---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 村越貞之(職業能力開発総合大学校図書館) [むらこし さだゆき] 廣木菜穂美(職業能力開発総合大学校図書館) [ひろき なおみ] 発表タイトル: 図書館員と見学者のコミュニケーションがもたらしたもの サブタイトル: 2023年度(第2回)職業能力開発総合大学校図書館企画展の実践から 発表要旨: (1)背景・目的 高等教育における質保証やアクティブ・ラーニング促進の動きの中、大学図書館の新たな役割として「学習支援機能」が注目されている。職業能力開発総合大学校図書館(以下「PTU図書館」という)では、学生の興味・関心を喚起して学習や研究に向かわせる、あるいは社会貢献の観点から地域住民の方々に生涯学習の機会を提供することを目的に、2022年度(第1回)からPTU図書館企画展を開催している。図書館の資料提供機能が「利用者の求めに応じる」という受動的な役割であるのに対して、学習支援機能は「図書館が積極的に学習機会を提供する」という能動的な役割を持つという違いがある。今回の発表では、PTU図書館が開催した「2023年度(第2回)図書館企画展」がどのような成果を生み出したか、その成果を生み出した要因は何かを分析するとともに、今後の展望と課題について考察する。 (2)方法 「2023年度(第2回)図書館企画展」の実践を通じて収集・保存した資料(実施結果報告書、アンケート調査結果、新聞取材時の資料、新聞記事、寄贈資料など)の分析と考察を通して、同企画展の結果を整理し成果をまとめるとともに、成果を生み出した要因を分析する。また、併せて今後の展望と課題について検討する。 (3)得られた(予想される)成果 @3回の新聞報道という広報効果から、第1回を大幅に上回る見学者が来館した、Aアンケート回答者の97%が「とても面白かった」・「面白かった」と回答しており、一定以上の見学者の興味・関心を喚起できた、B小平市中央公民館からの要請を受けて、同企画展を題材とする生涯学習支援講座を開講した、これらの事実からPTU図書館の地域における存在感は一層向上したと考えられる。さらに、今回の特徴的な成果は、図書館員と一人の見学者との関係が人的ネットワークに発展し、個人が収集した「たま電気自動車」に関する資料、雑誌『PRINCE』189冊など旧プリンス自動車関連資料が寄贈されたことである。これらの成果を踏まえて今後の展望、課題などを整理して、今後のPTU図書館の方向性を考察する。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 高橋菜奈子(新潟大学) [たかはし ななこ] 藤村聡(Mistletoe Japan Inc.) [ふじむら さとし] 真家美咲(東京学芸大学) [まいえ みさき] 浅石卓真(南山大学) [あさいし たくま] 山崎裕子(東京学芸大学) [やまざき ひろこ] 名倉早都季(東京大学大学院) [なぐら さつき] 発表タイトル: VR図書館における3D書架上の図書の配置と注視時間の関係 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 図書館でのブラウジングは、本との偶然の出会いや意外な発見(セレンディピティ)を誘発するため、その重要性が指摘されてきた。しかし、現実の図書館のブラウジングでは、書架の下段はあまり注視されないと言われている。バーチャルリアリティ空間上の図書館(VR図書館)では、現実の書架の大きさや配置など物理的な制約に囚われず、書架上での図書の配置を様々に工夫できる。これにより、現実の図書館では得られないセレンディピティを誘発する余地がある。本研究では、セレンディピティを誘発するVR図書館を開発するための予備調査として、VR図書館の3D書架上で図書の配置を変えることで、注視される本がどのように異なるかを明らかにすることを目的とする。 (2)方法 東京学芸大学附属図書館の一部を3D書架として再現したデジタル書架ギャラリーを実験環境として、被験者の大学生に視線追尾機能付きのヘッドマウントディスプレイ(FOVE0)を装着してブラウジングをしてもらい、ブラウジング中の視線(注視されている書架)を分析する。実験環境は、(a)実際の並び順通りに図書を並べた書架、(b)書架の上段と下段を入れ替えた書架、の2パターンを用意し、初めて知り読みたいと思った図書を3冊選定してもらった。読みたいと思った本の位置を特定し、FOVE0に記録された視線情報から書架の注視時間を分析する。実験後は質問紙調査を実施し、図書館の利用頻度など被験者の属性と実験結果との関係や、ブラウジング中の意識も分析する。 (3)得られた(予想される)成果 現実の図書館では書架の下段への注視時間が短くなることが知られている。VR空間において、書架上の位置による注視時間の違いも同様であること、書架の配置が変わることで、セレンディピティが生じる本に違いが発生することが予想される。また、質問紙調査の結果から、現実でのブラウジング経験やVRの使用経験が多いほど、VR図書館でのブラウジングに肯定的であることが予想される。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 谷口祥一(元慶應義塾大学) [たにぐち しょういち] 発表タイトル: RDAからMARC21への複雑なマッピングを読み解く サブタイトル: 効果的な表示法の検討とネットワーク分析の適用 発表要旨: (1)背景・目的 RDA運営委員会が策定し公開している、RDAエレメントからMARC21書誌・典拠フォーマットへのマッピングがある。入念に作成されたものとはいえ、マッピング全体の規模が大きく複雑であり、理解しにくいと言わざるをえない。マッピングの策定方針などは説明されておらず、また変換ツールの実装を意図したものとは考えにくい。