓子(北海道教育大学) [みうら けいこ] 佐藤正直(北海道教育大学) [さとう まさなお] 中嶋英人(大日本印刷株式会社) [なかじま ひでと] 秦幸嗣(大日本印刷株式会社) [はた こうじ] 小林新菜(大日本印刷株式会社) [こばやし にいな] 松山麻珠(大日本印刷株式会社) [まつやま あさみ) 発表タイトル: 公共図書館における学びのサードプレイス構築の検証と評価 サブタイトル: 図書館内のSTEAM教育プログラム参加者の行動シーケンスの分析を中心として 発表要旨: (1)背景・目的  環境や社会や経済が大きく変化するSociety 5.0を支える人材として、自ら課題を発見し、解決できる人材育成の仕組みが求められている。多様な学びの場として「学びのサードプレイス」が注目され、図書館業界においては「場としての図書館」の重要性や意義が議論されている。これらの背景を踏まえ、北海道教育大学・大日本印刷(株)・丸善雄松堂(株)が連携し、札幌市の公共図書館における「学びのサードプレイス」社会実装の共同研究に取り組んでいる。研究の目的は、公共図書館における「学びのサードプレイス」のメソッドと学習プログラムの開発に関する、検証および評価である。  本稿では、研究仮説として、図書館に設置したサードプレイスのプログラムに参加した子どもたちの主体性の発揮に関する検証結果をまとめる。 (2)方法  本研究は、2023年10月〜12月に札幌市の公共図書館内に、小中学生を対象としたSTEAM教育プログラムを提供する場を実験的に構築し、参加者によるアンケート回答(204件)をもとに、受講履歴等の回答結果から行動シーケンスを分析した。 (3)得られた(予想される)成果  行動シーケンスの分析によって、開講日程を通した参加者の意思決定について変容を捉えることができた。開催初期は保護者が決定する割合が高いものの、受講回を重ねるうちに子ども自身による決定の割合が高くなっていくことや、講座の系統を示したカリキュラムマップを活用し子どもたちが受講プログラムを主体的に決定していることを示すデータを得られた。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 尾松謙一(大阪城南女子短期大学) [おまつ けんいち] 発表タイトル: 四国地区の県立図書館におけるインターネット上での図書館経営情報の開示の現状と課題 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  公立図書館(以下、図書館)は、地方自治体によって設置された施設である。図書館は住民の代理として、その設置者等によって経営されているので、その経営状況について住民に周知し説明する必要性が生じる。このことに関して、「図書館法」においても図書館の経営情報を積極的に提供することの意義として,住民が図書館への理解を深め,住民と図書館が連携,協力を推進するためであると規定していることが確認できる。  本発表の目的は、インターネットの普及という情報環境の中で、図書館のうち、都道府県立図書館のウェブページにおいて、図書館の経営情報がどのように開示されているかを確認し、それらを比較していくことで、経営情報の開示の現状と特徴を明らかにし、その実態から、望ましい情報開示のあり方について考察することを目的とする。 (2)方法  調査方法は、都道府県立図書館のウェブページを実際に順次、確認、分析していく予定であるが、今回の発表では、四国地区の県立図書館のウェブページに開示された経営情報を確認し、それらの経営情報を情報内容ごと(@運営方針、A事業計画、B事業報告、C関係規則等、D財務情報、E人事情報、F特記事項)に開示状況としてまとめ、分析する。  なお、本発表で調査、分析した四国地区の県立図書館とは、全国公共図書館協議会の地区協議会都道府県協議会通則の別表に記載している四国地区協議会を構成する徳島県立図書館、香川県立図書館・愛媛県立図書館・高知県立図書館である。 (3)得られた(予想される)成果  四国地区における各県立図書館により、経営情報に関して、内容の差異、内容の精粗、情報の比較可能性の高低、情報の加工可能性の高低が予想される。それらの調査結果を比較分析して、四国地区の県立図書館の経営情報の開示の現状と特徴を明らかにする。  また、今後の課題として、四国地区以外の都道府県立図書館についての情報開示実態の確認と分析、また、都道府県立図書館と関係する機関(都道府県や教育委員会事務局のウェブページ)から開示された図書館の経営情報の確認と分析を進め、それらの開示実態から、望ましい情報開示のあり方について考察、検討を深めていきたい。