そこで、本研究では、このマッピングに対して可能な集計と分析、効果的な表示法(可視化)の提示、ネットワーク分析の適用などによって、全体を読み解くことを試みる。 (2)方法 最新のRDA語彙(v5.1.0)において示されたマッピングを対象とする。方法1:基本的な集計と分布などを確認した上で、「RDAエレメント+記録方法」(以下、RDAエレメント)の階層関係と、マッピング先の「MARC21フィールド+インディケータ+サブフィールド」(以下、MARC21フィールド)の近似関係・包含関係を導入した表示法を検討する。方法2:マッピング全体を2部グラフと捉え、RDAエレメントへのプロジェクションを取り単一モードのグラフに変換したものを対象にして、グラフの特徴量の計算、連結成分によるサブグラフへの分割やコミュニティ抽出などを試行し、理解支援に有効な結果が得られるか確認する。 (3)得られた(予想される)成果 方法1:マッピングデータは、RDAエレメント異なり数8258、MARC21フィールド異なり数1255からなり、マッピング(グラフのエッジ)数は34228であった。RDAエレメントごとに平均4.1(SD 2.8)、MARC21フィールドごとに平均27.3(SD 111.8)のマッピングであり、多対多となる対応づけが大半を占めた。RDAエレメント階層構造に沿った表示法、MARC21フィールドの近似関係(インディケータ値のみ異なる、特定のフィールドグループに属するなど)とインディケータの包含関係を適用した表示法を試作した。 方法2:変換後の単一モードグラフ(RDAグラフ)の全体は巨大であるため、RDA実体ごとに分けた上で、サブグラフ分割、複数のアルゴリズムによるコミュニティ抽出、その結果とサブグラフ分割との分割類似度の計算などを試行している。例えば体現形を定義域とするエレメントに限定した場合、重み付きグラフのノード数1165、エッジ数82824となった。連結成分によるサブグラフ88、エレメント階層に基づくサブグラフ199であり、Louvainアルゴリズムによるコミュニティ抽出結果(94)との分割類似度はそれぞれ正規化相互情報量で0.94896、0.77734であった。現在、試行を継続しており、最終的な結果と結論は得られていない。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 安藤友張(実践女子大学) [あんどう ともはる] 伊藤真理(愛知淑徳大学) [いとう まり] 野口武悟(専修大学) [のぐち たけのり] 発表タイトル: 「学校司書のモデルカリキュラム」等に関する教育委員会の認識 サブタイトル: 2023年度の調査結果から 発表要旨: (1)背景・目的  発表者は、文部科学省通知「学校司書のモデルカリキュラム」(以下、モデルカリキュラム)に着目し、公立学校に配置される学校司書の養成段階における内部質保証について研究を進めている。その際、学校司書を採用・任用する教育委員会の視点に立脚しながら、モデルカリキュラムの教育内容を検討している。2019年度に実施した調査では、任用側の教育委員会が学校司書に求める資質・能力・職務等を検討した。その後のGIGAスクール構想の施策などを考慮し、2023年度に新たな調査を実施した。本発表では、同調査の結果に基づき、モデルカリキュラムに示された教育内容に関する任用側の認識をあきらかにする。 (2)方法  2023年度調査は、2019年度調査と同様に、全国の教育委員会事務局学校図書館担当課宛に調査票を郵送した(町村を除いた860団体)。実施時期は、2023年9月下旬から11月下旬迄であった。調査票を郵送した際、モデルカリキュラムの別添資料も同封した。 質問内容は、モデルカリキュラムに必要と考える教育内容、GIGAスクール構想の施策をふまえた教育内容の見直し、学校司書に求める職務や資質能力等であった。自由記述式の回答については、KH Coder ver.3を使用して分析した。 (3)得られた(予想される)成果  回収率は27.6%であった。モデルカリキュラム修了者を採用要件の一つとして位置づけている教育委員会は13団体であった。教育委員会が重要視すべきと考える教育内容(複数選択可)では、「学校図書館サービス論」(23.4%)、「学習指導と学校図書館」(20.9%)、「読書と豊かな人間性」(20.1%)、「学校図書館サービス論」(16.3%)の4科目が上位となった。学校司書に対して重要視する職務についての回答(複数選択可)では、「読書推進活動」(79.1%)が最も多かった。資質能力に関しては、コミュニケーション能力、情報活用能力の育成支援などに関連する語が抽出された。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 吉井潤(都留文科大学) [よしい じゅん] 発表タイトル: 公立図書館における一般図書の蔵書評価の現状 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 全国公共図書館協議会では,2018年度と2019年度の2ヵ年で,公立図書館における蔵書構成・管理に関する調査研究を行った。2018年度の実態調査報告書によると,蔵書評価は都道府県立図書館,市区町村立図書館ともに,「行ったことはない。今後も予定はない」が68.1%,72.4%と最も多い。この調査で蔵書評価について他に尋ねていることは,蔵書評価の頻度,評価者,評価内容,評価方法である。蔵書評価を行っていない理由,今後の予定,日々の資料購入や除籍に役立てている情報やツールは何か,困っていることは何かということがわからない。そこで本研究では,公立図書館における一般図書の蔵書評価の現状を明らかにすることを目的とした。 (2)方法 質問紙調査を行った。公立図書館の中央館または中心館1,413館の一般図書担当者宛に質問紙を2024年6月1日〜2日にかけて送付(メール758館,郵送655館)した。回答期限は2024年6月30日までとした。回収方法は,MicrosoftFormsによるウェブ回答のみである。質問数は8問である。 (3)得られた(予想される)成果 662館(回収率46.9%)から回答を得ることができた。2021年4月から2024年3月までの間に蔵書評価を行った図書館は178館(26.9%),行っていない図書館は484館(73.1%)だった。蔵書評価を行っていない理由は,「日常業務が忙しく手が回らない」が249件,「評価方法がわからない」234件の順で多かった(複数回答)。蔵書評価を行っていない図書館の今後の予定は,「今後も実施予定はない」が377館(77.9%)と最も多かった。日々の資料購入や除籍に役立てている情報やツールとしては,『週刊新刊全点案内』やTOOLi等の(株)図書館流通センターのツールを利用しているのが134館だった。限られた資源の中で,苦労しながら日々の業務を行っていることが推察される。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 須賀千絵(実践女子大学) [すが ちえ] 汐ア順子(慶應義塾大学) [しおざき じゅんこ] 発表タイトル: 子ども時代の「心に残る読書体験」 サブタイトル: その形成要素と成人以降の人生との関わり 発表要旨: (1)背景・目的  長い時間を経ても記憶に残る読書が存在することは,経験知として広く社会で共有されている。この「心に残る読書体験」は,心理学で「自己に関する記憶の総体」と定義される「自伝的記憶」のひとつと考えられる。「自伝的記憶」には,望ましい自己像の維持,判断や行動の方向付け等の機能があるとされており,子ども時代の「心に残る読書体験」も,成人以降の読書体験だけでなく,人生全体に幅広い意義をもつ可能性がある。  発表者は,これまで20代から40代を中心とする成人へのインタビュー調査を通じて,子ども時代の「心に残る読書体験」の分析枠組みとその形成要素を明らかにするとともに,それらの体験には読者のその後の人生にも関わりを持つものがあることを示した。本研究の目的は,50代・60代の成人へのインタビュー調査結果をもとに,子ども時代の「心に残る読書体験」の形成要素を再検証し,成人以降の人生との関わりのあり方を明らかにすることである。 (2)方法  2022年に50代6名,60代2名に対して,子ども時代の「心に残る読書体験」についてのインタビュー調査を実施した。うち50代4名はグループインタビュー形式で調査を行った。調査結果から「心に残る読書体験」のエピソードを抽出し,以前の研究から得られた形成要素を検証した。さらに,子ども時代の読書体験について振り返った発言に注目し,これらの体験が成人以降の人生にどのような形で関わり,読者にとってどのような意義があったと認識されているかについて分析を行った。 (3)得られた(予想される)成果  50代・60代の調査結果を分析した結果,新たな「心に残る読書体験」の形成要素は確認されず,ほぼ飽和状態に達したことから,形成要素を確定できたと判断した。読書体験を振り返った発言から,読書は,ときには子どものつらい環境からの逃避となり得ること,現在の自分の生き方との関わりの認識を通じて自己を肯定する根拠となること,さらに次世代に対して,自身が支援を与える側に立ちたいと思う気持ちにつながることなどが確認された。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 木幡智子(岐阜女子大学) [こわた さとこ] 江良友子(愛知学泉短期大学) [えら ともこ] 発表タイトル: 日本の通信制高校の学校図書館 サブタイトル: 予備調査 発表要旨: (1)背景・目的 近年、通信制高校に通う生徒の数は増加傾向にある。2021年の中教審答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して:全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」では、「定時制・通信制課程における多様な学習ニーズへの対応と質保証」について、専門スタッフの充実や関係機関との連携強化、ICTの効果的な活用等によるきめ細かな指導・支援、質保証のための方策が盛り込まれている。質の高い通信制教育は「令和の日本型学校教育」が目指す姿に近いものであるとの考えもある中、情報リテラシー教育や主権者教育、生涯学習者育成に重要な役割を担う学校図書館はどのように運営、利活用されているのか疑問を抱いた。 (2)方法  通信制高校の現状について、文科省策定(2016)「高等学校通信教育の質の確保・向上のためのガイドライン」、手嶋純(2023)「通信制高校のすべて」、牧まゆみ(2018)『「保健室登校」から「学校図書館」へ: 通信制高校における不登校生徒への登校のきっかけに関する基礎研究』 等文献から概観し、東海圏の通信制高校2校を訪問調査する。通信制高校のWebページや学校案内から学校図書館に関する箇所を調査する。 (3)得られた(予想される)成果  「高等学校通信教育の質の確保・向上のためのガイドライン」(2016)には、学校図書館は必置の施設と記述されているが、指導内容項目に「図書室の利用」は記載されていない。東海圏2校の通信制高校に学校図書館は設置されていたが、蔵書は実用書やライトノベルが中心で、授業等での利用は仕事調べで利用される以外に積極的な役割を果たしている様子はなかった。東海3県23校のWebページで学校図書館の存在が確認できたのは5校、全国から収集した学校案内39校のうち、図書館紹介があったのは10校だった。今後、学校図書館に関するアンケート調査を企画し、通信制高校の全国的な状況について明らかにしていきたい。