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 宮原志津子(相模女子大学) [みやはら しづこ] 発表タイトル: 公共図書館における図書館実習受け入れの現状と課題 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  図書館実習には,学芸員の「博物館実習ガイドライン」のような指針やモデルプランがなく,実習内容については,図書館や各大学の裁量に任されていることが推察される。さらに近年の公共図書館の委託業務の拡大や指定管理者による運営への移行によって,実習の受け入れ停止や質の低下などの影響が出ており,実習内容や学生への指導のあり方について検討する必要がある。しかし図書館実習に関する全国的な調査は少なく,先行研究は実習担当教員による事例研究が大半であり,図書館実習を受け入れる側に関する学術研究はほとんど行われてこなかった。そこで本研究では,図書館実習の受け入れの現状と課題を明らかにすることを目的とする。 (2)方法  公共図書館の実習担当職員を対象とした,半構造化インタビュー調査を行った。調査は応募者が実習を依頼したことのある公共図書館の中から,地域,規模,運営形態などが異なる館を11館選定した。また委託の有無による実習業務への影響を明らかにするために,調査対象の図書館を「直営」,「部分委託」,「指定管理」の3つの管理形態に区分し,比較検討した。インタビュー内容は,コーディングを用いたSteps for Coding And Theorization (SCAT)分析を行った。 (3)得られた(予想される)成果  図書館実習の受け入れは担当職員に相当の負担がかかるものの,職員のモチベーション向上や業務の見直しなどにつながることから,図書館にとって有意義であると考えられている。実習担当はサービス部門のチーフが兼任することが多く,実習依頼に応じて過去の内容を見直しながら都度,実習プログラムを作成している。司書に最も必要なコンピテンシーはコミュニケーション能力だと考えられているが,利用者対応に関する実習は,個人情報保護や貸出カウンターの縮小・廃止などにより行われる機会が減っており,特に委託を導入する図書館でその傾向が強い。大学の実習担当教員は,実習指導を一律で行うのでなく,実習先の状況の違いに応じてきめ細やかに行う必要がある。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 前田稔(東京学芸大学) [まえだ みのる] 発表タイトル: ハワイの図書館・読書教育 サブタイトル: 文化的・言語的差異から日本における学校図書館活用を展望する 発表要旨: (1)背景・目的  以前、沖縄県の八重山流米文化会館に関する研究を行った際に、第二次世界大戦直後に、司書が沖縄から軍用機でハワイに渡り、アメリカにおける図書館文化を学んだことを知った。ハワイは今でも日本から行きやすく、アメリカの図書館や教育について学ぶには最適な場所となっている。そこで、ハワイの図書館や読書教育の特質を明らかにし、今後の日本における学校図書館活用のあり方について探ることを目的としている。 (2)方法  2022年8月から2024年3月にかけて、5回にわたってアメリカ合衆国ハワイ州ホノルル市で現地調査を行った。各地の公共図書館や、州立図書館、小学校の図書館を訪問し、状況把握に努めた。また、小学校や高校の教職員へのインタビューを行った。 (3)得られた(予想される)成果  アフプアア(ahupua?a)と呼ばれる地理的境界と図書館が関連している可能性が高く、学校・公園・公共図書館が一体的に存在している場合が多く見受けられた。電子図書館が充実しており、公共図書館サービスとして、図書74,000タイトル、オーディオブック23,000タイトル、雑誌5,000タイトルの利用が可能である。  小学校では、読書についての宿題が課せられるものの、電子的な手段が重視され、学校図書館内の紙の本が重視されなくなりつつある。Graded Readers(GR)やLeveled Readers(LR)などの段階別の読み物がデジタル教材化されている。Accelerated Reader (AR)というデジタル教材では、クイズと連動し、次に読むべき本が自動的に示される。  GRやLRは日本の中学校や高校でも多読用に導入されているものの、内容が子供向けなのが課題である。一方で、ハワイの日本語学習者にとって、日本の絵本は、文法的に受け入れられないことも判明した。  