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 橘風吉(東京大学附属図書館) [たちばな ふうきち] 大庭一郎(筑波大学) [おおば いちろう] 発表タイトル: 米国の公共図書館協会が提唱した公共図書館のサービス計画策定マニュアルの評価 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 米国の公共図書館協会(PLA)は,1960年代まで公共図書館の画一的な全国基準を設定していたが,1970年代以降,各館の状況に応じてコミュニティのニーズに合わせたサービス計画を策定するためのマニュアル(PLAマニュアル)を提供するようになった。先行研究では,これらPLAマニュアルの誕生に関する個々の論考は発表されているが,PLAマニュアルの発展段階や改訂等の全体的な分析・考察は,十分に行なわれていない。そこで,本研究では,1970年代以降,PLAが作成したPLAマニュアルを対象として,PLAマニュアルの基本的な枠組み,共通点,変更点を明らかにし,評価することを目的とする。 (2)方法 研究方法は,文献調査とPLAマニュアルの内容調査を用いた。文献調査では,PLAマニュアル,米国の公共図書館のサービス計画策定に関する文献を収集し,それらの内容を整理・分析した。内容調査では,6点のPLAマニュアル(1980年版,1987年版,1998年版,2001年版,2008年版,2021年版)の翻訳,KJ法を用いた内容の整理,分析を行なった。 (3)得られた(予想される)成果 PLAマニュアルの基本的な枠組みは,1)計画策定プロセス7点,2)参照される項目5点,3)その他の項目3点であった。1)は,【計画策定プロセスの準備】【コミュニティのニーズと図書館の能力の調査】【計画内容の構築】【計画文書の作成】【計画の実施】【計画の伝達】【計画の再検討】であった。2)は,【役割(サービス対応)】【ワークフォーム】【ツールキット】【尺度の例】【実践事例】である。3)は,【マニュアルの使い方】【用語集】【索引】であった。これらの基本的な枠組みは,PLAが提唱した計画策定プロセスの根幹であり,円滑にプロセスが進められるように機能している。 6種類のPLAマニュアルの評価点は,コミュニティのニーズに基づき,図書館が果たせるサービス提供方法を提示したことであり,改善点は,【計画の再検討】段階の記述が他の構成要素と比較すると不足していることである。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 宮田玲(東京大学) [みやた れい] 村上恭子(東京学芸大学附属世田谷中学校) [むらかみ きょうこ] 佐々木悠太(東京大学) [ささき ゆうた] 浅石卓真(南山大学) [あさいし たくま] 矢田竣太郎(奈良先端科学技術大学院大学) [やだ しゅんたろう] 発表タイトル: 図書の対象学年の判定基準に関する予備的検討 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 教員の依頼に応じて授業向けの図書を提供することは学校図書館の中核的な役割の一つである。授業向けの図書の探索プロセスでは、授業内容との主題的な関連性に加えて、児童・生徒に応じた図書の難易度の考慮が求められる。難易度に関連して、商用のMARCや教育向けのブックリストでは、「小学校1?2年生向け」といった対象読者のレベル(特に対象学年)が示されることもあるが、それらがどのような基準・手続きで判定されたかについては、必ずしも明文化されていない。そこで本研究では、図書の難易度を判断する方法の解明に向けた一歩として、実際の図書に対する対象学年の判定作業を通じて、判定基準の探索的な検討を行う。 (2)方法 過去に授業実践で活用された実績のある図書100冊を対象に、現職の学校司書7名が、対象学年カテゴリ(未就学、小学校低学年、中学年、高学年、中学、高校、一般)を判定した。日本の学習指導要領に基づく標準的な教育課程を想定しながら、各図書について1つ以上の適切なカテゴリを優先順に挙げる方式とした。参照情報源として、(a)書影・基本書誌情報・レビュー文を用いて判定した後、(b)図書の現物を用いて判定するという2段階の作業とした。また、作業(b)後に、グループインタビューを行い、全員の判定結果を共有しながら、判定の基準や作業時の着目点に関する意見を集約した。 (3)得られた(予想される)成果 最も適したカテゴリの判定について、作業(a) [b)のいずれにおいても、全員の結果が一致するケースは10%以下であったが、過半数の結果が一致するケースは80%以上であった。また、図書の現物を参照しない作業(a)と比べて、現物を参照する作業(b)では、作業者間の判定の一致度に大きな向上は見られなかったが、同一作業者内で判定が変わるケースが多く見られた。判定時に考慮した点として、教科書単元との対応といった内容面の要素に加えて、本のサイズ、ふりがな、図表、ページ内の情報量、語彙の硬さといった形式面の要素が多く挙がり、判断基準の精緻化に向けた示唆が得られた。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 名倉早都季(東京大学大学院) [なぐら さつき] 発表タイトル: 論理的に書けるとは何ができることか サブタイトル: 中等教育段階で求められる書く技術についての整理 発表要旨: (1)背景・目的 大学入試における記述式解答の導入の検討,言語活動の充実の奨励に見られるように,2000年以降の日本の教育政策では,論理的に書く力の育成が教科を問わず重視されている。根本(2019)は『教育改革のための学校図書館』の中で,2008年に改訂された学習指導要領では学校図書館が“各教科とそれを進めるための基盤にある言語活動に対する支援”を行うべきであることが“はっきりしてきた”と述べている。学校図書館が書くことを支援する実践も始まっており,育成されるべき書く力の性質について,学校図書館も理解をしておくことが望ましい。しかし,論理的表現をめぐっては,それを構成できている状態が何を指すかが,教師の間で明確に共有されていない。本研究の目的は,中等教育段階で論理的表現を構成できるとは表現において何を実現することだと見なされてきたか,を明らかにすることである。 (2)方法 マッピング・レビューを行う。言語教育の事典類から論理的表現,それを構成する技術に相当するキーワードを列挙し,文献検索を行った。レビュー対象とした文献は,学習者が論理的に書けている状態を論じている,あるいは,書ける状態に関与する概念を整理している,2000年から2024年の間に刊行された論文または研究書の一部である。50本の文献をレビュー対象とし,(1) 論理的に書くとは何ができることか,(2) 論理はどのような性質を有するものとされているかという2つの観点から議論を整理した。 (3)得られた(予想される)成果 論理的に書けることの捉え方として,以下3点が観察された。第一に論理的に書けるとはアーギュメントを構成できることだとする見方,第二に特定の文化が要請する思考の様式・型に従って文章を構成できることだとする見方,第三に特定の文章ジャンルに期待される言語使用を用いて文章を構成することだとする見方である。いずれの見方においても,論理的であることは,文化や人間の感じ方といった曖昧な概念から,相対的な定義にとどまっていることが明らかになった。 ---------------------------------- 発表種別: ポスター発表 発表者: 松本直樹(慶應義塾大学) [まつもと なおき] 小川万柚(元慶應義塾大学) [おがわ まゆ] 発表タイトル: 公立図書館における蔵書点検実施状況と紛失率 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 多くの公立図書館では,蔵書点検のために定期的に図書館を閉館し,資料の点検をしている。蔵書点検を実施することで,資料を適切に管理することができ,利用者の資料要求に確実に応えることが可能になる。近年,ICタグやAIを活用した蔵書点検も増えてきた。また,盗難防止装置も多くの図書館で導入されている。こうした状況を踏まえて,本研究では公立図書館の蔵書点検の現状を明らかにする。特に,近年の蔵書点検で,@どのように蔵書点検が実施されているのか,また,A紛失率はどのようになっているのか,を明らかにする。 (2)方法 調査方法は質問紙調査を用いた。調査では,対象館に質問紙を送付し,ウェブフォームへの回答を依頼した。調査時期は2023年10月から11月である。対象地域は関東地方1都6県の公立図書館である。このうち,都道府県全館とランダムサンプリングにより抽出した150市区の図書館を対象とした。抽出した自治体の中央館に調査を依頼した。 (3)得られた(予想される)成果 RQ1の蔵書点検の実施状況であるが,回答のあった111館すべてで蔵書点検を実施していた。実施の頻度は1年に1回が99館(88.4%)で最多であり,1年に2回が6館(5.4%)であった。自由記述の回答から,蔵書数が多いこと,開架資料を優先することなどがうかがえた。実施方法は「バーコード(オフライン処理)」が75館(67.0%)で最も多く,「バーコード(オンライン処理)」が43館(38.4%)で続く。以下,ICタグ(HF帯)20館(17.9%),ICタグ(UHF帯)13館(11.6%)であった。RQ2の紛失点数は,108館から回答が得られた。点数は,0?100点が49館(45.8%),101?300点が33館(30.8%),301?500点が15館(14%)であり,500点以下の図書館数は97館(90.7%)であった。選択肢の中央値を用いて紛失率を算出すると,0.1%以下が72.9%であり,0.2%以下は93.5%であった。過去の研究と比較して,近年では盗難防止装置が普及する中,大幅に紛失率が低下していることが分かった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 松本直樹(慶應義塾大学) [まつもと なおき] 江藤正己(学習院女子大学) [えとう まさき] 須賀千絵(実践女子大学) [すが ちえ] 池谷のぞみ(慶應義塾大学) [いけや のぞみ] 発表タイトル: 公立図書館における健康医療分野の図書所蔵 サブタイトル: 4県内の所蔵状況分析による 発表要旨: (1)背景・目的 公立図書館では,課題解決支援の一環として,健康医療分野のサービスが積極的に展開されるようになってきた。健康医療分野のサービスの中で図書の貸出は中心的なものの一つである。地元の図書館で借用できない図書は,協力貸出・相互貸借によって入手される。その場合,一般に県内の図書館から借用される。しかしこれまで,県内で図書をどのように所蔵しているかに関して,必ずしもその実態は明らかにされてこなかった。そこで,本研究では,複数の県における県内の健康医療分野の図書の所蔵状況を定量的に明らかにする。その際,特に県立図書館や相互貸借網に含まれる大学図書館の所蔵にも注目する。 (2)方法 研究目的を踏まえて,以下のリサーチクエスチョン(RQ)を設定した。すなわち(1)県全体で健康医療分野の図書をどのように所蔵しているか,(2)質の高い図書をどのように所蔵しているか,(3)図書はどのように利用されているか,である。本研究では,このことを探索的に明らかにするため,特徴の異なる4県(千葉県,神奈川県,和歌山県,高知県)を選んだ。対象資料は図書館に所蔵されやすい図書1万点とした。書誌のデータは国立国会図書館サーチのOpenSearchを,所蔵のデータはカーリルAPIを用いて収集した。 (3)得られた(予想される)成果 RQ1について,各県の対象資料の所蔵率は,県内全体の蔵書規模に応じて違いがみられた。県立図書館は分担収集の実施や合築などにより大きく所蔵のあり方が異なることがわかった。