ハワイの学校では急速に紙の読書から電子書籍へと転換が進んでいるが、その要因として日本のような検定教科書が存在しておらず正解のある読書も重視されていることと、探究に関する文化的・言語的相違があることが考えられ、日本の学校図書館活用は紙を中心に実施すべきことが成果として予想される。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 松井健人(東洋大学) [まつい けんと] 発表タイトル: ヴァイマル期のドイツ東部国境図書館における図書館活動と教育理念 サブタイトル: F・シュリーヴァー、W・シュスターに着目して 発表要旨: (1)背景・目的  本研究の目的は、ヴァイマル期のドイツ東部国境図書館における図書館活動と教育理念を明らかにすることにある。その際、とりわけ国境図書館員として活躍したフランツ・シュリーヴァー、ヴィルヘルム・シュスターに着目する。  第一次世界大戦終結後のヴェルサイユ条約によって、ドイツにおいては国境の大幅な変更が発生した。ヴァイマル期ドイツでは、この国境地域は、さまざまな社会運動や政治思想に対して影響を与えるとともに、それらの運動・思想から影響を受ける地域として存在した。このとき、教育活動ひいては図書館活動も例外ではなく、国境図書館(Grenzbucherei)と呼ばれる図書館種が活躍することとなった。とりわけドイツ東部国境地域であるドイツ・ポーランド国境、あるいはドイツ・デンマーク国境、そしてダンツィヒなどがその国境地域に含まれる。これらの国境地域における教育活動・図書館活動においては、国境地域住民に「ドイツ文化」をどのように広めていくかが課題になっていた。 (2)方法  国境図書館の理念と活動を解明するための本研究の研究方法として、文献調査を手法として採用する。一次史料としては、パンフレット、図書館館報、図書館広報誌、図書館大会冊子など、いわゆる灰色文献に該当する当時の著作物を主に利用する。 (3)得られた(予想される)成果  本研究によって得られる結果は以下の通りである。国境図書館においては、民族主義的・愛国主義的思想が先行するというよりかは、教育固有の問題、とりわけ言語マイノリティの問題として認識されていた。しかしながら国境図書館活動は、マイノリティへの視線と同時に民族主義的・愛国主義的思想を含みながら展開した。「指導の概念」(Begriff des Fuhrers)といった、後のナチ時代との接続を予感させる概念も現場の図書館員らは積極的に主張していったことが判明した。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 岡野裕行(皇學館大学) [おかの ひろゆき] 長澤多代(三重大学) [ながさわ たよ] 発表タイトル: 新図書館を考えるための市民活動団体のメンバーによる情報の獲得 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  三重県の四日市市では,2028年の完成を目指して新図書館計画を進めている。本研究の目的は,市民活動団体であるライブラリーフレンズ四日市のメンバーが新図書館のあり方を検討するために必要になる情報を,どのような情報源からどのように獲得しているのかについて,情報探索行動の観点から明らかにすることである。 (2)方法  研究方法としてケーススタディを採用した。調査対象には,多様なイベントを主催して市民の意見を取りまとめ,これをもとに市長提言を複数回にわたって実施しているライブラリーフレンズ四日市を抽出した。データ収集の方法は,オンライン会議システムを用いた半構造化インタビューで,9名のメンバーに個別に聞き取りを行った。収集したデータは,質的内容分析の手法を用いて分析した。 (3)得られた(予想される)成果  収集データを分析した結果,ライブラリーフレンズ四日市のメンバーは,国内外の図書館の事例,他団体主催のイベント情報,関連する図書などを,主に同団体の定期ミーティングや,同団体主催による研修会や図書館の視察を介して,同団体の他のメンバーから得ていることが明らかになった。このうち,同団体主催の研修会は,一般市民からの意見を集める機会にもなっている。また,図書館情報学の研究者や司書課程を学ぶ現役学生たちから,図書館に関連する最新の学術的知見やイベント情報を把握していることも明らかになった。さらには,SNSやさまざまなウェブサイトから国内外の図書館の事例やイベント情報を収集したり,日常生活のなかで新聞やラジオから図書館の関連情報を得たりしているが,その一方で各種データベースやカレントアウェアネスはほとんど活用していないことも明らかになった。