RQ2について,価格は平均が1,709円から2,012円の間であった。県立図書館や大学図書館で高価格帯の図書が所蔵される傾向が見られた。索引ありの図書は,サンプルとした1万点中の図書の索引ありの比率よりもわずかながら低い県が多かった。RQ3について,公立図書館における貸出率は7%から12.6%の間であった。神奈川県は他県と比較して顕著に貸出率が高かった。出版年では,新しいものほど貸出率が高かった。価格帯では,安いものほど貸出率が高い傾向にあったが,高価格帯でも貸出率が高いところが見られた。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 安形輝(亜細亜大学) [あがた てる] 大場博幸(日本大学) [おおば ひろゆき] 大谷康晴(青山学院大学) [おおたに やすはる] 池内淳(筑波大学) [いけうち あつし] 発表タイトル: 絶版・回収措置等となった本の図書館における所蔵調査 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  従来の絶版・回収本に関する研究では、猥褻出版物や戦前の政府による検閲の対象となった事例が主として対象となっていた。しかし、実際には著作権侵害などの法的問題や、出版社の商業判断による絶版・回収が行われている。  発表者らは、絶版・回収措置等が行われた本を洗い出すためにさまざまな情報源を調査し、300件以上の本のリストを作成した。このリストの内容については日本図書館情報学会2024年度春季研究集会において発表を行った。  何らかの問題があるため、絶版・回収措置等となった本は図書館において利用に供すべきかの判断が難しい資料ともいえる。今回、絶版・回収措置等となった本が、全国の大学図書館・公共図書館等に所蔵されているかを調査し、どの程度これらの本が図書館を通じて提供されているかの実態を明らかにする。 (2)方法  さまざまな情報源に基づいて収集した絶版・回収措置等となった本のリストを対象としてカーリルを用いて、大学図書館並びに公共図書館の所蔵状況を調査した。リスト中の本については国会図書館サーチのAPIを用いて書誌情報を調査した。図書館については「日本の図書館」の統計データを用いた。館種別、地域別の所蔵状況と書誌情報の各項目、出版年と問題となった年の間隔などとのクロス集計を行い、絶版・回収措置等となった本において所蔵に影響する要因について分析を行った。 (3)得られた(予想される)成果  絶版・回収措置等となった本は出版流通からは排除され購入することは難しいが、図書館では所蔵されており、入手できる場合があることが確認された。内容が不正確、あるいは、著作権侵害等の問題があった学術書で問題の検証に時間がかかった一部の本がいまだに多くの大学図書館で所蔵されていることも明らかとなった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 池内有為(文教大学) [いけうち うい] 朱心茹(東京工業大学) [しゅ しんじょ] 浅石卓真(南山大学) [あさいし たくま] 発表タイトル: 図書館及び社会における司書課程カリキュラムの有効性 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 司書資格は公共図書館の職務を行う専門的職員のためのものであるが,専門性が十分に認められているとは言い難い。求人数は少なく,司書課程を修了しても図書館以外に就職する学生が多い。また著者らの調査により,司書課程の履修動機には「図書館への就職希望」の他にも「出版業界への就職希望」など複数あることが明らかになった。司書課程を魅力あるものにするためには,多様な履修動機を持つ学生のモチベーションを高めるカリキュラムを開発する必要がある。本研究は司書課程のカリキュラムが図書館を含む社会にとってどのような点で有効かを検証し,今後のカリキュラム開発に資する知見を得ることを目的とする。 (2)方法 2024年7月から8月にかけて,大学・短期大学で司書課程を履修して司書資格を取得した社会人を対象としたオンライン質問紙調査を行った。調査対象者はYahoo!クラウドソーシング及び個人的な依頼により募集した。 主な調査項目は(1)司書課程で学び興味関心を惹かれたことや現在の仕事に役立ったこと,司書課程ではあまり学ばなかったが興味を惹かれることや現在の仕事のために学びたかったこと,(2)司書課程の履修動機,(3)履修意欲,(4)属性情報である。(1)は先行研究及び予備調査で得た34名の回答から作成した(39項目)。(2)は著者らが開発した司書課程履修動機尺度を用いた(24項目)。 (3)得られた(予想される)成果 クラウドソーシングの有効回答238件を分析した結果,図書館への就職経験がある者(38.2%)は無い者と比較して履修意欲が有意に高く(r=.392, p<.01),「司書課程の内容が将来の生活に役立つと思った」等の履修動機も強かった。カリキュラムは「図書や図書館の歴史」(興味を惹かれた52.7%,仕事に役立った50.5%)「利用者の情報ニーズの把握」(仕事のために学びたかった22.0%)の選択率が高かった。また職種に関わらず「コンピュータ等に関する知識や技術」は選択率が高かった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 福島幸宏(慶應義塾大学) [ふくしま ゆきひろ] 宮田洋輔(慶應義塾大学) [みやた ようすけ] 発表タイトル: デジタルアーカイブを学術文献における利用から評価する サブタイトル: Europeanaを対象に 発表要旨: (1)背景・目的 本研究では、デジタルアーカイブが実際にどの程度研究論文等に利活用されたかを検討する。それによって、デジタルアーカイブの評価手法を豊富化することを目指す。2023年9月にデジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会が公開した「「デジタルアーカイブ活動」のためのガイドライン」には、運営者のためのアセスメントツールが含まれている。このことに象徴されるように、デジタルアーカイブの評価手法の確立は喫緊の課題となっている。報告者はこの課題に関心を持ち、2023年の日本図書館情報学会春季研究集会で「ハイパーリンクを用いたデジタルアーカイブの評価」を報告した。これは、取得したハイパーリンクの統計情報と、デジタルアーカイブの諸属性を組み合わせて分析を行ったものである。本研究では、この2023年の報告に続き、デジタルアーカイブの評価手法を利活用の面から試みる。 (2)方法 本研究では、著名なデジタルアーカイブの一つであり、一定量の学術文献での利活用が期待できる、欧州委員会によるデジタルアーカイブポータルEuropeanaを対象とした。Google Scholarの検索機能を用いて、Europeanaに関連する検索結果約12,000件を収集した。ここからDOIを持った学術雑誌論文と会議録論文約4,000件を抽出した。分析にあたり、抽出した文献に対して、Europeanaに対する言及の方法(Europeanaのデータを利用している、Europeanaに言及している、その他)を2人の研究者が人手で判定した。文献に対する判定結果と、出版の場(雑誌名、会議録名など)、言語などにおける時系列的な変化の関係を分析した。 (3)得られた(予想される)成果 本研究によって、学術文献におけるEuropeanaの利活用の現状を明らかにする。またデジタルアーカイブを学術論文における利活用から評価するための方法論の可能性を示す。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 青野正太(駿河台大学) [あおの しょうた] 発表タイトル: 公共図書館におけるビジネス支援コーナーの分析 サブタイトル: 設置場所,提供する情報資源の観点から 発表要旨: (1)背景・目的 公共図書館のビジネス支援サービスにおいては,実施する図書館の多くがビジネスという主題に特化した情報源を集約したビジネス支援コーナーを設置している。当該コーナーの設計は,ビジネスにかかわる情報提供を行うビジネス支援サービスの展開,実施にとって大きな意味を持つものであるにもかかわらず,詳細な調査,分析が行われていない。そこで本研究ではビジネス支援コーナーがどこに設置され,どのような情報資源が提供されているかを訪問調査により明らかにする。 (2)方法 コーナーを設置している関東圏(東京都・埼玉県・神奈川県・千葉県)に位置する市区立図書館38館に対して訪問調査を実施し,以下の4点の観点で分析を行った。(1)設置されている図書館と立地,(2)館内でのコーナーの位置,(3)提供されている情報資源(@区分(一般図書,参考図書,雑誌,新聞データベース),ANDC分類に基づく主題),(4)コーナー近隣でのパンフレット類配布の有無とその内容(頒布者,主題)。調査時期は2022年10月〜2024年8月である。 (3)得られた(予想される)成果 2024年8月7日現在,調査結果を分析中であるが,以下のような成果が得られると予想される。(1)設置されている図書館と立地については,駅の近くや市役所・区役所に近い館に置かれ,人の往来が多いところや産業振興部局との連携上都合がよい所に設置される傾向にあった。(2)館内でのコーナーの位置については,館内の目立つ所に設置するケース,レファレンスカウンターの近くに設置するケースがみられた。(3)提供されている情報資源については,一般図書は主題(キーワード)から選んでいるケース,NDCからコーナーに必要なものを選択しているケースがみられ,地域資料や行政資料は対象になることが少ない傾向にあった。(4)コーナー近隣でのパンフレット類配布の有無とその内容については,9割を超える図書館がコーナー近隣でパンフレットを配布しており,都・県の産業振興部局の就労部門や起業支援部門のパンフレットが配布される傾向にあった。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 庭井史絵(青山学院大学) [にわい ふみえ] 稲垣忠(東北学院大学) [いながき ただし] Alexander Maas(東北学院大学) [アレクサンダー マース] 登本洋子(東京学芸大学) [のぼりもと ようこ] 発表タイトル: 探究学習で利用される資料の種類と記録法 サブタイトル: 情報収集支援システム開発に向けた予備的調査 発表要旨: (1)背景・目的  探究学習における情報収集では,図書,ウェブサイト,雑誌記事等のさまざまな資料が利用される。学習者がどのような情報を利用したかは,成果物の参考文献リストによって確認できるが,これは主に事後的な指導や振り返りに活用される。一方,収集した資料の種類や内容を学習者と指導者の双方が適宜確認できれば,教員や学校図書館担当者による時宜を得た指導・支援と,学習者自身による自己調整が可能となり,より効果的な情報活用が期待できる。そのためには,アクセスした情報を簡便に記録し,必要な要素を可視化する仕組みが必要である。本研究は,中高校生が探究学習の過程で利用する資料を蓄積・可視化し,適切な支援を受けたり,省察したりできるようなシステムの開発を目指し,その基盤をつくることを目的としている。具体的には,@利用が想定されている資料の種類と記録すべき書誌的要素,A適切な資料の利用や使い分けを意識するために必要な情報,の二つを明らかにすることを目指す。 (2)方法  中学生と高校生,指導者を対象に発行されている探究学習ガイドブック48冊の記述を分析し,探し方や使い方が紹介されている資料の種類,それぞれの資料を記録する際に求められる書誌的要素を整理する。