全体的には,ライブラリーフレンズ四日市のメンバーは,同団体の定期的な活動を中心としながら,SNSやウェブサイトも駆使して多様な情報を獲得しているが,その一方でデータベースを積極的には利用しておらず,日常生活のなかで関連情報を偶然に得ることもあることが明らかになった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 岩ア千裕(なし) [いわさき ちひろ] 西浦ミナ子(同志社大学) [にしうら みなこ] 原田隆史(同志社大学) [はらだ たかし] 発表タイトル: オンラインシラバスと大学図書館OPACとの連携に関する調査 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  大学図書館の重要な役割のひとつとして、学生が講義を受講する際の支援があげられる。これに関して、シラバス中に掲載された教科書や参考書を大学図書館がどの程度所蔵しているかについては国内外で調査が行われている。しかし、シラバスから大学図書館蔵書へのアクセスがどの程度容易であるかという点に注目した研究はほとんど見られない。本稿ではオンラインで公開されているシラバス(オンラインシラバス)から大学図書館OPACへのアクセスについて、その現状を調査するとともに課題について考察する。 (2)方法  京都府内の33大学を対象として各校のオンラインシラバスを調査するとともに、シラバス中のテキスト・参考資料から大学図書館OPACへのアクセス方法について調査した。さらに、より詳細を把握するため同志社大学社会学部のシラバスに絞って講義ごとのリンク方式等の詳細についても調査した。 (3)得られた(予想される)成果  調査対象33校のうちオンラインシラバスから大学図書館のOPACへのアクセスリンクが設定されているのは3校だけであった。また、この3校で設定されたリンクで使用されるアクセスキーは多様で、資料のタイトルやISBNなどが混在していた。そのうちの1校である同志社大学社会学部のシラバスを精査したところ、テキスト・参考資料が掲載される343の講義の内、OPACへのリンクが設定されている講義は230、さらにその内151がタイトルをアクセスキーとしていた。このようにタイトルをアクセスキーとした場合、版が異なる図書も同時に表示されるという利点がある反面、同じタイトルの別資料があった場合には誤ったリンク先となる可能性がある。また、タイトルが二重括弧等で括られる場合には正しくリンクされない場合もありえる。さらにISBNの誤表記なども見られるなど、オンラインシラバスとOPACとの連携の現状と今後改善すべき課題を指摘することができた。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 和気尚美(慶應義塾大学) [わけ なおみ] 発表タイトル: 公共図書館におけるメイカースペースの運営体制 サブタイトル: フィンランド・エスポー市を対象に 発表要旨: (1)背景・目的  欧米の公共図書館では3Dプリンタやレーザーカッター等の機材を有するメイカースペースの設置が進んでいるが、しばしば事業の継続性が課題となっている。先行研究では、メイカースペースの継続的運営にともない、特に職員の技術・知識の修得、資材の調達、機材の管理、予算の確保等の点で困難が生じていることが指摘されている。では、メイカースペースの継続的運営を実現している公共図書館は、どのような運営体制をとっているのだろうか。本研究は、フィンランド首都近郊に位置するエスポー市図書館を対象とし、メイカースペースの運営体制の実態を明らかにすることを目的とする。 (2)方法  フィンランド教育・文化省やエスポー市が公表している報告書等を調査した。また、エスポー市図書館に勤務する図書館職員を対象に個別に半構造化面接を行った。加えて、メイカースペース担当職員のフォーカスグループインタビューを実施した。 (3)得られた(予想される)成果  調査の結果、エスポー市図書館は組織改革を機に、市内図書館間で横断的に部門を編成しており、メイカースペース担当者の専門部門を設置していることが明らかになった。専門部門は、定期的に会合の機会を持ち、メイカースペース運営に関する課題や改善策について情報共有を行なっていた。職員研修については、メイカースペース担当職員を中心に市内各館で機材の基本的な操作や維持管理の方法を学ぶ機会が設けられていた。さらに、ヘルシンキ都市圏の図書館ネットワークである「ヘルメット(HelMet)」により、図書館職員の研修情報等が図書館ネットワーク域内で共有され、適宜相互に参加できる仕組みになっていた。予算については、自治体予算のほか、フィンランド教育・文化省による助成制度が活用されていた。 ----------------------------------