また,資料の特性や利用する目的に関する記述から,適切な資料の利用や使い分けに寄与する情報を明らかにする。 (3)得られた(予想される)成果  探究学習で利用が想定されている資料の種類とそれらの記録方法が明確化されることで,情報収集活動の蓄積・可視化を支援するシステムに必要な要素が具体化される。また,探究の段階に応じて資料を効果的に使い分けるために可視化すべき要素も明らかになると予想される。本研究に先立ち,探究学習における情報収集活動をメディア(種類),内容(難易度),内容(分野),時系列の4つの軸で把握するシステムの概念モデルを構築しており,本研究の成果が,資料の種類や内容の可視化方法に示唆を与えると考えられる。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 前田稔(東京学芸大学) [まえだ みのる] 武井綾乃(東京学芸大学) [たけい あやの] 発表タイトル: 教員採用試験における司書教諭有資格者の加点・配慮状況 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  東京学芸大学の多彩な教育活動には、1年生対象の教員免許選択科目「学校図書館で深める主体的な学びのデザイン」、初年次教育での学校図書館訪問、附属中学校の学校図書館で毎週昼休みに活動するゼミ、4年次1年間の学校司書実習がある。なかでも、司書教諭資格科目については、対面で5科目を毎年実施する現職向けのほか、学部学生は各科目2枠計10枠を選択可能である。  2016年のことであるが、カリキュラムのスリム化の要請に伴い、枠数維持の根拠が必要となった。全学生の受講機会確保の重要性を学内に示すために加点状況を調査することになった。八洲学園大学が常時更新している公表電話調査結果によると同年では33箇所で加点されていた。筆者は独自に各自治体の募集要項も調査した。結局のところ2枠は維持されたが、八洲学園大学の2022年の調査では全66箇所のうち51箇所へと増加している。教員採用試験の早期化の動向もあり、改めて調査をした上で、今回発表することにした。 (2)方法  各採用単位の教育委員会の募集要項を参照し、司書教諭の有資格者や資格取得見込みの者が有利になる状況を抽出したうえで、改めて2025年度採用者の募集要項を形態別に分類した。 (3)得られた(予想される)成果  (a)加点が明示されている、(b)明示はないが全くの無関係とも言えない、(c)司書教諭資格が無関係である募集要項の3種類が存在した。(a)に関しては、1次試験・2次試験・総合点・明示なしに分けられた。(b)について、履歴書欄に司書教諭資格の有無の記載欄が存在する自治体があった。  その他、例えば加点の点数、加点の方法、取得見込みを含むか、後日の免状提出が必要か、加点に上限はあるか、加点申請書が必要か、提出方法、校種により加点が異なるか、複数免許以外の軽減があるか、写しで良いか原本か、取得見込みの場合はいつまでに提出が必要か、といった点からも整理できた。  地方において有資格者確保が深刻な課題となっている。学部在学中における資格取得見込みが加点にならない自治体への働きかけと、現場のニーズにあった養成が必要であろう。本発表を通じて国家資格としての司書教諭資格取得を奨励する重要性への認識が各大学および学生において高まることを期待したい。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 是住久美子(筑波大学大学院) [これずみ くみこ] 発表タイトル: 公共図書館と市民との協働による地域デジタルアーカイブの特徴 サブタイトル: なし 発表要旨: (1)背景・目的 現在、公共図書館の地域デジタルアーカイブの重要性が増し、多様な活動が生まれている。本研究の目的は、21世紀の日本における公共図書館と市民との協働による地域デジタルアーカイブの特徴を、事例分析によって解明することである。研究課題は、1) 公共図書館と市民との協働による地域デジタルアーカイブの実態はどのようなものか、2) 地域デジタルアーカイブに市民はどのように関わっているのか、である。 (2)方法 まず、システマティック文献レビューを実施した。CiNii Research、カレントアウェアネスポータル、および新聞データベース(朝日、読売、毎日、日経)を用いて、「図書館+アーカイブ」とそれに関連する18のキーワードを組合せて検索し、合計17,289件の文献情報を取得した。次に、タイトルと抄録から無関係な文献を除外し、2,033件を選定した。この選定した2,033件について本文を目視で確認し、著者が設定した基準に合わない文献(例:「公共図書館の関与が確認できない」、「市民協働の要素が確認できない」等)と、重複文献をさらに除外した結果、291件の文献が分析対象となった。これらの文献を精読し、事業主体ごとに44の事例に整理した 。最後にこの44件を対象に事例分析を行い、代表的な事例をより詳細に分析した。 (3)得られた(予想される)成果 分析の結果を主に1)デジタルアーカイブの運営、2)コンテンツ作成、3)主題という視点から整理した。デジタルアーカイブの運営の視点のうち、プラットフォームの項目では、単独での構築と県域及び圏域での共有があった。コンテンツ作成の視点では、所蔵する原資料や民話等のデジタル化作業を、市民協働で行う事例が多かった。また、古文書の翻刻や、写真の位置情報等の付加データを市民が付与する事例や、取材と調査によって、市民自らが新たな地域情報の生成を行う事例がみられた。主題の視点からは、主に古文書や絵地図、現代の写真等を含む「地域の記憶・思い出」を対象とする事例と、震災や災害等の「体験談・教訓」を対象とする事例がみられた。結論では、詳細な事例分析によって、地域デジタルアーカイブに市民がどのように関わっているかを論じる。 ----------------------------------